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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 劔

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(5)交渉(前)

 冒険者ギルドに併設された酒場で、とある男の声が響いた。
「・・・・・・んだと!! もう一回言ってみろ!!!!」
 台詞も声の大きさも、冒険者が集まるこの酒場ではよくあることだ。
 この程度では、一瞬視線を向けるくらいで、すぐに自分たちのテーブルに視線を戻すのが常だった。
 ただ、今回いつもとわずかに違っていたのは、その言葉を向けられた相手が、セイチュンの町ではそこそこ有名な女性だったことだ。
「なんだい。図星を指されたからって大声を上げるのは、みっともないよ?」
 そう言ったカルメンは、周囲の視線を集めているにも動じた様子も見せずに、自分に向かって声を上げた相手を見据えた。
 その視線に一瞬だけひるんだ様子を見せたのは、最近悪い意味で注目を集めているサムエルだ。
 このふたりの組み合わせを見て、察しのいい者たちはすぐに騒ぎの理由に検討をつけた。
 闘技場ランクの上位に位置するカルメンが、以前から強い武器を欲していたことは、情報通であるなら大体知っていることだ。
 更に、サムエルが神具をできるだけ高値で売りつけたいと思っていることも知れ渡っている。
 そのふたつを結びつかれば、ここで何があったのかは少し考えればすぐにわかることだった。

 そんな周囲の予想通り、カルメンがサムエルに対して闘技場での戦いを指摘して、それに逆上したセリフが先ほどのものだったというわけだ。
 カルメンとしては、実績を指摘してできるだけ安くしてしまおうと考えてのことだったが、予想以上の反応に逆に驚いていた。
 もっとも、そんな思いは顔には出さずに、これは材料に使えると考えている。
「それで? 連敗中のあんたが、一体どれほどの値をつけてくれるんだね?」
 挑発するようなカルメンの言葉に、サムエルはあからさまに歯ぎしりをした。
 できることなら「お前になど売らん!」と言ってやりたいが、ようやく出てきた買い手だ。
 そんな簡単に切り離しては駄目だと内心で言い聞かせつつ、多少強気に値段を言おうとした。

 だが、カルメンが言葉を発するよりも先に酒場内が再び騒めき、今度はカルメンたちがいた場所とは別のところに注目が集まった。
 周囲につられるようにそちらの方に注目したサムエルだったが、つい先ほどまでのやり取りを忘れて両目を見開いた。
 酒場の入り口になっているそこには、見たこともないような美人が立っていたのである。
「おやおや。珍しい」
 サムエルとは別の意味で驚いたカルメンが、突然がたりと席を立ちあがった。
「お、おい?」
 まだ話が終わっていないのに突然立ち上がったカルメンに、サムエルが驚きつつ思わずそう声をかける。
「安心しな。別に話を終わらせるわけではないさ。ただ、顔見知りに挨拶をしてくるだけだ」
 カルメンは、そう言いながら驚いたままのサムエルを放っておいて、ふたり組の美人のほうへと歩いて行くのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 酒場の入り口で注目を集めているふたり組は、劔の神具を求めてやってきたシルヴィアとフローリアだった。
 人の注目を浴びることに慣れてしまっているふたりは、周囲の視線を無視するようにサムエルを探して視線をさまよわせた。
 だが、ふたりがサムエルを見つけるよりも先に、カルメンがふたりの傍へと寄ってきた。
「やあ。珍しいじゃないか。コリーは一緒じゃないのかい?」
 カルメンは、シルヴィアとフローリアの直接の知り合いではないが、コリーと一緒にいるところを何度か見ていて知っていた。
 だからこそ、周囲の注目を避ける意味でもふたりに話しかけたのだ。
 これだけ美人なふたりだと、煩わしい思いをする可能性もある。
 それをカルメンが話しかけることによって、知り合いであることを印象付ければ、そうした輩がいなくなるだろうという目論見がある。

