挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4章 神具の力

795/1217

(2)水鏡の変化

 ワンリの持つ勾玉に力の移譲を終えた考助は、管理層へと戻った。
 久しぶりにミツキの料理を食べたいと言ったワンリも一緒に戻っている。
 狐のお宿を運営している最近のワンリは、料理の研究にも熱心なのである。
 考助の知らないところで、セシルやアリサに街に連れて行ってもらい、色々な食事を食べに行ったりもしているようだった。
 街の中で化け狐だとばれるとまずいこともあるが、セシルやアリサも一緒で普通に人の姿になっている場合は特に問題ないので、考助も好きにさせていた。
 それよりも、夢中になれる何かが見つかってくれた方が考助としてはうれしいのである。

 管理層に戻った考助は、雑談室で顔を突き合わせているシルヴィアとピーチを見つけた。
 雑談室は、くつろぎスペースと違って、塔の管理の内容など少し硬い話をするときに使うように作った部屋だ。
「ピーチがいるのか。子供は大丈夫なの?」
「はい~。今日はこっちに来るようにと追い出されてしまいました」
 子供が母親べったりになるのは悪いことではないのだが、今のうちから少しの間親と顔を合わせない時間を作る必要もあるとかで、ピーチもコレットも管理層に来ることがある。
 勿論、それには子供のためだけではなく、親が育児に疲れすぎないようにという配慮もある。
「そう。それで、ふたりで何をして・・・・・・というのは、わざわざ聞かなくてもいいか」
 ふたりを挟んであるテーブルの上に置かれている水鏡を見れば、何の話をしていたのかは考助にもすぐにわかった。

 シルヴィアとピーチがふたりでそれぞれ水鏡の使い方を研究していることは、考助も知っている。
「何か進展でもあった?」
 その考助の問いかけに、シルヴィアとピーチは一度顔を見合わせて、同時に首を左右に振る。
「いいえ。特にはありませんわ」
「ふたりの使い方が、全く違っていますからね~」
 そもそも巫女としての使い方と占い師としても使い方は、全く違っている。
 そのため、ふたりの使い方に共通したものは、ほとんどないのだ。
 むしろ、どちらの役割もこなせる水鏡が器用すぎるともいえる。
 そこはやはり、神具としての面目躍如といったところだろう。

 シルヴィアとピーチの答えを聞いた考助は、ウーンと首をひねった。
「神力を使っているというのは共通項だろうけれどね。今のふたりの使い方は、普通の道具と変わらないよね?」
 普通の道具でもできるようなことを、わざわざ神具を使って行う必要はない。
 勿論、精度といった意味では上げたりすることはできるが、それだって使用者の腕でいくらでも上げることができる。
 要するに、今二人が使っているやり方は、神具としてはあまりに普通な使い方といえるのだ。
 もっともそれは、今のところ人型に変化したときに衣装を纏わせる使い方しかしていなワンリも同じ事だ。

 三人の会話を聞いていたワンリがばつの悪そうな表情になったことに、シルヴィアが気付いた。
「ワンリ、神具の使い方に関しては、ゆっくり探していけばいいのですよ? 気にすることはありません」
「で、でも・・・・・・」
 使い方が使い方だけに気が引けるのか、ワンリは困ったような顔になった。
 そんなワンリの頭に、考助がポンと手を置いた。
「前にもいったと思うけれど、使いたいように使っていればいいんだよ。焦る必要はないから」
「そうですよ~。自分にあった使い方をすればいいんです。私たちは、こうやって話をしているのも楽しみのひとつですから」
 考助とピーチのフォローに、シルヴィアが同意するようにコクリと頷いた。
「そうですよ。ワンリはワンリにあった使い方があるはずです。私たちとは違うのですから、変に焦ってはいけません」
 元が狐であるワンリは、そもそもの根っこが違っているためシルヴィアたちにも助言することができない。
 正確には、シルヴィアたちが助言をすると、せっかくの狐の部分が殺されてしまう可能性がある。
 だからこそ、ワンリに対しては好きに使っていいという、半ば放り投げた形になってしまっているのだ。

