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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 第五層の街

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(9)レンタル店

 ふたつの魔道具を作った考助は、早速それをシュミットとガゼランのところへと持って行った。
 ガゼランがいるのは、基本的にどちらの魔道具も冒険者向けになっているからだ。
 ふたりに魔道具を見せている場所は、クラウン本部ではなく管理層の会議室になる。
 今は、第五層でまじめに(?)冒険者として活動しているので、変に疑われるのを避けたいということがある。
 考助に新しい魔道具ができたと呼ばれたシュミットは、最初は期待に顔を輝かせていたが、今は商人の顔になっている。
 考助から一通り使い方を教わって、本当に売り物になるかどうかを吟味している顔だった。
 ただ、考助が前もって予想していた通り、あまりシュミットの食いつきはよくはなかった。
 今までの革新的な魔道具と違って、広く売れるようなものではないので、当然といえば当然といえる。
 それとは逆に、ガゼランは興味深そうに魔道具を見ていた。
 もともと生え抜きの冒険者だったガゼランは、ふたつの道具の利便性がよくわかっているのだ。
 勿論、シュミットも冒険者が楽になる道具だということはよくわかっている。
 ただ、あまり多くの利益が上げられるわけではないので、冷静に見ることができているだけだ。

 一通り触り終わったシュミットが聞いてきた。
「確かに、一定の需要はありそうですが・・・・・・どれくらいで売ることを想定されていますか?」
「ん~。逆に、どれくらいだと売れるかを聞きたいんだけれどね。ちなみに、原価はこれくらいかな?」
 そう言って考助が提示した値段を見て、シュミットもガゼランも芳しくない表情になった。
 どちらの魔道具も駆け出し冒険者が買うことを想定しているが、それにしては高すぎる値段だったのだ。
 勿論、中堅クラスの冒険者であれば買えるだろうが、そのクラスになってくると、荷物運びも畑荒らしの討伐もわざわざ受ける必要がない依頼なのだ。
「さすがにその値段だと買える奴らは少ないぞ?」
「そうですね。便利なのはわかりますが、その値段を払うのであれば自力で頑張るという人が多いでしょうね」
 ふたりのダメ出しに、考助は特に顔色を変えたりはしなかった。
 こう言い出してくるのは、予想の範疇だったのだ。
 何しろ、きちんと依頼を受けたうえで思いついた道具だ。
 なり立て冒険者が、どれくらいの依頼料を受け取っているかは、きちんと把握している。
 それを考えれば、いま言った値段に手が出ないことは考助にも分かる。

 ただし、だからといってこれ以上の値段を下げるという選択肢は考助にもない。
「そうだろうけれどね。使っている素材から考えても、これ以上下げるのは無理だよ?」
「まあ、そうでしょうね」
 考助の言葉に、シュミットも頷いた。
 外側で使われている素材を見ても、いま考助がいった値段がぎりぎりの設定だということはシュミットにも分かる。
 そして、だからこそ先ほどからのシュミットの反応も今一つなのだ。

 それがわかっている考助は、視線をガゼランへと移した。
「というわけで、ガゼランを呼んだ意味が出てくるわけなんだよね」
「どういうことだ?」
 ガゼランは単純に、冒険者に役に立つのかどうかを確認するために呼ばれたと思っていた。
 そのため、考助がなぜそんなことを言い出したのか、分からなかったのだ。
「冒険者部門で、この魔道具を買わないかってこと」
 考助が考えているのは、冒険者部門が買うことによって依頼を受けた冒険者に貸し出せないかということだ。
 それであるならば、値段の問題は解決するし、敬遠されがちな荷運びの依頼も減らすことができる冒険者部門としてもメリットはある。