 カルメンに話しかけられたフローリアは、彼女のそうした心遣いに気付いて話に乗ることにした。
「ああ。今日は、コリーは来ていないな。私たちは、別件で用事があってきたんだ」
「へえ? 別件ねえ。それは私が聞いてもいいことなのかい?」
 確認するように聞いてきたカルメンに、フローリアは肩をすくめて答えた。
「勿論かまわないさ。・・・・・・例の神具使いに話があってきたんだ。ここにいると聞いてね」
 そのフローリアの答えを聞いて、カルメンは思わず両目を見開いた。
 フローリアが言っている神具使いというのは、間違いなくつい先ほどまで自分が話をしていた相手だからだった。
「へえ、なんだい。あんたらもあの剣に興味があるのかい?」
 カルメンのその微妙な言い回しに、フローリアが気付かないはずもなく、少しだけ驚いた表情をみせた。
「も、ということは、そなたもか?」
「ああ、そうだね。ちょうど今、あんたらが来る前に話をしていたところだ」
 カルメンは、そう言いながらサムエルへと視線を向けた。

 つられるようにカルメンの視線を追ったフローリアとシルヴィアは、そこにサムエルがいることを確認した。
「そうか。・・・・・・どうする? どうやら目的がかぶったようだが、邪魔をするつもりはないぞ?」
 神具の気性を考えれば、他者に渡すのは避けたいが、無理やり交渉の横入りをするつもりもない。
 フローリアに問われたカルメンは、ジッとふたりを見たあと、首を左右に振った。
「いや、やめておこう。あんたらが出張ってきたということは、何かありそうだ。私が手をだしたら火傷をしそうだ」
 カルメンは、これまでの付き合いからコリーを中心とした彼女たちが、当たり前の活動をしているのではないということに気付いている。
 そもそも、今ではセイチュンの大勢力のひとつとなっているクラウンの支部ができたのも、彼女たちの仲間が動いた結果だった。
 彼女たちに近しいものは、そうした状況にしっかりと気付いているのである。

 首を左右に振りながら降りることを宣言したカルメンを見て、フローリアは楽しそうな表情になった。
「ほう? 本当にいいのか?」
「かまわないさ。それに、もともとどうしても欲しいというわけでもなかったしな。・・・・・・あいつが値を吊り上げるようだったら、さっさと引き上げるつもりだった」
「なるほどな」
 納得して頷くフローリアに、今度はカルメンが笑みを浮かべた。
「それよりも、あんたらの交渉に同席させてもらってもいいかい? いろいろと参考になりそうだ」
「それはかまわないが、というよりも、せっかくだからあの者に話を通してもらえないか?」
「ああ、それは構わないさ」
 あの者と言いながら視線をサムエルへと向けたフローリアに、カルメンは了承して頷いた。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 フローリアとカルメンが話をしている間、放置されていたサムエルは、そのことに怒るわけでもなく、むしろ内心でほくそ笑んでいた。
 最初は、いきなり席を立ったカルメンに憤っていたのだが、途中で彼女たちが自分を見てきたことに気付いて、それは収まった。
 それを見る限りでは、自分に用事があってきたというのがすぐに理解できたためだ。
 その用事とは、自分が持っている神具だということはわかっている。
 それを察したサムエルは、何とか表情に出さないようにして胸中で呟くのであった。
 どうやら自分にもようやく運が回ってきたらしい、と。
 だが、サムエルは勿論周囲にいる者たちも気付いていなかった。
 今カルメンと話をしている女性は、自分たちなど及びもしない交渉の数々を乗り越えてきた強者なのだということに。
 そんなことには欠片も考えもせずに、サムエルは自身の明るい未来について思いを浮かべ始めていた。
カルメンはさっさとフローリアに交渉権を渡してしまいました。
きっちりと自分の身の程を知っているカルメンです。
一方お花畑さんは、にやけ顔になるのを抑えるのに必死です。
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