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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4章 神具の力

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(6)世界樹の妖精

 エルフの里にある屋敷の自室にいたコレットは、珍しい訪問者が来たと聞いて驚いた表情を見せた。
「本当にひとりで来ているの?」
「ええ、おひとりです。どうされますか?」
「どうもこうもないわよ。すぐに行くわ」
 特に何か急ぎの仕事をしていたわけでもない。
 それよりも訪問者の相手をする方が大事だと判断したコレットは、すぐに椅子から立ち上がって訪問者を出迎えるために自室を出て行った。

 訪問者が待つ部屋に入ったコレットは、笑顔になって両手を広げた。
「ワンリ、どうしたの? 珍しいわね」
 コレットを訪ねてきたという訪問者は、ワンリのことだった。
 考助と一緒に来ることはあるが、彼女が一人で来ることは滅多にない。
 そのため、コレットがこんな言い方になってしまったのは、致し方ないことだろう。
「ごめんなさい。忙しかったですか?」
「ああ、ううん。違うのよ。私がいるときは、いつでも来ていいのよ?」
 若干涙目そうな顔になったワンリを見て、コレットは慌ててそう言い、さらに付け加えた。
「そうじゃなくて、ワンリがひとりで来ることなんて珍しいでしょう? だから、何かあったのかなと思ったのよ」
 そう言ったコレットの顔を見て嘘じゃないと判断したワンリは、コクリと頷いてから話し出した。

 ワンリはコレットを訪ねてくる前に、塔の階層を狐の姿で駆け巡りながら勾玉の神具のことを考えていた。
 考助はゆっくりと見つけてくれればいいと言ってくれているが、ワンリ自身どうやって使うのか興味があった。
 そのためいろいろと使い方を考えていたのだが、勾玉が答えてくれるわけもなく、ひとりで悶々としていた。
 そんなとき、ふと勾玉を手に入れたときのことを思い出したのだ。
 あのとき、勾玉がいたのは、世界樹がある森だった。
 他の神具は別々の場所にあったのに、勾玉はなぜわざわざ結界のあるあの森に落ちたのだろうと考えれば、なんとなくそれに意味があったのではないかと思えるようになった。
 それを確認するために、世界樹があるコレットのいるエルフの里を訪ねてきたのである。

 ワンリから考えを聞いたコレットは、納得して頷いた。
「ふーん。なるほどねえ。要するに、勾玉の神具が世界樹と関係することによって、何かの力を発現するのではないかというわけね?」
「・・・・・・森の中を走っていたら、なんとなくそんな気がしたんです」
 自信なさげな顔でそう言ったワンリに、コレットはニコリと微笑んだ。
「いいじゃない、試してみましょう」
「えっ!? いいんですか?」
「いいも何も、そのつもりで来たのでしょう?」
 あっさりとそう言ってきたコレットに、ワンリは「そうなんですけれど」と呟いて俯いてしまった。
 失敗して迷惑をかけることを恐れているような顔をしているワンリに、コレットは安心させるように微笑む。
「気にしないで思いついたことは言ってくれればいいのよ。もし駄目ならちゃんとダメって言うんだから。・・・・・・ね?」
 確認するように自分を見てきたコレットを見たワンリは、コクリと小さく頷くのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 さっそくふたりは、世界樹の麓へと出向いた。
 コレットの子供ふたりは、そもそも乳母に任せてあるので問題ない。
 本来であれば、そうそう簡単に世界樹の麓に来ることなどできないのだが、今回はコレットがいるので問題ない。
 既にコレットは、里の中では考助に並ぶほどに神格化(?)しかかけているので、こういったことで反発する者はほとんどいないのである。

 世界樹の麓にたどり着いたコレットは、首を傾げながらワンリに聞いた。
「それで? これからどうするの?」
 そのコレットの問いかけに、ワンリは困ったような表情をした。
「とにかく世界樹のところに来たら何か起こるかと思ったのですが・・・・・・」
 ワンリの胸元にぶら下がっている勾玉は、全く何の反応も示していなかった。

