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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 劔

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(11)演奏開始

 闘技戦の予選などに使われている闘技場に、今は別の目的で観客が集まっていた。
 その観客のほとんどは、普段見ることができない珍しい見世物を見たいがために集まっていた。
 通常は闘技者たちが己の強さを示すために闘技が行われている闘技場で、現在神具を使ったデモンストレーションが行われていた。
 全く予測のつかない闘技と違って、今行われているのはある程度の打ち合わせが行われたうえでの見世物だが、それでも観客たちは盛り上がりを見せていた。
 どちらかといえば、今行われている戦いもどきのほうが、観客により魅せる動きをしているので、普通の闘技よりも派手に見えている。
 そうした派手な動きが、観客を盛り上げさせているのである。

 今闘技場で行われているのは、神具の持ち主を決めるための見世物だ。
 観客たちが持ち主を決めるための判断をするわけではないが、それでもその歓声が勝負の行方を左右するひとつになるだろう。
 少なくとも観客席からパフォーマンスの様子を見ていたオラースはそう考えていた。
「事前に武器に触れなかったのは痛かったようですが、何とかさま(・・)になっているようですね」
「そうですね。とりあえずは一安心、というところでしょうか」
 隣に座っていた祭司長の言葉に、オラースも満足げに頷いた。
 オラースは、他の神剣が使われるところも見たことがあるため、今のパフォーマンスはどこか物足りなさを感じている。
 だが、サムエルが使っていたときよりは、はるかにましな使われ方をしているように見えた。

 それもそのはずだろう。
 今彼らの前でパフォーマンスを行っているのは、普段から別の神殿で神剣に触れて戦いを行うことを許された神官戦士なのだから。
 わざわざ今回のために彼を呼び寄せたのだ。
 酒場での騒ぎからこのパフォーマンスを行う期間が開いたのは、そのためでもあった。
 その目論見は十分に果たせたことは、観客たちの様子を見ても判断できることだった。

「さて、問題は彼女たちが何をしてくるか、ということですか」
 オラースはそう言いながら、なぜか着飾った衣装を身にまとっているふたりの女性へと視線を向けた。
 そのふたりの女性は、間違いなく先日酒場でオラースとやり取りをした巫女であるシルヴィアともう一人傍で様子を窺っていた女性だった。
 シルヴィアは、冒険に出られるような簡易的な巫女服ではなく、いわゆる飾り服といわれる神々の文様などをあしらった巫女が着る正装を着ている。
 そして、もう一方の女性は、これから戦いが行われるとは思えないようなひらひらが付いた服を着ていた。
「・・・・・・いったい何を考えているのか」
 思わずぽつりとこぼしてしまったオラースの言葉を聞きとがめて、神官長が小さく笑って答えた。
「単に、こんな場面ですから着飾ってきただけでしょう。戦い自体は別の者が行うのでは?」
「そうですな。あんな格好で出てくるとは、舐めているとしか思えません」
 神官長に追随するように祭司長がそう言ってきたが、なぜかふたりを見ていたオラースは、胸騒ぎがしてならなかった。
 自分たちは何かとんでもない勘違いをしていたのではないかと。

 そんな自分の予感を振り払ったオラースは、演技を終えた神官戦士を出迎えるために席を立った。
 そして、戦いの場に降りたオラースの元に、神剣を持った神官戦士がやってきて、剣を返すために恭しく差し出す。
 この辺りのことができるのも、この神官戦士が、しっかりと神の名の下で戦えるように教え込まれているということを示していた。
 その彼から剣を受け取ったオラースは、一度頷いてから先ほどまでの演技に対しての言葉をかける。
「大義であった」
「いえ。すべては神の御心のままに」
「うむ」
 このやりとりで、神殿側のすべてのパフォーマンスが終わりとなる。
 オラースがそのことを示すように、観客席を一度グルリと見回すと、神殿関係者を中心にして拍手が広がっていった。

 
 神剣を受け取ったオラースは、その剣を持ってシルヴィアの元へと向かった。
 次のパフォーマンスを行うのはシルヴィアたちになっているためだ。
 剣を渡すだけなので、特に何か戦いが行われるわけではないのだが、近付いて行くオラースを見て観客たちが静かになる。
 この催しが、どういった目的で行われているのかきちんとした説明がされているため、両者の間でどういった会話が行われるのか注目しているのだ。
 観客の注目に応えるように、神具を差し出したオラースが、シルヴィアに話しかけた。
「これでもまだ我々に勝てるつもりでいるのですか?」
 胸騒ぎを隠すようにしてことさらに笑顔になったオラースに、シルヴィアがこれまたニッコリと笑って答えた。
「勿論ですわ。というよりも、そろそろ貴方も気付かれているのではないでしょうか?」
「・・・・・・どういう意味でしょうか?」
「さあ? それはあなた自身で考えるべきでしょう」
 鋭い視線で自分を見てきたオラースに、シルヴィアはただ首を傾げるだけでそれ以上を答えなかった。

 これから行われることに集中していたためふたりのやり取りをほとんど聞いていなかったフローリアが、シルヴィアに声をかけた。
「そろそろいいか?」
「ええ、そうですね」
 もはや自分が演武を行う舞台しか目に映っていないフローリアに、シルヴィアが短く答える。
「待ちなさい。まさか、そなたたちが戦いを行うと?」
 半信半疑といった様子で聞いてきた神官長に、舞台に向かおうとしていたシルヴィアが振り返った。
 既にフローリアは、闘技場の中央に向かって進んでいる。
「誰が、戦いを行うといいましたか? 私は、神具にふさわしい使い方をすると言っただけですよ?」
「な、なんだと!?」
 驚きながら首を傾げる神官長に、シルヴィアがため息をつきながら答えた。
「この期に及んでまだ気がついていないのですか。もういいですから、このままそこで私たちのやることを見ていてください」
 それだけを言って、さっさとフローリアのあとを追ったシルヴィアを、神殿長たちはただ茫然と見送るのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 闘技場の中央で、フローリアとシルヴィアは観客に向かって一度頭を下げた。
 その後、中央にはフローリアだけが残って、シルヴィアが少し離れた場所へ移動する。
 フローリアは剣を持って演武を行うので、シルヴィアがそばにいると邪魔になる。
 フローリアと確認をしながら適度な距離に離れたシルヴィアは、その場所で荷物入れの中からとある道具を取り出した。
 シルヴィアが取り出した道具とは、巫女や神官が使う横笛だった。
 流石にそこまですれば、シルヴィアたちが何をしようとしているのか、セイチュンの神殿長たちにも分かったのだろう。
 揃って顔色を変えたのがシルヴィアからも確認できた。
 だが、もうすでに遅い。
 シルヴィアは、息を吸い込んでからすぐに、その横笛に音を鳴らすべく息を吐き出すのであった。

 会場中に広がる横笛特有の音に、観客たちは魅了されるように引き込まれた。
 もともと巫女姫としての英才教育を受けたシルヴィアだ。
 神にささげる音を出せるように、一通りの楽器をならすことができる。
 その中でも一番得意なのが、今使っている横笛だ。
 演奏する曲は、前もってフローリアと打ち合わせしてある。
 シルヴィアは、剣を持って踊るフローリアに合わせて横笛を奏でるのであった。
フローリアの演武の前に、シルヴィアの演奏でした。
ただ、今回のシルヴィアの演奏はあくまでもフローリアのおまけ扱いですw
ちなみに、フローリアが来ている服は、ジプシー(ロマ)が着るような物をイメージしています。(見ているのが神官なので、具体的な描写はあえて書いていませんw)
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