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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 勾玉

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(17)経緯

「お兄様、お兄様! コウスケお兄様!」
「わっ!? ワ、ワンリ!? ど、どうしたの!?」
 くつろぎスペースでのんびりとしていた考助は、駆け込んできたワンリを見て、二重の意味で驚いた。
 ひとつ目は、普段のワンリはこんな慌てた様子を見せることがないため、何があったのかということ。
 もうひとつは、ワンリの来ている服装だ。
 普段のワンリは、ユリに合わせているのか、巫女服かそれに類するような服を着ている。
 今着ているようなゴスロリ風の服を着ているところなど、一度も見たことがない。
 どうしたのかと再度聞こうとした考助は、ふと視線がワンリの胸元に向いた。
 正確には、首にぶら下がっている勾玉に気付いた。
 それを見つけた考助は、何となくワンリがなぜこんなことになっているかを察するのであった。

 とりあえず考助は、若干涙目で迫ってくるワンリを宥めることにした。
「あ~、うん。とりあえず落ち着こうか。なんとなく理由は分かったから。ひとまず、深呼吸」
「は、はい」
 ワンリは、考助の言葉に素直に従って、深呼吸を始めた。
「どうしたんだ?」
 ワンリの様子がおかしいことは同じ部屋にいたフローリアも気付いていて、すぐに近寄ってきた。
 考助は、そのフローリアに視線だけで胸元を見るように示した。

 ワンリの胸元にある勾玉に気付いたフローリアは、考助と同じように事情を理解したのだろう。
 若干驚いたような表情を浮かべたあと、納得したように頷いた。
「ふむ。ひとまず良かったと喜ぶべきか?」
「うーん。どうだろう? まあ、変にエルフとかの手に渡らなかったのはよかったのかな?」
 考助はそう言いながら、ワンリの胸元で輝く勾玉に手を伸ばそうとした。
 だが、その途中で、それを嫌うように勾玉が熱を持つように赤く光り出す。
「駄目!」
 それに気付いたワンリが、慌ててポンと勾玉を叩いた。
 そのワンリの指示に従うように、赤く光りかけていた勾玉は、また通常の状態に戻った。

 それを見て、ホッとした表情を浮かべたワンリは、視線を勾玉から考助に戻した。
「ごめんなさい。もう大丈夫だと思います」
「ああ、うん。ありがとう。でも、もういいよ。何となく勾玉のことも分かったから」
「え、あれだけで、か?」
 考助の言葉を聞いて驚いたフローリアが、目を丸くした。
「うん。あれだけで、と言いたいけれど、勾玉からも話しかけられたからね」
「そうなのか?」
「うん。こんなにはっきりと道具の意思を感じ取ったのは初めてだよ。さすが神具といったところかな?」
 自分が作り出している数々の道具の中も神具があるというのに、考助はそんなことを言った。

 考助の言葉を聞いて、ワンリが「え」という表情になった。
 ここに来るまでに森を駆け抜けてきたワンリだったが、その間に何度か精霊を通して勾玉の意思を感じることがあったのだ。
 ワンリ自身は、早く考助に知らせなければという一心で、まともに受け答えするどころではなかったのだが。
「この子が何を言っているのか分かるの?」
「うん。ワンリみたいに精霊を通しているわけじゃないけれどね。これも神としての権能のひとつなのかな?」
 考助はそう言って首を傾げた。
 これまで道具の意思をなんとなく、ぼんやりとは感じることがあっても、ここまではっきりとした意思を感じ取るのは初めてのことだった。
 水鏡の場合は、感情がぼんやりと伝わってくるような感じで、勾玉のように「言葉」で伝わっていたわけではない。
 どちらかといえば、コーたち飛龍と意思のやり取りをしているような感じだった。
 それが、勾玉の場合は、はっきりと「会話」のようになっていた。
 お陰で、今回の神具の騒ぎもある程度は理解することができた。

 色々と聞きたそうな顔になったワンリを見て、考助は安心させるように微笑んだ。
「とりあえず、ワンリが持っている分には問題ないよ」
 考助がそういうと、ワンリは安心したような表情で頷いた。
「はい。わかりました」
「それで? 今までと違ってあっさりとワンリが神具を手に入れたことは、説明してもらえるのかな?」
「ああ、それは説明するよ。でも、全員揃ってからのほうがいいよね?」
 今この場には考助、ワンリ、フローリアしかいない。
 どうせ説明するなら全員揃ってからのほうがいいだろうという考助の考えを見抜いたフローリアは、「それもそうだな」と言ってワンリが来る前のときと同じように再び寛ぎ始めった。

