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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 第五層の街

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(3)仕事

 考助たちが別宅で過ごすようになってから数日後。
 ようやくサラサも応対に慣れてきたのか、堅かった口調が多少崩れてきた。
 といっても、考助の「ご主人様」呼びは相変わらずだったが。
 最初は恥ずかしさのため心の中で身もだえていた考助だったが、一日もすれば慣れてしまった。
 結局人とは、慣れる動物であるということが実感できた考助であった。

 それはともかくとして、考助はふと疑問に思ったことをサラサに聞くことにした。
「そういえば、サラサはクラウンの仕事もまだやめていないんだよね?」
「ええ、そうですね。私としては、そちらは辞めてしまって、この家の維持に勤めたいと思っているのですが、残念ながら止められています」
 サラサとしては、最初にこの話を聞いたときにはきっぱりとクラウンを辞めて、この家のハウスキーパーとしてだけで働くつもりだったのだ。
 ところが、その考えを周囲に話したとたん、上司や部下から総出で止められてしまった。
 最終的には、ガゼランまで出てきて止められてしまったので、サラサはしぶしぶクラウンとハウスキーパーの仕事を掛け持ちすることを了承したのである。
「まあ、こっちのほうは、ほどほどでいいんだよ?」
 考助としては、自分たちが使っていないときにメンテナンスをしてほしいという程度に考えている。
 そのため、サラサがクラウンの仕事で忙しければ、無理にこちらに詰めていなくてもいいとさえ思っている。
「えっ!? もしかすると、お邪魔でしたか!?」
「いや、なんでそうなるし。そんなことは少しも考えていないよ!?」
 考助としては、クラウンの業務に差支えがあるのであれば、家の管理は控えてもいい程度の思いで言ったのだが、どうやらサラサはそうは受け取らなかったらしい。

 焦った考助を見ながら、シュレインが笑いながら助け舟を出してきた。
「まあまあ、サラサ、そう気に病むな。コウスケはこれで、其方に気を使っておるつもりなのじゃ。どうせ一週間もすれば今の状況に慣れて、何も言わなくなるじゃろ」
「そうなのですか?」
「まあ、今までの例からいえば、間違いないの」
 そう断言したシュレインを見て、サラサは幾分か安心したような表情になった。
 それを見た考助は、ようやくサラサが何を考えていたのかを理解した。
「いや! 別にサラサを解雇しようと思っていたとか、そういうことじゃなく!」
「今更、遅いのじゃ」
 慌てた考助にシュレインから容赦なく突っ込みが入る。
 今回は、言葉だけではなく、軽く物理的な制裁も入った。
 具体的には、シュレインの右の手のひらが、考助の頭に軽く当てられたのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 そんな感じで、お互いになれない空気感を漂わせていた考助とサラサだったが、シュレインの予想通り一週間もすれば、互いの硬さというか、遠慮は無くなっていた。
 流石は奥様です、というのはサラサの弁である。
 勿論、この間もシュレイン以外にも他の女性陣が来ていたが、サラサはもれなく全員のことを「奥様」と呼んでいた。
 といっても、ふたり以上来た場合は誰を呼んでいるのか分からなくなるため、奥様の前にそれぞれの名前をつけている。
 考助自身も管理層での作業があるため、別宅に入り浸っているというわけではないのだが、なんとなく街の雰囲気が気に入ったのでできる限り訪ねている。
 そんなある日の午後。
 突然シュレインが思い出したかのように考助に聞いてきた。
「そう言えば、冒険者として依頼を受けたりはしないのかの?」
「え? 何を突然」
 一緒に来ていたナナの背中を撫でていた考助が、びっくりしたようにシュレインに視線を向けた。
 その顔を見れば、シュレインにいわれるまでそんなことを考えていなかったことは、すぐにわかる。

