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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 劔

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(8)聖職者の常識

 セイチュンのエリサミール神殿の神殿長であるオラースは、慌ただしい気配を部屋の外から感じて、書面から顔を上げた。
 そして、その予感に違わずドアがノックされた。
「入りなさい」
 オラースの声に反応して扉が開かれて、ひとりの神官が入ってきた。
「失礼します。神具の剣で状況に変化があったそうです」
 本来であれば挨拶すべきところをいきなり要件から告げた神官に、オラースは叱るどころか眉を上げて先を促した。
「詳しく話なさい」
「はい」
 短く返事を返したその神官は、ギルドの酒場で起こっていることを話し出した。
 いくらのんびりとしていた状況とはいえ、しっかりとサムエルに監視のようなものは付けていた。
 むしろ、だからこそのんびりとサムエルが値を下げるのを待つことができていたのだ。

 神官からの報告は、フローリアたちがサムエルとの交渉を終わらせたというものだった。
「・・・・・・よくありませんね」
 顔をしかめてぽつりとつぶやいたオラースは、気を取り直すように首を左右に振ってから神官を見た。
「神官長と祭司長には?」
「別の者が報告に行っています」
「わかりました。では、追加で私が出ると伝えておいてください。ふたりが来るかどうかは、それぞれの判断に任せます」
「かしこまりました」
 オラースの言葉に大きく頷いた神官は、すぐに部屋の外に出て行く。
 それを見送ったオラースも外出するための準備を始めた。

 そして、オラースの準備ができたころには、神官長も準備を整えて神殿の出入り口付近で待っていた。
 祭司長は外せない用事があるとのことで、酒場には行くことはできないという連絡があった。
 簡単な挨拶を済ませたあとに、オラースたちは神殿を出て酒場へと向かった。
 さすがに神殿長と神官長のふたりがいるので、護衛の人数が多めになっている。
 ただ、いくら俗世を離れて修行を続けてきた神官とはいえ、狭い酒場に大勢で押しかけることはしない。
 神殿長と神官長、それに護衛の三人を選んで、彼らは酒場の中へと入ることになった。

 中に入ってすぐに、オラースは目的の人物を見つけた。
 何人か巫女服を着ている者はいても、話に聞いていた特徴を持つ者はひとりしかいなかったのだ。
 オラースは、その人物のところに向かって歩いて行く。
 そして、相手のことを試すように、聖職者特有の挨拶を交わした。
 するとその相手はその挨拶に現人神の名前を出してきた。
 その瞬間、オラースは思わず感情を表情に出してしまった。

 神殿内の常識のひとつとして、新しい神よりも古い神のほうが力を持っているというものがある。
 厳密にはそれは間違いで、すでに神々の最近の研究者の間でも違っていると認められている。
 ただ、長年の間に染みついた常識というのは、中々消せるものではない。
 己の感情が出てしまったことに思わず内心で舌打ちをしたオラースは、ごく自然な感じで相手の女性を観察した。
 その顔を見る限りでは、自分が感情を出したことに対して何の反応も見せていない。
 オラースには、それが感情を隠しているためなのか、単に自分の表情の変化に気付かなかったためなのか、判断できなかった。
 そのことに内心で舌打ちをしつつも、オラースはその相手に話をさらに続けるのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 定型の挨拶を終えたシルヴィアは、さっそくオラースへと問いかけた。
「それで、神殿長がわざわざどういったご用件でしょうか?」
 オラースの目的が神具の剣であることはわかりきっているのだが、敢えてシルヴィアはそう切り出した。
 聖職者独特の回りくどい言い方で話されるよりも、最初に目的をはっきりさせておいた方がいいためである。
 対するオラースは、それに関して特に反応を見せずにちらりとフローリアの持つ神具へと視線を向けた。
「あなたたちがお持ちの神具についてお話ししたい。しかし、いささかせっかちのような気もしますが、さすが新しい神を信仰しているといったところでしょうか」
 勿論(?)、チクリとやっておいたのはわざとである。
 大抵神官や巫女は、自身の信仰を揶揄されると何らかの反応を見せる。
 このときに気をつけなければならないのは、あくまでも相手の信仰をいじるのであって、神そのものを対象にはしない。
 そんなことをすれば、今度は自分に跳ね返ってくることになる。

