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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第7部 第1章 塔のあれこれ(その15)

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(2)リクの能力

 考助が塔の階層から拾ってきたクロは、当初こそ他の者たちに懐いてはいなかったが、しっかりと躾されておかげで最初の状態からはかなり改善されていた。
 ただし、多少懐いたとはいっても考助のように甘えてみせるというわけではない。
 あくまでも傍に近寄ったりしても、呻ったり威嚇したりしなくなったというだけだ。
 強いて言えば、考助がいないときにエサをくれる存在として認識しているといったところだろう。
 神具の探索をしていたときのように、考助がそれなりに期間管理層を離れる場合、誰かがクロの面倒を見なくてはならない。
 コウヒがいればそれでいいのだが、そうもいかないときのほうが多い。
 そうなれば、必然的にクロにエサを与えるのは、一緒に出掛けていないメンバーのうちの誰か、ということになる。
 さらに付け加えると、管理層に頻繁に出入りしている者で考助のお出かけ(もしくは旅)に同行しないのは、ミアくらいである。
 結果として、懐いたのが速かったのはコレットだったが、懐き度(?)でいえば、コウヒとミツキのあとに続くのがミアという結果になっていた、はずである。

 ちょっとした用事で留守をしている考助に代わってクロにエサをやりに来たミアは、呆れた様子で目の前の光景を見ていた。
 彼女の目の前では、弟であるリクが悲鳴を上げていた。
「う、うわっ! ちょっと待って! ・・・・・・あ、姉上! 見てないで助けてください!」
 思わず敬語で助けを求めるリクに、ミアはクロに与えるはずだったエサを持ったままジト目を向けた。
「しばらくそのままでいたほうがいいと思いますよ?」
「そ、そんな殺生な!?」
 既に成体と言っていいほどに成長したクロに、上からのしかかられたまま、リクが悲鳴のような声を上げた。
 リクとクロは初対面ではない。
 ただ、以前来たときはここまで成長していなかったし、懐いてもいなかった。
 何となく予想はしていたミアも、まさかエサをそっちのけにしたままこんな状態になるとは思っていなかった。
 しかも、何とか懐いてもらうように努力を重ねた自分を差し置いてである。
 少しくらいリクに対して意趣返し(?)をしてもいいだろうと、黒いことを考えるミアなのであった。

 クロが落ち着くのを待ってからようやく脱出できたリクは、逃げるようにしてべろべろに舐められた顔を洗いに行った。
 その間クロは、ミアが持ってきた食事を食べていた。
 考助がいるときは、適当な階層に連れて行って狩りをさせたりもするのだが、そうじゃない場合はあらかじめ用意してある肉を与えている。
 クロが食事をしている様子をミアが見ていると、よだれを落としてさっぱりとして様子のリクが戻ってきた。
 そのことに気付いたクロが一瞬顔を向けたが、肉の誘惑には勝てなかったようで、すぐに視線を戻した。
「それにしても、凄い懐きようね。ひょっとしたら父上よりも上なんじゃない?」
 若干の嫉妬を込めてそう言ったミアだったが、リクはその言葉に首を左右に振った。
「いや、それはないな。俺は遊び相手と認識されているだけだ。父上の場合は、それに加えて逆らったらいけない相手と考えているからな」
「へー、そうなんだ」
 リクの意外な返答に、ミアは目を丸くした。
「なんだよ、その顔は」
「いえ。きちんとモンスターについて調べているんだなと思っただけよ」
 リクがテイマーとしてやっていくつもりはないのはミアにもわかっている。
 ただ、今のリクの答えは、それなりにモンスターについて知っていないと出てこない回答だった。
 しかも、きちんとクロの現状を分析したうえで答えていた。
 ミアは、冒険者として大成することに夢中になっていたリクが、テイマーの分野にまで手を出すとは考えていなかったのである。