 シュレインもあまりに唐突すぎたかと、ばつの悪そうな顔になりながら考助に向かって言った。
「いや、特に深い意味はないんじゃ。せっかく街にいるのじゃから、何か仕事でもしないのかと思っての」
 シュレインとしては、特に深い意味があって聞いたことではない。
 考助は特に働かなくても、多くの財産を築いている。
 そもそも別宅を建てたのも、街の雰囲気を知りたいというためだけで、仕事をするためではない。
 ところが、そこはもとの世界ではそれなりに仕事をこなしていた考助だ。
 周囲(この場合はご近所さん)にいる者たちがまじめに働いているところを、自分だけがのんべんだらりと過ごしているのは何となく気が引けてきた。
 もっとも、別宅周辺にあるほかのご近所さんたちは、とっくに考助たちが普通ではないことに気付いている。
 考助が仕事をしていなくても、今更何かを言ってきたりはしないだろう。
 つけ加えれば、別宅を管理しているサラサは普通にご近所づきあいもしているので、彼らが考助のことをどう見ているのかもある程度は知っている。
 今のところの彼らの考助に対して抱いているイメージは、どこかの身分の高い若旦那が、何かの気まぐれを起こして住み着いているといったものだった。

 ご近所さんのそんな評価など全く知らない考助は、シュレインの言葉を受けて真剣な表情になって考え始める。
「・・・・・・確かに、今のままだと外聞はよくないよなあ。それに、このままでいても肝心の魔道具は・・・・・・」
 そんなことをぶつぶつと呟き始めた考助を、サラサが不安そうな表情で見た。
 そのサラサの顔に気付いたシュレインは、安心させるように微笑んだ。
「心配しなくともいい。これはいつものことじゃ」
「そうなのですか?」
「そうなんじゃ。だから其方もやるべきことをやっていたほうがいいぞ?」
 シュレインはそう言いつつ、完全に考助から視線を外して先ほどまで行っていた作業の続きを始めた。
 そして、そのシュレインと考助を交互に見ていたサラサは、何とも言い難い表情を浮かべたのちに、夕食を作るために台所へと向かうのであった。

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 シュレインの何気ない一言でなんとなく(?)仕事をする気になった考助は、翌日にはクラウンの冒険者部門の掲示板を見ていた。
 単に冷やかしに来たわけではなく、何か手ごろにできる仕事がないかと真剣に探している。
 しばらく掲示板を見ていた考助だったが、とあることに気がついた。
「・・・・・・一般系の仕事は、配達系が多いな」
 冒険者向けの仕事なので、力仕事が多いというイメージを持っていた考助だったが、配達系の依頼も多く貼られている。
 配達系も荷物によっては十分すぎるほど力仕事になるのだが、土木系が多いと考えていた考助にとっては意外だった。
「ここの街も何度も拡張が繰り返されていますから。街の端から端まで行くのにも一苦労ですから、必然的に配達系の仕事は増えますよ」
 掲示板の前で感心していた考助に、サラサが話しかけてきた。
 今日はクラウンの仕事があるということで朝からこちらに出向いていた。
「あ、サラサ。こっちに出てきてもいいんだ」
「はい。私は、これからご主人様の担当になりましたから」
 いくら慣れてきたとは言っても、大勢の人がいる前で「ご主人様」呼ばわりされるのは流石に恥ずかしい。
 しかも、長い間受付にいたサラサのことを知っている冒険者は非常に多い。
 冒険者たちから誰だあいつは、という視線を向けられることとなった考助は、背中に冷や汗を流した。
 ミツキを連れてきている時点で注目を集めるのは織り込み済みだったが、サラサに関しては予想外だった。
 いや、そもそもサラサがギルドにいるという時点で、こうなることを予想できなかった考助にも非はある。

 そんな感じで周囲の視線を集めていた考助は、何とかめぼしい依頼を探し出してそれを受付サラサのところへと持っていくのであった。
仕事をすることを決断した考助でした。
べ、べつに今までがニートだったというわけではありません。

それにしても、今さらですが「何だよあいつは、けっ」というテンプレ的な話は書きましょうか?w
本当に今更なんですがw
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