「そうでしたか。ですが、私たちもそれなりの物を支払って手に入れたのです。今のところ手放す気はありません」
 オラースの嫌味を華麗にスルーしたシルヴィアは、コクリと頷きながらそう答えた。
 シルヴィアにしてみれば、自分がどれほど神々を信仰しているかは自身だけが知っていればいいと考えているのだ。
 神そのもの(考助)を揶揄されるならともかく、自分のことをどうこういわれても、特に何も感じない。
 対するオラースは、何の変化も見せなかったシルヴィアに、内心で舌打ちしつつ表情は笑顔になった。
「なるほど道理ですね。ですが、私たちも簡単には諦めるつもりはないのですよ」
 言外に神殿の事情も分かるでしょうという意味を込めながら、オラースはさらに続けた。
「我らが信仰する主神は、エリサミール神。よりふさわしいとは思いませんか?」
 何とどう比べてふさわしいのか、オラースは敢えて言葉にはしない。
 これもまた直接神を冒涜したりしないようにするための技術(?)である。
 ちなみに、エリサミール神は、太陽の神でありその象徴のひとつとして剣が上げられることが多い。

 オラースの言葉に小首を傾げたシルヴィアは、少し考えるように間をあけてから答える。
「そうでしょうか? ではお聞きしますが、神殿長はこの神具を何だとお考えですか?」
「何って・・・・・・剣でしょう?」
「ではお聞きしますが、神殿としてどのようにお使いになるか、お聞きしてもよろしいですか?」
「・・・・・・むっ」
 まさか宝物庫の奥にしまって腐らせるつもりはないでしょうねという意味を込めて言ってきたシルヴィアに、オラースは言葉を詰まらせた。
 正直に言えば、神具を手に入れるということしか考えておらず、手に入れたあとにどう使うかまでは気にもしていなかった。
 あるとすれば、権威を示すために時折一般公開するくらいしか思いついていない。
 この場にいるオラース含むすべての神官たちは、剣を「剣」としか考えておらず「劔」として儀式に使うなんてことは、少しも考えていなかった。
 シルヴィアとしては、彼らがそう考えるように誘導しているのだが、それには全く気付いていない。

 結果として、オラースは見事にシルヴィアの思惑に気付かないままはまり込んだ。
「それは勿論、神殿を守る戦士に貸し与えて神のために戦ってもらいますとも!」
 神殿が護衛騎士として冒険者を雇うことはいくらでもある。
 特に剣の神具を持つ神殿は、神の戦士として強者に神剣を貸し与えることはよくあることだった。
 オラースが思惑通りに動いてくれたことに内心で安堵のため息をつきながら、シルヴィアはそれを表情に出さないようにしながら答える。
「そうですか。では、敢えて断言させていただきます」
 少しの間をあけてからシルヴィアはさらに続けた。
「あなたたちはこの神具を持つにふさわしくありません。この神具は私たちが扱う方がふさわしいと考えます」
「「「「「なっ・・・・・・!?」」」」」
 はっきりと言い切ったシルヴィアに、酒場に来ていた神官たち全員の驚きの声が重なった。
 彼らにしてみれば、一介の冒険者巫女が神殿に勝てると言い放ってきたに等しいのだから、そういう反応をするのも当然だろう。

 シルヴィアのやり取りを見ていたフローリアは、相変わらず聖職者に対してはきつい物言いをするなという感想を抱くのであった。
珍しく(?)腹黒さを発動するシルヴィアでしたw
最後にフローリアが感想を漏らしたように、神官や巫女相手には結構きつい物言いをするシルヴィアです。
勿論、色々と知り尽くしているために、敢えてそうしているということもあります。
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