 ミアの台詞に、なぜかいきなりリクがそっぽを向いた。
「父上が・・・・・・」
「え?」
「だいぶ前に父上に叱られたんだ。お前の目標は何なんだって」
 リクの言葉を聞いたミアが、目を丸くした。
「父上が!? いったい何をしたのよ!?」
 基本的にのほほんとしている考助は、当然ながら子供たちに対して叱るということは滅多にない。
 ミアが前に叱られたのも記憶を探らなくてはならないほど前のことだ。
 少なくとも、成人してからは一度もない。
「父上に、野生のモンスターに懐かれたことに対して愚痴をこぼしたら、いきなり怒鳴られた」
 リクもミアと同じで、考助から叱られた記憶などほとんどなかった。
 だからこそ、本気で叱っている考助を見て、反発するよりも先に驚いた。
 さらに、なれない説教をしてきた考助の言葉を真剣に聞く気になってしまったのである。

 リクの話を聞いたミアは、納得したような顔になった。
「ふーん。なるほど、そうだったんですか。頑固なリクが変節したのですから何かあったのかと思いましたが、まさか父上に叱られていたとは思いませんでした」
 そう言ったミアの顔を見たリクは、からかうような顔になった。
「なんだよ。姉上も父上に叱られたいのか?」
「まさか。そんなわけはありません。ただ、何となく、ちょっとだけ、羨ましいと思っただけです」
 それのどこが違うのかと心の中で考えたリクだったが、そんな迂闊なことは口にしなかった。
 その代わりに、別のことを口にした。
「そのほうがいい。俺も父上に叱られるなんて体験は、できることなら二度としたくはないからな」
 そのあまりに実感がこもったリクに、ミアが思わずといった感じで目を瞬いた。
「・・・・・・そんなに怖かったのですか?」
「怖いというか・・・・・・なんだろうな、あれは。確かに怖いのは怖いんだが・・・・・・」

 一度言葉を切ったリクは、そのときのことを思い出すように目を閉じた。
「なんというか・・・・・・そう。父上の言う通りにしないと、罪悪感を覚えるような感じを受けていたな」
 勿論、怒っているという雰囲気はあったのだが、それ以上にいうことを聞かないと申し訳ないような何ともいえない感じを受けていた。
 どうにも実際に言葉にすると妙な感じなのだが、少なくともリクにはそう感じたのでどうしようもない。
「罪悪感、ですか」
「ああ。ただ、それも俺が感じた印象だからな。兄上はまた別の感情を持ったかもしれない」
「え? お兄様ですか?」
 なぜここでトワの名が出てくるのかわからないといった顔になったミアを見て、リクがしまったという顔になった。
「あ~。余計なことを言ったかな? まあ、姉上ならいいか。多分兄上も父上に叱られたことがあると思うぞ? それも、成人してから」
 以前にリクがトワに叱られたことを話すと、何とも言えない表情していた。
 流石に小さいころから一緒に過ごしてきただけあって、リクは他人には気づけない兄の微妙な変化に気付けたのだ。

 トワも考助から叱られたことがあると聞いたミアは、複雑な顔になっていた。
「何でしょう、この疎外感は」
「ハハハ。まあ、父上も俺たちが男だから叱ったのかもしれないしな。姉上が叱られることは、もうないんじゃないか?」
 小さいときならいざ知らず、今のような年齢になってしまえば、親から叱られるようなことをすることも少なくなる。
 トワがなぜ叱られたのかリクは聞いていないが、少なくとも自分に関しては将来のことについてだ。
 この先、しっかりとした道を自分が歩んでいけば、叱られることもないだろうとリクは考えている。
「まあ、さっきも言ったけど、好き好んで叱られる必要はないさ。別に父上が姉上を疎外しているというわけでもないしな」
「それもそうですね」
 ミアとしてもリクの言葉通り進んで叱られるつもりはない。
 それよりも、今の優しい父親でいてもらった方が嬉しい。
 ミアがそう心の中で結論をつけるのと、その雰囲気を読んだのか食事を終えたクロが近付いてくるのはほぼ同時なのであった。
リクはテイマーになるつもりはありませんが、せっかくの能力を冒険者として生かしていくように決めました。
ちなみに、考助が叱っているシーンは書くつもりはありませんw

新作「天翔けるそらの彼方へ」連載中。
ぜひともお読みください。
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