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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 第五層の街

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(15)南国の食べ物

ほのぼの回
 考助が屋台に並んでいる商品を物色していると、そのうちのひとつの店番をしていた女性が話しかけてきた。
「おや。随分と仲のいい夫婦だねえ。羨ましいこと」
 そう言った女性店主の視線は、考助の腕に絡められているシルヴィアの腕に向いていた。
 早い話がいまの考助は、シルヴィアと腕を組んだ状態で町中を歩いているのだ。
 勿論、ふたりきりというわけではなく、コウヒとナナも一緒についてきているが、基本的にどちらもそのことについて口を出してくることはない。
 結果として、完全にデートの様相を呈しているため、女性店主の言葉は的を射ているのだ。

 女店主の言葉に、シルヴィアが笑顔を浮かべた。
「あら。そう見えますか?」
「何を言っているんだい。あんたらが夫婦じゃなかったらなんだってんだい?」
 周囲から見れば、ごちそうさまとしか言いようないふたりを見ながら、女店主は肩をすくめた。
 ちなみに、女店主の言葉には、隣で別の屋台を開いている店主も大きく頷いている。
 夫婦ではなく、恋人だという可能性もあるが、例えそうだったとしても基本的に恋人と言われるよりも夫婦と言われた方が喜ばれるものだ。
 女店主もそのことがわかっていて言っている。
 その目論見通り、シルヴィアは上機嫌な顔になっている。
「あらら。ありがとうございます」
「何。言うだけならタダだからね。これで店のものでも買って言ってくれればいう事なしだ」
 ちゃっかりしている女店主の言葉に、シルヴィアが隣の考助の顔を見て、見られた考助は苦笑しながら屋台にある商品に目を向けた。

 女店主が屋台で出しているものは、クレープのような食べ物だった。
 中に入れられる具材は、小さめの屋台にしてはかなりの種類が用意されている。
 考助がそれを見て感心している横で、シルヴィアがすでに何を入れるか検討し始めていることに苦笑しつつ、考助は女店主に気になったことを聞くことにした。
「それにしても、南国の果物とか食品が多くありますね」
「ああ、それもこれも第四層のお陰だね」
「第四層? ・・・・・・ああ、そういうことですか」
 女店主の言った意味が分からずに、一瞬首を傾げた考助だったが、すぐに理解して頷いた。

 数年前、考助はラゼクアマミヤとクラウン(トワとシュミット)からの要請を受けて、第四層の環境を大々的に変更していた。
 最初にとある相談を受けたのだが、その内容とは、塔の中でも南国の作物が育てられるようにできないかというものだった。
 トワは勿論、塔の階層が管理者の好きな環境に変えられることを知っている。
 それを目に付けたトワが、階層の環境を変化させて常夏の状態にしたうえで、南国の作物を育てようと考えたのだ。
 この計画が上手くいけば、理論上は塔の中だけで、あらゆる作物を育てることができるようになる。
 国を運営していくうえでも、クラウンという組織を運営していくうえでも、無視できない成果を得ることができるのだ。

 トワから依頼を受けて環境を変えてからしばらくたっていたため、考助はすっかり忘れていたのだが、どうやら第四層の環境を変えた成果が実を結んだらしいと分かったのである。
「こうして屋台に出せるほどの値段で出回るようになったのですね」
 いくら作物が作れるようになったとはいえ、屋台に出せる値段にできるようにするためには、ある程度の数を生産しなければならない。
 逆をいえば、そうした作物がこうして屋台に出回っているということは、量産ができているということになる。
「ああ。今年の春辺りから一般にも安定して出回るようになってねえ。お陰で屋台でも出せるようになったってわけさ」
「なるほど。それは、店主としてもうれしいでしょう」
「こっちにしてみれば、商売のタネだからねえ」
 ハッハッハと豪快に笑った女店主に、考助も「それはよかったですね」と相槌を打つのであった。