 三人がかりで説得されたワンリは、頭の上に乗せられた考助の手を自らの手で押さえながらコクリと頷いた。
「わかりました。自分なりに頑張ってみます」
「それがいい。ピーチたちはピーチたちで、マイペースにやっているんだから」
「そうですよ~」
 ピーチが安心させるようにニコリと微笑んだのを見て、ワンリもようやく納得したのか小さく笑うのであった。

 ワンリの慰めたあとは、シルヴィアとピーチの会話に考助が混じって話を始めた。
 その間ワンリは、台所にいるミツキのところに行って料理のお勉強をする。
 色々と実践を織り交ぜながら話をしていたため、考助たちは時間を忘れて話し込んでいた。
 ワンリがミツキと一緒に戻ってきたときには、大きく話が脱線していたのはご愛敬である。
 水鏡をそっちのけで話をしていた考助たちを横目に、ワンリがその水鏡を自分のところに近寄せてまじまじと観察しだした。
 ワンリがここまでまじめに水鏡を見るのは、何気にこれが初めてだったりする。
「・・・・・・・・・・・・あれ?」
 しばらくの間水鏡を見ていたワンリが、首をひねりながら疑問の声を上げた。

 ワンリの声に気付いた考助が、そちらの方を見た。
「ん? ワンリ、どうかした?」
「あ、えっと。水鏡のここのくぼみが、ちょうど勾玉と形が一緒じゃないかと思うのですが・・・・・・」
 ワンリがココと指さしたのは、水が入っている器部分にあるくぼみだった。
 ワンリの指先に合わせて、考助は視線を動かす。
「ん~? 確かに、言われてみれば?」
「くぼみ? そんなものは無かったはずですが・・・・・・?」
 考助とワンリの会話に、シルヴィアが首を傾げながら入ってくる。
 だが、考助とワンリが同時に指をさしている場所を見て、若干驚いた表情になる。
「・・・・・・ありますわね」
「ええ~? 私もくぼみなんて知りませんよ? ・・・・・・ありますね~」
 シルヴィアとピーチがお互いに顔を見合わせて首を傾げた。

 水鏡に関しては、シルヴィアとピーチがそれぞれ同じくらい触っている。
 そのふたりが無かったと言っているくぼみが、いつの間にか水鏡にできている理由は、ふたつしか考えられない。
 すなわち、ふたり揃って気付いていなかったか、いつの間にかできていたか、である。
 ただ、水鏡が手元に来てからは、ふたりともかなり頻繁に触っていたので、揃って気付いていなかったというのは考えづらい。
 となれば、理由は一つに絞られる。
「ワンリが、というか勾玉の神具がある状態で触ったから新しくできたのかな?」
「それが一番あり得る理由でしょうね」
 考助の推測に、シルヴィアが同意した。
 道具に勝手にくぼみができるというのもおかしな話だが、姿かたちを変えるという神具の特性を考えればありえなくはない。
「ここに勾玉を入れるということでしょうか?」
「まあ、ここまであからさまに変化したとなると、そうなるんだろうねえ」
 ワンリの疑問に、考助が頷いた。

 ここで一同は顔を見合わせた。
 あからさますぎるその変化が、何かの誘いのように思えたのだ。
 ワンリを含めた全員の顔が、疑わしいものを見るような顔になっている。
 それぞれ視線がそれぞれの顔を見たあと、代表してピーチが考助に向かって言った。
「そういうわけですから、コウスケさん、お願いします~」
「やっぱり、そういう流れになるわけだ」
 考助はピーチの台詞にそう答えたあとに、がっくりと肩を落とすのであった。
ワンリの料理修業は順調に進んでいますw
そして、あからさまな変化をした水鏡に、その場にいた全員が躊躇しています。
まあ、結局は試すしかないわけですが。

--------------------------------
新作「天翔けるそらの彼方へ」を本日から投稿開始しています。
よろしければ、そちらもお読みください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