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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 塔のあれこれ(その16)

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(4)孫

 第八層の新しく作った三つの神社は、無事にユリの力を定着させることに成功したと報告があった。
 考助があと出来ることは、神社が痛まないように予定通りにサラサたちを派遣するだけだ。
 セシルやアリサはともかく、サラサには引き継ぎが発生しているのですぐに神社の管理者となるわけにはいかなかったが、いずれは来ることがわかっているので十分である。
 もっとも、本人はすぐにでも関わりたいようだったが、それはガゼランたちに全力で止められて渋々と承知していた。
 そして、それらの引き継ぎも終わり、サラサが第五層の別荘と合わせて百合之神宮に関わるようになってひと月ほど経つと、すでにその環境が当たり前のように思えるようになっていた。

 第八層が新しい環境になってからしばらくして、考助はフローリアとともに、トワの訪問を受けていた。
 今回は、トワと一緒にダニエラとその子供が来ている。
 トワの子は、トビと名付けられてひと月ほど前に無事に生まれていたのである。
 生まれてからひと月待っていたのは、トビのこともあるが、母親であるダニエラの負担のことを考えてのことである。
 トビが管理層に来ることは初めてのことだが、新しい環境が物珍しいのか、ダニエラの腕の中できょろきょろと目を動かしていた。
「順調に育っているようで、何よりだな」
「はい。おかげさまで」
 トビに視線を向けて愛おしげに微笑んだフローリアがそう言うと、ダニエラは頷きつつそう答えた。
 その笑顔は、完全に母親のそれとなっている。
 考助にとってもフローリアを筆頭に何度も見てきた女性の変化だが、その言葉で表すことのできない幸せそうな顔を見れば、やはり嬉しくなってくる。

 そんな考助の思いを感じ取ったわけではないだろうが、フローリアがトビを見つめながら感慨深げな表情になった。
「しかし、私にとっては初孫ということになるが、やはり子供のときとは違った感情が出るものなのだな」
「そうなのですか。そういえば、わたくしの母もそのようなことを申しておりました」
 ダニエラのその言葉に、フローリアは頷きながら目を細めてトビを見る。
「皆が同じようなことを言っていてそんなものかと思っていたが、自分で実感するとこうも違うものか」
 子供と孫では同じ血縁といっても、受ける感情は全く違っているという話は、だれもがすることだ。
 ただ、当然というべきか、こうして実際にトビを目の当たりにすることによって、フローリアもそれが実感できたというわけだ。

 フローリアの隣で話を聞いていた考助も、同じように感じているため、同意するように頷いた。
 同時に、自らの血を次の世代に繋いでいくということはこういうことか、ということも実感していた。
「・・・・・・今のところは何事もなさそうだけれど、このあともきちんと注意深く見るようにね」
 自分のことを棚に上げて何を言っているのかと考えた考助だったが、これは非常に重要なことだ。
 トワの顔を見ながらしっかりと忠告だけはしておいた。
 考助の直接の子供たちは無事に育ったが、その孫になるとまだどうなるのかわからない。
 トビが初めての実例になるので、しっかりと見守っていかないといけないのだ。
 ダニエラから不安そうな視線を向けられたトワは、当たり前だという顔をして頷いた。
「勿論です。緊急の事態が発生すれば、神力念話でも飛ばしますよ」
「そうだね。それがいい」
 トワは、自分が神力を扱えると知ったときから、フローリアから神力念話の使い方を教わっていた。
 階層を飛び越えて連絡ができる神力念話は、こういったときには便利なのである。

 トワと考助の会話に、ダニエラが不安そうな顔を隠さずに混ざってきた。
「あの・・・・・・前もって知ることはできないのでしょうか?」
 何のことかは言うまでもない。
 トワの血を引いているトビが、どういった変化を起こすのか、種族も含めて何かが起こる可能性があるのだ。
 考助の子供たちと同じような心配をトビにもしなくてはならない。
 そのダニエラの問いかけに、考助は少しだけ驚いた表情をしてトワを見た。
「言ってなかったの?」
「いえ。ただ、一応話はしましたが、頭で理解はできても納得ができないようでして・・・・・・」
 困った表情を浮かべてそう言ったトワを見て、考助も同じような表情をすることしかできなかった。

 そのふたりを見て、ダニエラが何かを言おうとするよりも早く、フローリアがダニエラを見ながら言った。
「ダニエラ。そなたの気持ちはよくわかる。私も経験したことだからな。ただ、こればかりは誰を責めても仕方ない。何しろ神々でさえ分からないことなのだからな」
「・・・・・・そうなのですか?」
「うむ。というか、そこはトワも知らなかったのか。いかに神々といえど、全てのことを見通すことなどできない。ましてや、トビは考助の血を直に引いているのだからな」
 神々にも分からないとフローリアに言われたダニエラは、諦めたように肩を落とした。
「そんな顔をするな。敢えて気付いてないふりをしているのかもしれないが、そもそも生まれたばかりの赤ん坊が、神々から直接見守られることなどそうそうないことなのだぞ?」
「え?」
 フローリアの言った言葉の意味が分からずに、ダニエラが目を瞬いた。
「なんだ。そのことも説明していなかったのか?」
「いえ、説明も何も、私は聞くのが初めてですが?」
 トワが驚くのを見た考助とフローリアは、顔を見合わせた。
「「言ってなかったっけ(か)?」」
 ふたり揃って目を丸くしているのを見たトワは、がっくりと肩を落とすのであった。

 呆れたような視線を向けてきたトワに、考助とフローリアは一度顔を見合わせた。
「しかし、神が関わることだが、気軽に話してもいいのか?」
「いいと思うよ。何よりトワもダニエラも当事者だろうし」
「そうか。だったら話しておいたほうがいいだろうな」
 トワとダニエラが、自分の子供が神々に見守られていることを不用意に口にしたりしないと分かっているからこそ、フローリアはそう言いながら続けた。
「トワ、そなたのときもそうだったんだが、考助の血縁であるということは、神々に見守られるということと等しい」
「ということは、ミアたちも」
「当然、神々に見守られているさ。成長したから終わったという話も聞いていないしな」
 そう言いながらフローリアは、確認するように考助へと視線を向ける。

 フローリアに見られた考助は、同意するように頷きつつダニエラを見た。
「神々から見守られているのは、何も危険なことがあるだけじゃない。トビがそれだけの価値があると思われているというのも当然あるからね」
「うむ。・・・・・・わかっていると思うが、下手にこの話はしない方がいいぞ? 私のような目に合わせたくなければな」
 トワもダニエラも、フローリアがなぜこの管理層に来ることになったのか、本人からもアレクからも聞いている。
 神々から寵愛を受けるということは、この世界においては多大な影響を受けるのだ。
「まあ、そういうわけだから、あまり心配はしなくていいよ。それよりも、普通の子たちと同じように、病気にかからないように心配したほうがいい」
「そうだな。私も色々と身構えていたが、結局何事も起こらず普通の子育てと変わらなかったしな。・・・・・・だからといって油断はできないが」
 考助の子たちが何事もなく無事に成長したからといって、孫たちも同じように順調に育つとは限らない。
 結局、成長するまでは分からないのだ。
「考助の血を引いていてもいなくても、結局のところ子供を育てるというのは手かかかるものだ。あまり心配しすぎても意味はないと思うぞ?」
 三人の考助の子供を育てあげたフローリアの実感を伴った言葉に、ダニエラは神妙な表情で頷くのであった。
先駆者フローリアから貴重な助言をもらったダニエラでした。
初めての子供なので、色々と不安がいっぱいです。

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書籍第三巻の発売日が決定いたしました。
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