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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 塔のあれこれ(その16)

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(5)神域(自然)

 考助が作る神域は、外から物を持ち込まない限りは、基本的には何も存在していない。
 勿論、生物が生きていくうえで必要な空気などは別だ。
 新たに作った三つめの神域で、考助は頭を悩ませていた。
 新たに神域を作り何かを悩み始めてからすでに一時間以上が経過している。
 その間、ほとんど動くことなく悩ましい表情をしていた考助に、さすがにもういいだろうと見計らったコウヒが話しかけた。
「主様、先ほどから何を悩まれているのですか?」
 その問いかけに、考助がコウヒを見た。
「うん。この殺風景な世界をどうにか改変できないかなと悩んでいるんだけれどね。どうすればいいのかさっぱりわからなくて・・・・・・」
 首を左右に振りながらそう言った考助に、コウヒは目をぱちくりとさせた。
「それは、この場所に自然を置きたいということですか?」
 すでに作っている他のふたつの神域は、物置と移動の中間地点としての役目を持たせているため、いくつかの道具が置かれている。
 今更そうした道具などの生活に必要な物を置きたいということではないと理解したコウヒは、考助にそう問いかけた。

 コウヒのその推測が正しかったため、考助はすぐに頷く。
「うん。アスラの神域とまではいかなくても、小さな庭くらいは造れないかなと思ってね」
 考助が普段の生活の拠点を置いているのは、管理層になる。
 管理層には、生活するためのスペースはいくらでも用意することができるが、いわゆる『外』という概念がない。
 要するに、いま考助が言った庭に該当するようなスペースがないのである。
「なぜ、今更そのようなものを?」
 考助が管理層で暮らすようになってからすでに二十年以上も経っている。
 コウヒは、今になってそんなことを考助が言い出したことを不思議に思ったのだ。

 そんなコウヒに対して考助はばつが悪そうな表情になった。
「特に意味はないんだけれどね。自然があるところに行きたければ、塔の階層に行けばいいだけだし・・・・・・」
 そのもっともな考助の言い分に、コウヒも頷いた。
 だからこそ先ほどのような疑問が出てきたのだ。
「最初はただの思い付きで出来るかなと考えていたんだけれどね。中々上手くいかなそうだから悩んでいたら、いつの間にか時間が過ぎてた」
 何とも考助らしいその言葉に、コウヒはクスリと笑った。
 ひとつのことに集中して悩んで時間を忘れるのは、考助にとってはいつものことだ。
 だからこそ寝食を忘れて魔道具を作ったりすることになったりするのだが、いつもそれを止めるのはコウヒやミツキの役目なのだ。

 もっとも、今回はまだまだそんな状態になっていないため、止める必要はない。
 むしろ、なぜ気付いていないのかとコウヒは、とある助言をすることにした。
「主様がなぜ気付いていないのか不思議ですが、妖精たちを使えばいいのではないですか?」
「えっ!? 妖精を?」
 まったく思いつかなかったという顔をした考助を見て、コウヒは心の中でああと納得していた。
 最近ではすっかり忘れがちになっているが、考助はそもそもこの世界の住人ではない。
 当たり前のように知っていることが、すっぽりと抜け落ちていることもあるのだ。
「この世界の自然は、精霊によって支えられていることはご存知ですよね? 妖精はその精霊たちを統べる存在です。主様の眷属となっている妖精であれば、この神域でも力を発揮できるのではないでしょうか?」
 流石に自ら神域を作れる存在など、コウヒは考助とアスラのふたりしか知らない。
 そのため、はっきりと断言することはできなかったが、コウヒはそう助言することにしたのである。

 コウヒの助言を聞いた考助は、ぽかんとした表情を見せた。
「妖精たちに・・・・・・? いや、確かに言われてみればそうなんだけれど、なぜ思いつかなかったし・・・・・・」
 そう言いながら考助は頭を抱えた。
 今まで悩んでいた一時間という時間を返してほしいと思ったが、勿論それを口にすることはしない。
 そんなことを言ってもコウヒが困るだけだし、なにより自分で思いつかなかったのが悪いと分かっている。