 コレットの提案で世界樹に勾玉を当ててみたが、それでも何も起こらずにしばらくふたり揃って首を傾げる。
「・・・・・・やっぱり勘違いだったのでしょうか?」
「うーん。どうだろう? いっそのこと直接聞いてみる?」
 何気なくそう言ったコレットに、ワンリは目を瞬いた。
「エセナにですか? それは・・・・・・」
「呼びましたか?」
 できるのかと聞こうとしたワンリだったが、そう続ける前にエセナ本人がふたりの前に現れた。
 考助の場合は、どこにいても名前を呼ばれれば気付けるが、他の者たちの場合はいくら呼ばれても気付けない。
 ただ、さすがに世界樹の足元にいれば、どんなに忙しくても気付くことができるのだ。

 いきなり現れて驚くふたりをしり目に、エセナはついと視線をワンリの胸元に寄せた。
「それにしても、それはどうしたのですか? 随分と騒がしいですが」
「騒がしい?」
 エセナの視線が勾玉に向けられていることの気付いたワンリがそう聞くと、エセナはコクリと頷いた。
「ええ。先ほどからずっと、力をよこせと言っていますよ?」
「力を? どういうこと?」
 意味がわからずに首を傾げるコレットを見て、エセナはすっと目を細めた。
「どうやらお互いに情報が不足しているようですね。それについてもう少しきちんと話を聞かせてもらってもいいでしょうか?」
「勿論」
 エセナの提案にコレットが同意して、勾玉を手に入れた経緯を話し始めた。

 
 ふたりからの話を聞き終えたエセナは、何度か頷いていた。
「なるほど、そういうことでしたか。その神具が、兄様のためになるのであれば、力を授けることくらいは問題ないのですが・・・・・・」
「何かあるの?」
 首を傾げたワンリに、エセナが少しだけ顔をしかめた。
「どうやら自分の価値をわかっているのか、勘違いしているのか、少々わがままなところが見受けられるようです」
 そう言いながらスッと目を細めたエセナを見て、コレットが心の中で両手を合わせた。
 基本的に、というよりも考助の前では終始穏やかな様子を見せているエセナだが、それだけではないことはコレットが一番よく知っている。
 コレットの中で、エセナは怒らせてはいけないリストの三番目に入っていたりする。
 もちろん、その上ふたりは、コウヒとミツキだ。

 そんなコレットの胸中などいざ知らず、エセナはワンリに向かって言った。
「力を預けるついでに『教育』も致しますから、少しの間預かってもいいですか?」
「えっ!? あ、うん。勿論いいのですが・・・・・・」
 ワンリもエセナの態度に何かを感じているのか、わずかに戸惑ったまま頷いた。
「おかしなことをすると、攻撃されたりしますから気をつけてください」
「大丈夫ですよ。少なくとも今のその子ができることなど、たかが知れています」
 そう言い切ったエセナは、ワンリが差し出した勾玉をスッとつかみ取った。
 勾玉をつかんだ瞬間、バチッと音を立てたが、エセナは気にした様子も見せずに、ころころと手のひらの上で転がし始める。
「・・・・・・中々に頑固なようですね。少し時間がかかるようですから、おふたりはしばらく寛いでいてください。何か用事があれば私の名前を呼んでいただければ、すぐに来ます」
 そう言ったエセナは、勾玉を持ったまま音も無くその場から消え去った。

 結局エセナがもう一度姿を現すまでに、小一時間ほどの時間がかかった。
 その間コレットとワンリはずっと世界樹の麓で待ち続けたわけではなく、一度屋敷へと戻っている。
 一度消えたエセナだったが、思い出したように現れて一時間後くらいに来るように言ってきたのだ。
 そして、エセナはワンリに勾玉を返すことになったのだが、そのときの笑顔がとても印象に残ったと、のちにワンリは考助に語ることになるのであった。
勾玉にエセナの調きょ・・・・・・もとい、調整が入りました。
劔から力をもらって元気になっている勾玉ですが、それでも世界樹に対抗できるだけの直接の力は持っていません。

次で今回の神具にまつわる話をまとめて、第六部も終わりになると思います。
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