挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第7部 第1章 塔のあれこれ(その15)

811/1239

(11)スライムの島

 とある日の朝。
 考助と一緒に、アマミヤの塔の階層を確認していたミアは、ふと何かに気付いたような表情になった。
 そして、少しの間制御盤を操作していたのだが、やがて小さく首を傾げつつ考助を見た。
「父上、この階層は何か目的があって作ったのでしょうか?」
 微妙な言い回しでミアがそう聞いたのは、考助が特に深く考えずに気が向くまま階層をいじることがあることを知っているためだ。
 以前にも似たようなことがあり、考助自身も思い出せなかったことがあったため、それ以来はこんな聞き方になっている。
 ただ、幸いにして今回は、考助にも思い当たりがあったようで、ミアが示した階層を確認したあとに、「ああ」という顔になった。
 ミアが制御盤に表示していた画面には、階層の九割以上が海に囲まれて、真ん中にぽつりと島がある階層が映っていた。
 百層あるアマミヤの塔といえども、こんな特徴的な環境を持った階層はひとつしかない。
 この階層は、神力が余っていることをいいことに、考助がとある目的を持って作った場所になる。

 不思議そうな顔をしているミアに、考助は胸を張った。
「この島はね。スライムのスライムによるスライムのための島なんだよ!」
「いえ、それは見ればわかりますが?」
 自信満々に言った考助に対して、ミアはあっさりとそう返事をした。
 唯一の陸地になっている島には、モンスターがスライムしかいない。
 それはすぐに確認できるので、ミアが聞きたかったことはそこではないのだ。
 ただ、なぜか考助はミアの返事を聞いてしょぼくれた表情になった。
「いや、いいんだ。わかってもらおうと思っていたのが間違いなんだよな」
 何やらそうぶつぶつと呟いていたが、ミアには意味が分からない。
 勿論考助は、とあるゲームをもとにこの島を作ったのだが、むしろ何の情報もないミアに、そんなことを分かれという方が無茶だろう。

 何故か落ち込む考助を見てミアは首をかしげていたが、やがて復活した考助が説明を始めた。
「見ての通り、この島にいるモンスターはスライムだけだよね?」
「そうですね」
「塔の階層には、モンスターが自然発生するはずなのに、どうやってスライムだけが生きていられると思う?」
 その考助の言葉に、ミアがハッとした表情になった。
 スライムは、この世界でも最弱の存在といっていいモンスターだ。
 進化をすれば強い個体も出てくるが、そうした個体を作るのは容易ではないのだ。
 アマミヤの塔に限らず、他の塔でもスライムを大量に召喚している階層はあるが、スライムだけが存在している階層というのはない。

 考えれば考えるほど不思議な状況に、ミアは呆然と呟いた。
「え・・・・・・いったいどうやって作ったのですか?」
 スライム島には、最初期に召喚できる種類だけではなく、その他の様々な種類のスライムが生息している。
 それにもかかわらず、それ以外のモンスターは、確かに考助の言う通りまったく存在していない。
 塔の階層の常識でいえば、そんなことはあり得ないのだ。
 頭を悩ませて考えるミアだったが、そんな彼女に考助はあえて助言することはしなかった。
 以前、同じような状況で気軽に助言をして、ミアにむくられたことがあった。
 それ以来考助は、ミアから降参を出されない限りは、何も言わないようにしているのだ。

 ミアはしばらく悩ましい表情で考え込んでいたが、そんなミアを見て不思議そうな顔で近付いてきた者がいた。
「なんだ? ミア、何かあったのか?」
 ミアの母親であるフローリアだった。
 フローリアは、悩むミアには聞かずに、隣の制御盤で作業をしていた考助に聞いてきた。
「ああ、うん。例のスライム島について悩んでいるんだよ」
「・・・・・・ああ、なるほど」
 考助の言葉に納得いったように、フローリアは頷いた。
 フローリアも前にミアと同じように考助に聞いたことがあるのだ。
 むしろ、今までミアがスライム島の存在に気付いていなかった方が、不思議なほどだった。
 気付いていれば、間違いなく今のように悩んでいたはずなので、フローリアにしてみれば今更という思いの方が強かった。
「今まで気付いていなかったのだな」
「まあ、ミアにとっては、他に気になるところがいっぱいあっただろうからね」
「それは確かにそうだが、スライム島ほど特異な階層はないだろう?」
「アマミヤの塔は全部で百層あるからね。ひとつずつまんべんなく見ていたら、気付くのも遅れるよ」
 それだけミアが、階層ひとつひとつを細かく見ていたという証拠でもある。
 スライム島は、一見すればただの島がひとつあるだけの階層なので、今まで見逃されていてもおかしくはない。
 考助の説明に、微妙に納得した表情になったフローリアは、そんなものかと小さく呟くのであった。

