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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 第五層の街

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(5)それぞれの対応

 サラサに案内をされてされた考助は、いきなり頭を下げられた。
「申し訳ございません。本来であれば、私に直接来るようになっていたはずなのですが・・・・・・」
 サラサが考助の担当であることは、すでに実際に受付窓口に入る者たちには通達している。
 ただし、写真のようなものがあるわけではないので、考助の顔を知らなかったという可能性もあるが、それにしても担当者が決まっていると言われた時点で、担当者に引き渡して自分は対応を終えるのが正しい。
 それにもかかわらず、どうして彼女があのように強引に処理をしようとしたのかと、サラサは首をかしげた。
「一応担当者がいることは言ったんだけれど、普通はそのときに確認くらいはするよね?」
「ええ、勿論です。そもそも担当が付くこと自体、さほど多いことではないですから、対応を間違えるはずはないのですが・・・・・・」
 あの受付嬢が、普段からそういう対応をしているのであれば、またかといわれて終わってしまうのだが、少なくともサラサが知る限りでは一度もなかった。
 納得がいかずに、首をひねっているサラサを見て、考助は依頼を完了したときから感じている違和感を話すことにした。
「これは、関係あるのかどうか分からないんだけれど、一応報告しておくね」
 考助としては軽く言ったつもりだったが、サラサはそうは受け取らなかったようで、真剣な表情になった。
「ええ、なんでしょう?」
 そう言いながら頷くサラサに、依頼の最中に感じたことをそのまま伝える。

 差出人の担当者の態度が妙だったこと(特に考助がアイテムボックスを使ったとき)。
 依頼の内容の割には、どう考えても無謀な荷物の量だったこと。
 その割には、受取人側は特に何も感じておらず、普通に依頼をこなした冒険者として対応してきたこと。
 そして、最後に受付嬢のおかしな態度。

 これらの話を聞いていたサラサの顔は、最後には能面のようになっていた。
 これらのことがひとつだけであれば、考助の気のせいの一言で済ませてしまえるのだが、さすがにこうまでおかしな状態が続けばただの偶然とは思えない。
 というよりも、すでにサラサは何かを確信しているようだった。
「・・・・・・すぐに調査いたします」
 考助の受けた違和感は、あくまでも考助個人が感じたことでしかない。
 受付嬢が依頼人側と組んで何かの不正を行っていると断定するには、他にも裏付けを取らなくてはならないのだ。
 サラサにしてみれば、考助が言っているのだから間違いないと断言したいところだが、それは考助本人が嫌がるのでやることはない。
 それに、そんなことをしてしまえば、せっかくギルドの職員として考助の役に立てるようになったのに、たった一度の依頼を受けただけで終わってしまう。
 付け加えれば、この程度のことで、考助の正体をさらすような真似を許せるはずもなかった。

 とまあ、サラサはこんなことを考えていたのだが、残念ながら考助は考助らしく軽い調子で言った。
「そうだね。そのほうがいいと思うよ」
 その考助の後ろにいたミツキが、その言葉を聞いて軽くため息をついたことは、幸か不幸か考助は全く気付かなかったのである。

 
 その日の夜。
 サラサがクラウンの仕事で戻って来ることができないと言われたため、ミツキが作った夕食を食べながら、考助は昼間に会ったことを別荘に来ていたシュレインとシルヴィアに話した。
「なるほどの。そんなことがあったのか」
「調査はクラウンに任せてしまって良かったのですか?」
 シルヴィアとしては、考助が気になっているのではないかと思って聞いたのだが、考助は案外まじめな顔になって頷いた。
「まあね。今の僕はあくまでも一冒険者だし。あそこから先は、クラウンの仕事だからね」
「確かに、そうですね」
 いつもならクラウンに任せるなんてことはせずに、自分の興味の赴くまま突っ走る考助の常識的な言葉に、シルヴィアが内心で驚きつつ無難にそう答えた。
 ここで変に煽るような返事をしてしまうと、考助がやる気になってしまうことは、これまでの経験上よくわかっている。