 一方で、これからどうすればいいんだろうという顔をしていたワンリをみて、考助は笑顔になって言った。
「とりあえず、シャワーでも浴びてきたらどう? 森から直行してきたんだよね?」
「あ、はい。そうします」
 狐の姿だと水浴びになるのだろうが、今は人の姿をしているのでシャワーを浴びることになる。
 考助の提案にこれ幸いと乗ったワンリは、いそいそと風呂場へと向かうのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 そもそもアスラの屋敷の物置に、謎の手紙を残したのは、勾玉の仕業だった。
 あの手紙には「探さないでください」と書いてあったが、あくまでもそれは考助を含めた神族にあてたものだ。
 三つの神具が、神域を抜け出してまでやりたかったことというのは、何のことはない「自分を道具として使ってくれるのに相応しい存在を探す」ということだった。
 水鏡のときにはそんな気がしていた考助だったが、まさか三つとも同じ目的を持っているとは考えていなかった。
 ただ、道具として生まれた神具たちにとってみれば、それは当たり前の感覚なのかもしれない。
 少なくとも長い間、物置の奥に押し込められているよりは、まともな考えだろう。

 そんな考えを持ってアースガルドの世界に落ちてきた勾玉は、さっそく行動を開始した。
 といっても、落ちた場所が森の中なので、中々満足のいく存在は見つからない。
 結局、移動手段として狼を得た勾玉は、森を抜け出してふさわしい相手を探そうとした。
 ところが、この世界に落ちたときに使った力のおかげで、蓄えていた分はほとんど使ってしまった。
 そのため、森の結界から抜けるだけの力は残っていなかったのである。
 すぐに森を抜けることを諦めた勾玉は、考助が予想した通りそのための力を蓄えていた。
 そんな折、考助たちが勾玉を回収するためにやってきたというわけだ。

 考助たちがやってくるところまでの説明を聞いたシルヴィアが、考助が一息ついた隙に質問してきた。
「道具としてふさわしい存在を探すというのはわかるのですが、最初からコウスケさんを排除していた理由はなぜでしょう?」
「ああ、それは簡単だよ。相手が神族でいいんだったら、そもそも神域から抜け出す必要はなかったからね。それ以外で探したかったみたい」
 何とも贅沢といえば贅沢な悩みだが、相手は神具のためそんなことを言っても仕方ない。
 道具を使う側にこだわりがあるように、使われる側にだって同じようなものがあってもいいだろう。
「なるほどな。それはわかったが、ワンリが選ばれた理由は?」
 今度は、フローリアがワンリの首から下がっている勾玉を見ながらそう聞いてきた。
「それは、二回目のときにワンリが勾玉の話を聞けたからだね」
「話を・・・・・・? ああ、なるほどの。あれはやはり勾玉の意思だったのか」
 ワンリが精霊から何かを感じてフローリアの攻撃を止めたときのことは全員が話を聞いている。
 そのときのことを思い出して、シュレインが頷いた。
「あれは、攻撃を止めるというよりも、精霊を使って話をする相手を探していたみたいだけれどね。脅しになったのは結果論だね」
 勾玉としては、暴走するということを伝えたかったのではなく、近寄らずに話をしたかった。
 ところが、精霊たちが曲解をしたのか、精霊を間に挟んだワンリが誤解をしたのか、脅しと取られることになってしまったのだ。
「あとはまあ、もともとの予定だった森からの脱出ができなくなって諦めかけたときにちょうどワンリが来て、ふさわしい相手だと考えたらしいね」
 結果からすれば誰にとってもめでたし、めでたしで終わったのだが、それまでの過程でいろいろと苦労したシュレインたちにとっては何とも言えない話である。

 ため息をついたフローリアが、ぽつりと呟いた。
「なんというか・・・・・・もう少し穏やかな解決方法はなかったものか」
 その呟きに、その場にいた全員が同じようなことを考えたのは、致し方のないことであった。
この話を上げて早々に「鬼ごっこ」とか「かくれんぼ」とか感想をいただいていましたが、似たような理由でしたが、いかがでしたでしょうか?
ついでとばかりに、全体の経緯も説明しました。

第2章はこれで終わりではなく、もう少しだけあります。
折角なので、次話でシルヴィアのところにも持っていきますw
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