 思いっきりため息をついた考助は、首を左右に振って四人(?)の妖精を呼び出すことにした。
「シルフ、サラ、ディーネ、ノール。出てきてくれるかい?」
 考助がそう声をかけると、呼ばれた妖精たちが一斉に姿を見せた。
「兄様、お久しぶり~」
 と、右手をひらひらさせたシルフを筆頭に、それぞれの妖精たちが思い思いの挨拶をしてくる。
 考助にとっても四種の妖精を一度に呼び出すのは久しぶりのことだ。
 危険なモンスターの素材が必要なときは、基本的にコウヒかミツキに頼むのがほとんどなので、考助自身が大きな戦闘に巻き込まれることはない。
 そして、そうした戦闘が無い限り、わざわざ妖精たちを呼び出すような要件もなかったのだ。
 少なくともこれまでは。

 考助は呼び出した妖精たちに、要件を話した。
「・・・・・・というわけで、この空間に自然を作ってほしいんだけれど・・・・・・できるかな?」
「できるよ~」
「問題ない」
「大丈夫です」
「(コクリ)」
 考助の確認に、妖精たちはそれぞれの言葉で返事を返してきた。
 そのあっさりとした答えに、考助は思わず苦笑した。
 こんなにすぐに返事が来るのであれば、最初から聞いておけば良かったと思ったのだが、そもそも悩んでいるときは思いつきもしなかったのだからどうしようもない。
 今更な反省をした考助は、すぐに首を左右に振ってそれを忘れて、妖精たちに指示をした。
「それじゃあ、お願いしていいかな? 何をどう配置するかは、それぞれに任せるよ」
 どうせ自分が指示しても碌なことにならないと考えて、何をどうするかは妖精たちに丸投げにすることにした。
 変に自分が口を出しても環境がめちゃくちゃなことになりそうだったのだから、専門家に任せた方がいいと考えたのである。

 その考助の指示に従って、妖精たちは考助が作った神域の中央辺りまで飛んで行った。
 いまいる神域の大きさは、大体小学校の体育館くらいの大きさだ。
 そのため、離れた場所に飛んで行ったと言っても視認できないほど遠くに離れるわけではない。
 考助が見守る中、飛んで行った妖精たちが、一度止まったかと思うとすぐにその場でくるくると回り出した。
 考助には何が行われているのかは分からないが、彼(女?)らにとっては必要な儀式なのだということはわかるため、邪魔にならないようにジッと見守るだけだ。
 やがて、妖精たちがそれぞれの色で輝きだしたかと思うと、その四色の光が竜巻のように上に向かって渦を巻いていく。
 その渦が空高く伸びたと思った瞬間、渦が光を発してその光が神域中に広がって行った。
 そして、神域中に散らばった光が地面に落ちると、人工的な素材でできていた地面が土に代わり、その上には巨大な魔法陣が出現した。
 魔法陣はほんの数秒ほどその場で様々な光で点滅を繰り返していたが、やがて地面から離れるようにひとりでに浮き上がって行く。
 その魔法陣の上昇に合わせて、今度は地面から多種多様な植物が芽を出して成長していった。

 魔法陣が空中で消え去ったときには、ただの空間だった神域には自然ができていた。
 その一連の流れを呆然と見ていた考助のところに、四種の妖精たちが近寄ってくる。
「できたよ~。褒めて褒めて」
「上出来」
「何かご不満はありますか?」
「(ジー)」
 嬉しそうにそう言ってきた妖精たちを見て、考助は一度だけ大きく息を吐いてからにっこりと笑った。
「いいや。思っていた以上だよ。・・・・・・ああ、そうだ。ご褒美に何か欲しい物はあるかい?」
 思い付きでそう言った考助だったが、妖精たちは途端にまじめな表情になり、一か所に集まってこそこそと相談し始めた。
 考助もそれを邪魔することなく見守っている。
 やがて何にするのか決まったのか、シルフが近寄ってきた。
「ご褒美は、神力がほしい!」
「神力? そんなんでいいの?」
「うん! 実は、いまの作業でたくさん力を使っちゃったから、もらえるならとても嬉しいの」
「なるほどね。分かったよ。みんなに神力を分けてあげるよ」
 シルフの言葉に納得の表情を見せた考助は、すぐに妖精たちに自分の神力を分け与え始めた。

 このあと、満足げな表情で管理層に戻った考助が、シルヴィアたちに問い詰められてこの神域のことを話して全員に引かれることになったのは言うまでもない。
考助(妖精たち)が、またやらかしました。
作ったときは考助は気付いていませんが、新しい世界を作ったのに等しいです。
最後のいつものパターンで分かるかと思いますが、当然ながらシルヴィアたちは気付いていますw
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