 幸いにして(?)今の考助は、シルヴィアのそんな内心に気付かずに、別のことに意識が向いていた。
「それにしても、やっぱり現場にはきちんと出てみるものだね。いくつか魔道具のアイデアが浮かんだよ」
「ほう? それは良かったの。ちなみに、どんなものが聞いてもいいかの?」
「いや、別にそんな大したことじゃないけれどね」
 そう言いながら考助が脳裏に思い浮かべていたのは、荷物を運ぶときに通った狭い路地のことだ。
 馬車が通れないような路地の奥に倉庫のようなものがあれば、当然人手が必要になるのもわかる。
 それであれば、人の手で荷物がもっと楽に運べるような魔道具があってもいいのではないか、というのが考助の考えだった。

 その考えを聞いたシュレインとシルヴィアが、揃って納得したように頷いた。
「なるほどの。じゃが、アイテムボックスの魔道具は、以前に作って失敗したんじゃ?」
「いや、まあ、失敗じゃなくて、単に高くつきすぎで売り物にならな・・・・・・じゃなくて!」
 遠い昔に犯した失敗のことを持ち出された考助は、慌てて話を元に戻した。
「確かに荷物の持ち運びには、アイテムボックスの魔法は便利だけれど、そう簡単には安い物は作れないからね」
 言外に作れないわけではないと言いつつ、考助はさらに話を続ける。
「それに、僕だけが作れるような魔道具を作ってもしょうがないから、今度はちゃんと汎用性も考えて作るよ」
「ほう? すでにアイデアがあるのか?」
「まあね」
 自信ありげに笑った考助を見て、話を聞いていたシュレインとシルヴィアは、すでに考助が何か具体的に思いついていることがわかった。
「では、これから作り始めるのですか?」
 だからこそシルヴィアはそう聞いたのだが、考助は首を左右に振った。
「いいや。せっかくだから、他にも街の中でできそうな依頼を見繕って仕事をして見るよ。他にも何か思いつくかもしれないし」
 考助にしてみれば、依頼を受けたことであっさりと新しい魔道具のヒントになるような物を見つけるとは思っていなかったのだ。
 流石に管理層に籠りすぎたと反省したので、しばらくは依頼を受けるつもりになっていた。

「確かにそれはいいかもしれませんね。ただ・・・・・・」
 話を聞きながら頷いていたシルヴィアが言い淀んだのを見て、考助は首を傾げた。
「何かあった?」
「いえ。あまり長期間こちらにいらっしゃるとなると、コウヒさんがすねるのではないかと思っただけです」
「あっ・・・・・・」
 シルヴィアの言葉に思わずと言った感じで漏らした考助だったが、すぐに三人の女性たちから冷たい視線を向けられた。
「忘れていましたね?」
「それは、駄目じゃろ?」
「コウヒに言いつけようかしら?」
「ごめんなさい。許してください。コウヒにはすぐに事情を話しに行きます」
 口々にそう言ってきた女性たちに向かって、考助はそう言いながら慌てて頭を下げるのであった。

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 何とか三人から許しをもらった考助は、翌日にはガゼランと話をしていた。
 話の内容は、昨日あったおかしな依頼の件だ。
「・・・・・・ということは、受付嬢が依頼人と組んで、色々とやらかしていたというわけですか」
「まあ、一言でいえば、そういうことだな」
 考助の言葉に、ガゼランは渋い顔をして答えた。
 ガゼランにしてみれば、クラウン本部の受付でそんなことが堂々と行われていたとは、考えてもいなかったのだ。
「おかげで冒険者部門の一部は、この件でいまだに右往左往している。他にも似たようなことが行われていないかの調査も、裏で入っているぜ」
「そうですか。これを機に、不正は一掃できればいいですね」
「少なくとも動いている連中は、そのつもりだろうぜ」
 他人事のように言った考助に、ガゼランも特にそのことについては何も言わずに同意していた。
 今のクラウンは完全に考助の手を離れて運営されている。
 今更自分がでしゃばるつもりはないし、出る必要もないと考えているのだ。
 勿論、ガゼランもそのつもりで対応をしている。
 今回の件の顛末を話したのは、最初に考助が違和感に気付いてサラサに報告をしたためだ。

 結局考助は、この件については事の顛末をガゼランから聞いただけで、そのあとのクラウン内部のごたごたについては、ほとんどかかわることはなかったのであった。
クラウン内部のごたごたには、考助は一切かかわるつもりはありません。
それよりも、魔道具のことが頭を占めていますw
それに、今更自分がしゃしゃり出て内部をきれいにしても意味がないと考助は考えていますから。
組織内でしっかりと処理ができないようでは、長続きはしないですから。
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