 考助の意図を理解したガゼランだが、腕を組んで難しい顔になった。
「・・・・・・なるほどな。確かにそれならやれないことはないだろうが・・・・・・中々難しいぞ?」
 いくら依頼が減るためだからといって、何の担保もなしに冒険者部門が道具を買ってそれを冒険者に貸し出すのは厳しい。
 それは、基本的に冒険者が依頼をこなすのは、全て自己責任とされているからだ。
 それは、依頼をこなすための道具の類は、冒険者側が用意するということを意味している。
 ここで、駆け出し冒険者用に道具の貸し出しを始めれば、自分たちの分の道具もクラウンで用意してくれと言い出すことも十分にあり得るのだ。
 それを考えれば、ガゼランがすぐに許可を出せないのは、考助にもよくわかる。
 ただし、ひとつだけ考助から見れば盲点になっていることがあるのだ。
「それって、もしかしなくても、道具の貸し出しをただでやろうと考えているからじゃない?」
「なに? どういうことだ?」
 そう声を上げたのはガゼランだったが、隣に座っているシュミットも考助が言ったことに首をかしげていた。
「ただで貸し出しをしようと思うから不平等に感じるんだと思うよ? だったら、ちゃんとお金を取って貸し出しすればいいじゃない?」
 考助にとっては、お金を取って物の貸し借りをすることは、ごく当たり前にあり得ることだ。
 ただし、この世界ではそうしたいわゆるレンタル店というのが、存在していない。
 ここ数日街を歩き回って、考助は改めてそのことに気付いた。
 勿論、親しい者同士での物の貸し借りはある。
 だが、そういったレンタルの店となると見当たらないのが実情だった。

 考助の台詞を聞いたガゼランとシュミットは互いに顔を見合わせた。
「金をとって魔道具の貸し出しをする、だと?」
「一回当たりの差し出し額を安めにすれば、駆け出し冒険者にも手がでるというわけですか」
 まったく思いつかなかったという感じの顔になっているふたりに、逆に考助が不思議そうな顔になる。
「街になかったのでもしやと思っていたのだけれど、こういった道具の貸し出し屋みたいなものはないんだね」
「・・・・・・いくらお金を取っているとはいえ、壊されるかもしれない高価な魔道具を貸し出すことは、商売として成り立つかは微妙ですからね」
 壊されるかもしれない、貸したものが返ってこないかもしれないとなると、高価な道具を貸し出してまで商売をしようとする者はまずいない。
 事故にあうまでに道具の購入金額が回収できていればいいが、そうならない可能性も高いのだ。
 さらにいえば、一歩街の外に出てしまえば、個人を追いかけることは非常に難しい世界なのだ。
 それらを考えれば、レンタルは非常にリスクが高い商売といえる。

 ただし、クラウンの場合は、普通に店を構えるよりはそうしたリスクは軽減することができる。
 何しろクラウンに所属するためには、クラウンカードを発行しなければならないのだ。
 要するに、会員証を作って物を借りているのと変わらない。
 さらに、アマミヤの塔の中であれば、外に逃げられる心配もない。
 ある意味では、レンタルを開始するには絶好の環境が整っているともいえる。

 考助のそれらの考えを聞いたガゼランが唸るように言った。
「確かに話を聞けば上手くいきそうな気もするが・・・・・・」
「本当に大丈夫なのかどうか、しっかりと吟味する必要がありますね」
「それがいいよ。いま話したのは、あくまでも僕の思い付きだし。それに、他にもいい方法が出てくるかもしれないよ?」
 考助が思いついたのは普通のレンタル店だが、なにかこの世界特有の方法が他の職員から出てくるかもしれない。
 実は考助は、そちらの方にも期待していた。
 この世界の住人が自らの発想で何かを思いつき実行していくことは、文明が発展していくためには必要なことなのだ。

 結局、考助の提案を受け入れたガゼランとシュミットは、一度クラウン内で話し合って決めるということにして、考助もそれを受け入れたのである。
レンタル店誕生!
といっても、完全に独立した店ではなく、冒険者の窓口で貸し出しをするだけですがw
高価な魔道具を駆け出し冒険者が使うのには、ちょうどいいと思います。
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