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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4章 神具の力

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(4)過去の風景

 神力を貯め終えた水鏡は、まずピーチが使ってみることになった。
 ほぼ子育てが終わっているシルヴィアに対して、ピーチはこれからが本番になる。
 そのため、次に管理層に来ることができるのがいつになるのかわからないので、ピーチが優先されることになったのだ。
 シルヴィアはすでにふたりの子育てをしているので、そのことはよくわかっている。
 あっさりとピーチを優先させて、自分は別のことをすると言って管理層にある自室へと戻って行った。
 そして、水鏡を使い始めたピーチを見ていた考助は、ここに自分がいても役には立てないと判断して、シルヴィアと同じように自分の作業をするために研究室へと向かった。

 考助が研究室に籠って魔法関連の書物を読んでいると、シルヴィアが室内に入ってきた。
「あれ? どうしたの? 珍しいね」
 シルヴィアも含めてコウヒとミツキ(とイスナーニ)を除く女性陣が、研究室に入ってくることはほとんどない。
 別に出入りを禁止しているわけではないのだが、そこが考助の仕事場と分けて考えられているのである。
 もっとも、滅多に入ってくることがないだけであって、入り口に鍵がかかっているわけでもなく、自由に入ってくることはできる。
 今もシルヴィアは、ドアをノックしたうえで部屋に入ってきていた。
 ・・・・・・対応をしたのはコウヒで、考助自身はそのことに気付かずに本に没頭していたのだが。

 シルヴィアは、考助が本から視線を上げて自分を見たのを確認してから要件を切り出した。
「ピーチが早速新しい使い方を見つけたようです。もしお時間があれば・・・・・・」
「行くよ」
 考助は、シルヴィアに最後まで言わせず、すぐに立ち上がった。
 話の切れ目でちょうど良かったのもあるが、それよりも神具のほうが、興味があるのだった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 ピーチのいる部屋に入った考助は、すぐに水鏡の変化に気付いた。
 何しろ、水鏡が淡く光っているのだ。気付かないはずがない。
 その光は目を刺激するようなものではなく、どことなく精霊が発する光を考助に思い起こさせた。
「見事に光っているね。それとも、見えているのは僕だけ?」
 一応確認した考助に、ピーチもシルヴィアも首を左右に振った。
「私が、神力を意識して使い始めたら、すぐにこうなりました~。光自体は特に何かを起こしたりしなかったので報告はしませんでしたが、まずかったですか?」
「いや、そんなことはないよ」
 ピーチの言葉に、考助は首を左右に振った。
 特に何かがあるわけでもなく、ただ光るだけで報告されても、考助としても何もできない。
 報告したら駄目ということではないが、返事が「わかった」だけで終わってしまう可能性が高い。

 その言葉にホッとしたような表情になったピーチは、視線を考助から水鏡へと移した。
「それで、ひとつ確認なのですが、コウスケさんは水鏡の水に映っているものが見えますか~?」
 ピーチのその問いかけに、考助は両目をぱちくりとさせたあと、水鏡に張られている水をみた。
 するとそこに、写真か絵のように何かの風景が映っているのが確認できた。
「・・・・・・ん? これは、神殿? あっ、もしかして、この娘はシルヴィア!?」
 思わず大きな声を出してしまった考助に、ピーチがコクリと頷いた。
「やはりコウスケさんには見えるんですね。ご想像通り、その娘はシルヴィアみたいですよ~」
「やっぱりそうだったか。ところで、やはりって何?」
 まるで他の人には見えていないようなピーチの言い草に、考助は首を傾げる。
 そんな考助に対して、シルヴィアが答えを言ってきた。
「あの、私もピーチに言われて見たのですが、特に何も見えていないのです」
「え、そうなの?」
 考助にははっきりと水鏡にある水に映っている光景が見えるため、全員が見えているものだと考えていた。