 考助が女店主と話をしている間に、シルヴィアは中に入れる具材を決めたようで、話が途切れた隙に注文をしていた。
 シルヴィアが注文を終えたあとに、考助は悩むでもなく、適当に食べたい物を選んでシルヴィアと同じように注文を行う。
「はいよ。・・・・・・それにしても、ずいぶんと豪華な内容だが、大丈夫なのかい?」
 考助たちのいまの見た目は、中流階級くらいの服装でしかない。
 それにもかかわらず、ひとつの屋台で注文するには豪華な内容になっていたので、女店主がそう聞いたのだが、それに対して考助は笑顔になった。
「懐の心配なら大丈夫ですよ。何でしたら、この屋台を買い占めましょうか?」
「ハッハッハ、そりゃあ、いい。是非ともやってもらいたいもんだね」
 再び豪快に笑った女店主に、考助も小さく笑みを返した。
 実際、考助は屋台の一日分を買い占めたとしても、懐が痛まないだけの財産がある。
 ただ、わざわざ女店主が冗談だと笑い飛ばしてくれたものを、わざわざ否定するつもりもなかった。
 一応、これでも、考助は自ら災いの種をまかないように、注意はしているのである。
 ・・・・・・その注意が、実を結んでいるのかは別にして。

 
 屋台の前で注文したものを食べきった考助たちは、再び街の中を移動していた。
 特にどこかに向かっているということはなく、ぶらぶらと街を見ているだけだ。
 それでもシルヴィアとしては楽しんでいるらしく、考助は内心でほっとしていた。
 何年たっても何度やってもデートで何をすれば喜んでくれるのか、考助にはさっぱりわからないのだ。
 そんな考助の葛藤はともかくとして、シルヴィアとのデートは順調に進んでいった。
「それにしても、改めて随分と成長しましたね」
 何のことかは具体的に言わなくとも、考助には分かった。
 シルヴィアの視線の先を追えば、ずっと続いている道路の先を見ていたためだ。
「正直、ここまで大きくなるとは思っていなかったけれどね」
「そうなんですか?」
「そりゃあね。最初の頃は、村くらいになればいいと思っていたからね」
 これは、考助の偽らざる本心だった。
 塔を攻略したばかりのあの頃は、数百人単位で人を呼び込んで、冒険者が活躍できる環境が整えられればいいと考えていた。
 まさか国を作ることになるなんてことは、かけらも考えていなかったのである。
 それが、あれよあれよという間に、ここまで大きくなってしまった。
 考助からすれば、いい意味での誤算だったのだ。
 もっとも、考助にとっての一番の誤算は、現人神なんていう存在になってしまったことなのだが。

 そんな考助の考えを読んだわけではないだろうが、シルヴィアが意味ありげな表情で小さく笑った。
「私もそのころは、神に直接お仕えすることになるなんてことは考えてもいなかったですよ?」
 そういったシルヴィアの答えるように、考助も小さく「プッ」と噴き出した。
 シルヴィアであれば、いつかはエリスあたりの姫巫女になることもあったかもしれないが、いまとなってはそれを考えても仕方がない。
 何しろ、現人神であり夫でもある考助の傍にいるのだから。
「それはまあ、そうだろうね。・・・・・・そうなると、あのときのシルヴィアの慧眼には、脱帽といったところかな?」
 考助とシルヴィアが出会ったとき、あの騒ぎでシルヴィアが割って入ることがなければ、今の未来はなかったかもしれない。
 そう考えれば、考助のいうこともあながち間違ってはいないのである。
 もっともそれは、シルヴィアに言わせると別の見方をすることができる。
「褒めてくださるのはありがたいですが、別にこうなることがわかっていたわけではありませんからね」
「それはそうだよ。そんな未来まで見通せたら、それこそ神様と言われてもおかしくはないだろう?」
 考助のおどけた台詞に一瞬だけ驚きに目を見開いたシルヴィアだったが、すぐに小さく噴き出した。
 それを見ていた考助も、同じように笑って応えるのであった。
シルヴィアとのデート回でした。
何となく思いついたので、書きました。
南国の階層のことを報告がてらで書いても面白くないですしね。
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