 途中からフローリアが来たことには気づいていたミアだったが、それには構わずスライム島について考えを巡らせていた。
 今までの例からいっても、先ほどの考助の言葉に何かヒントが隠されているはずだ。
 そう考えていたミアは、ふと画面の中央にある島を見ていた視線を周辺に広がる海へと移した。
「・・・・・・スライム島にはモンスターがいない?」
 その呟きに、考助とフローリアが反応したが、画面に集中していたミアはそれには気づかなかった。
 もしかして、と考えたミアは、制御盤を操作してこの階層の細かい内容を表示させた。
「やっぱり!」
「気付いたかな?」
 ミアが声を上げるのに合わせて、考助がニッコリと笑った。
「はい。多分、自然発生するモンスターは、海に出るようにしてあるのですよね?」
「うん、正解。一言でいえばそういうことだね」
 ミアの回答に満足した考助は、こくんと深く頷いた。

 塔の階層では、モンスターが自然発生することを止めたりすることはできない。
 それであるなら、階層のごく一部地域だけを発生させないようにすることはできないか、ということを調べたのがこの階層だった。
 具体的には、階層のほとんどを海にすることで自然発生するモンスターをそちらに集中させて、島の上には発生しづらくさせたのがこの階層だった。
 さらに付け加えると、この階層の環境を作るうえで、一度陸地はすべて消し去っていた。
 というのも、少しでも陸地が残っていると、そこでモンスターが自然発生する環境が残ってしまうのだ。
 陸地をすべて消した状態でしばらく放置して、さらにそこから島を発生させると、見事に陸上モンスターが自然発生しない環境が出来たというわけだ。
 何気に時間も手間もそして何より、大量の神力が使われている階層なのだ。
 ちなみに考助は、スライムだけではなく、別の眷属で同じことができるかも確認してある。
 もっとも、そちらの階層は、確認だけして別の環境にしてしまった。
 スライム島が残っているのは、あくまでも考助の趣味の範囲でしかない。

 考助の趣味云々の話はともかくとして、どうやってこの環境にしたのかを聞いたミアは、深くため息をついた。
「そんな手間暇をかけているのですか。ぎりぎりの神力しかないリトルアマミヤでは、いつできるようになるか、わかりませんね」
「おっ! ミアもスライム島を・・・・・・」
「いえ、別の眷属ですけれどね」
 速攻で否定された考助は、がっくりと肩を落とした。
 そんな考助を横目で見つつ、今度はフローリアがミアに話しかけた。
「ひとつの種類の眷属だけを生息させるなど、趣味の世界でしか無いからな。よほどの余裕が出ないと、できないと思うぞ?」
「そうですよね」
 すでにアマミヤの塔は神力が有り余るほど発生している。
 考助が趣味の世界を作ったところでどうということはない。
 常にぎりぎりの状態で運営しているリトルアマミヤの塔とは大違いなのだ。
 勿論それは、アマミヤの塔がこれまでに積み重ねてきた実績との差でもある。
 もっとも、今となっては潤沢に神力が使えるアマミヤの塔は、他の塔と比べても異常といえるだろう。

 何とかそれだけのことができるように、リトルアマミヤの塔を開発しようと決心するミアなのであった。
ネタ回にしようと思って書き始めたら、いつの間にかまじめな回になってました。
折角なので、そのうち海の眷属でも紹介したほうがいいですかね?
まだ大したことは考えていないですが。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