 すぐに考助と一緒についてきたコウヒにも確認してもらったが、やはりシルヴィアと同じように何も見えないという返事が返ってきた。
「うーん。ピーチと僕だけに見ている? 何となく理由はわかるけれど、それって何の意味があるのかなあ?」
 ピーチが見えているのはこの光景を水鏡に映しだした当人だからで、考助が見えているのは水鏡と繋がりがある現人神だからと考えられる。
 ただ、それよりも考助にはわざわざ限られた人にしか見えなくしているほうが気になった。
「意味があると考えるほうが、間違っているのではないでしょうか?」
「というと?」
 シルヴィアの言葉に、考助は首を傾げる。
「今は何でもない光景が見ているようですが、これが重要な場所とかになると、隠す意味も出てくるかと思われます」
「ああ、そうか。そういえば、今映っている場面がどういうところかも聞いていなかったね」
「これは、恐らくシルヴィアの過去の一場面みたいです~」
 ピーチの答えに、考助は「へー」と相槌を打った。
 映っているシルヴィアの小さい姿から昔の映像だということは想像できていたが、それがきちんと裏付け出来た。
「それにしても・・・・・・」
「?」
「予想通りというか、何というか、やっぱりシルヴィアの小さい頃って、可愛かったんだなあ」
「えっ!? あっ! ちょ、ちょっと待ってください!」
 しみじみとした考助の言葉に、シルヴィアが顔を赤くして水鏡を隠そうと手のひらで覆い隠そうとしたが、当然そんなことをしても大きさ的に意味はない。
「やっぱりそう思いますよね~」
 慌てるシルヴィアをニヤニヤと見ながらピーチが大きく頷いた。

 若干涙目になるという珍しいシルヴィアを見ることができた考助とピーチは、何事もなかったかのように続きを話し始めた。
「この場面以外も確認したんだよね?」
「もちろんです~。きちんと映ることも確認しましたよ」
「へー。ピーチの小さいときの場面か。やっぱり可愛かったんだろうね」
「う~ん。どうでしょう? 昔の私は、感情を出さないようにしていましたからねぇ」
 魅了の力を表に出さないようにしていた昔のピーチは、感情も出さないように自ら制限していた。
 そのため、ピーチには非常に感情に乏しい表情だったという自覚があるので、シルヴィアのようにかわいらしかったとは考えていないのだ。
「まあ、せっかく見ることができるんだったら見てみたいな。映せるんだよね?」
「勿論できますが、あまり面白いものでもないと思いますよ~?」
「いいえ! 面白いです。さっそく見てみましょう!」
 自分では見ることのできないシルヴィアが、なぜか考助とピーチの会話に乗ってきた。
 どうやら自分だけ昔の姿を考助に見られたことが、恥ずかしいようだった。

 結局シルヴィアの勢いに押されて、ピーチは自分の昔の姿を水鏡に映すことになった。
「これがピーチの小さい頃か。なんだ。ちゃんと可愛いじゃないか」
「ちゃんとって、ひどいです~」
 考助の感想に、ピーチが微妙な表情になってそう返す。
「いや、だって、自分で表情が乏しいとか言っていたじゃない。全然そんな風には見えないよ?」
「ありがとうございます~」
 シルヴィアのときとは違ってとくに恥ずかしそうな様子も見せないピーチに、シルヴィアが納得のいかないような表情になっていた。
「シルヴィア、どうしたの?」
「・・・・・・なんでもありません。それよりも、コウスケさんの小さいころはどんな感じだったんですか?」
「僕の? いや、別に映すのはいいんだけれど、そもそも映るかどうかはわからないよ?」
 考助の場合、魂は以前の世界からのものだが、肉体はアスラが用意したものだ。
 水鏡に映っている条件が、魂ではなく肉体にると、映らない可能性のほうが高いのである。

 結局考助の過去は無事に水鏡に映すことができた。
 そこに映った見たことのない風景に、ピーチが興味深そうに見ていた。
 ただ、そもそもの水鏡で新しい使い方を見つけたということから大きく話がずれていることに一同が気付くのは、それからかなり経ってからのことであった。
こんな話需要があるのかと思いつつ結局最後まで書いてしまいました。
偶にある日常の風景ということでお許しください。
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