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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 勾玉

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(16)急展開

 ワンリが考助たちに行った提案というのは、神具の探索をひとりでさせてほしいというものだった。
 何かの確信があっての提案ではない。
 ただ、三回の探索のうち二回は近くで接して、何か予感のようなものを覚えていたのかもしれない。
 それが何かと問われるとワンリも首を傾げることになる。
 うまく説明できないながらもどうにか考助たちに話をしようと決意をして切り出したワンリだったが、そんな心配などする必要もなく、あっさりとひとりでの探索の許可が下りた。
 というのは、ちょうど直前にシュレインたちが、しばらく探索は控えようと話していたところだった。
 ワンリの提案は、考助にとってもちょうどいいものだったのである。
 付け加えれば、ワンリであれば一人(?)でセウリの森をうろついても大丈夫という信頼もある。
 むしろワンリの場合は、下手に別の人間をつけると足手まといが増えて、弱くなるということもありえる。
 本人が望むのであれば、ひとりで行動させるのもありなのだ。
 というわけで、いくつかの理由が絡み合った結果、考助が許可を出すに至ったというわけである。

 許可を得てすぐにセウリの森に入ったワンリは、狐の姿で神具のあるであろう場所へ向かった。
 管理層を出る前に、考助から神具のある大まかな位置は聞いてある。
 狼という移動手段がある以上、その場所にずっとあり続けるという保証はないのだが、今回はユッタのサポートもなしにしてある。
 もし神具が精霊を扱える力を持っているのであれば、ユッタの知らせもばれている可能性がある。
 それを警戒して、敢えてユッタのところに寄らず直接森に入ったのだ。
 一番の問題は、ワンリが神具を探している間に移動をしてしまうことだったが、幸いにしてほとんど移動は行っていなかった。
 考助から聞いていた位置とほとんど変わらない岩場で休んでいた狼を見つけたワンリは、一度その場で休憩を行った。

 十分な休みを取ったワンリは、狼に気付かれないように風下から近づいていった。
 ただ、そうはいっても、たとえ神具がなくても野生の生き物であることには変わりはない。
 ある程度の距離に近付くと、狼はワンリの存在に気付いた。
 神具が目的であることがわかっていないのか、単に野生の生物であると認識しているのか、神具からのアプローチは何もない。
 代わりに狼が近付いてくるワンリに向かって唸り声を上げ始めた。
 このあたりはごく普通の狼の反応と変わらない。
 ワンリは、それに警戒する様子を見せながらあえて近づくのを止めず、さらに一度だけ「バウ!」と狼に向かって吠えた。
 その一声で、狼はワンリとの実力の差を察したのだろう。
 狼は、一瞬だけ怯えるような仕草を見せた。
 ただ、次の瞬間には何事もなかったかのように、再びワンリを警戒しだした。
 これは、普通の狼の反応としてはありえない。
 こうした野生の生き物は、一度相手を格上だと認めた場合、再度立ち向かってくるのには時間が必要になる。
 一瞬で立ち直ったというのは、間違いなく神具の関与があったとワンリは理解した。

 立ち直った狼に向かって、ワンリは再び近付いて行った。
 それにもかかわらず、狼(神具)は逃げようともせず、その場に残ったままだった。
 神具が何を考えてそうしているのかは、ワンリにもわからない。
 逃げようとしないのであれば、予定通り近付いていくだけだ。
 ただ、今度はワンリがどれだけ近付いても、狼が唸り声を上げることはなかった。
 神具が抑えているのか、狼がそうしているのかは、ワンリにはわからない。
 それでもワンリは、狼に向かって近付いていくだけである。

 間にちょうど狼一匹が入るくらいの距離(一メートルほど)まで近づいたワンリは、精霊を使って神具に断りを入れてから、その場で人型に変化した。
 わざわざ断りを入れたのは、狼と神具、両方から逃げられないようにするためだ。
 精霊を使って話が通じるかは賭けでもあったが、どうやらその賭けには勝ったようだった。
 ワンリが人型になっても、逃げだすようなことはせず、狼はその場にとどまったままだった。
 ただ、人型になったワンリもまた、少し困った表情を浮かべていた。
 人型になったはいいのだが、ここから先のことを全く考えていなかったのだ。
 近付いて人型になれば、神具から逃げるなどのアプローチがあると思っていたのだが、それがまったくない。

 ここからどうすればいいのかわからなくなったワンリは、取りあえず神具に向かって話しかけることにした。
「逃げないの?」
 その言葉に反応したのが、狼だったのか神具だったのかはワンリにはわからない。
 ただ、狼がピクリと体を揺らしたのは、すぐにわかった。
 それでも狼(神具)は逃げることをせずに、ただジッとワンリを見てきた。
「ええと・・・・・・?」
 その視線の意味がわからずにワンリは首をかしげるが、当然というべきか、残念ながらというべきか、狼からの反応はすぐには(・・・・)なかった。

 しばらくワンリが戸惑った様子を見せていると、やがて狼が水を払うようにブルリと体を揺らした。
 そして、それに合わせるように、ぽとりと地面に勾玉の神具が落ちた。
「・・・・・・えっ!?」
 呆気にとられるワンリをよそに、狼はクルリと反転してその場から離れていった。
 まるで、ワンリの実力を恐れて逃げ出すように。
 そして、そのことを証明するように、太陽からの光を反射して地面に落ちた勾玉がキラリと光った。

 狼が十分に離れたのを見計らってから、ワンリはソロソロと神具のところへと近付いて行った。
「いいの、かな?」
 そう声をかけるが、神具からは返事は返ってこない。
 数秒神具を見つめていたワンリだったが、意を決したように神具のところに手を伸ばす。
 すると、ワンリが思ってみなかった変化が起こった。

 このときのワンリは、実は服を着ていなかった。
 ずっと狐の姿で移動をしてきたというのもあるが、いたのが狼(と神具)だけだったので、敢えて服を着る必要もないと思っていたのだ。
 帰りも狐の姿に戻ればいいと思っていたので、特に服を着る予定はなかった。
「ええっ・・・・・・!?」
 ワンリは、あっさりと神具が自分の手に収まったことにもびっくりしたが、それ以上に自分の身に起こった変化に驚いた。
 だが、そのワンリは、いつの間にか服を身にまとっていたのである。
 普段は巫女服を着ることが多いワンリが着たことがない、いわゆるゴスロリ服のような感じの服だった。
 誰が着させたのは、考えるまでもない。

 それはいいのだが、いまのワンリにとっては、困ったことがある。
「ええと、ど、どうすれば?!」
 今いる場所は森の中だ。
 いくらワンリでも、こんな格好でエルフの里まで戻るのは遠慮したい。
 そんなワンリの戸惑いを察したのか、いつの間にか着ていたはずの服が消えて裸に戻っていた。
「え、ええと、ありがとう?」
 どう考えても犯人はひとり(ひとつ?)しかいないので、手の中にある神具に向かってワンリがお礼を言うと、神具がそれに答えるように一度だけ光るのであった。

 あまりの急展開に、ワンリは戸惑いつつ、狐の姿に戻って急いでエルフの里へと戻った。
 正確には、エルフの里にある転移門のある場所に、である。
 転移門のそばにいるエルフもワンリのことはわかっているので、何も言われずに通ることができる。
 今のワンリの心境としては、とにかく早く考助にこのことを話さなくては、という思いでいっぱいだった。
 ワンリとしては、こんなにあっさりと神具が自分の手に転がり込んでくるとは思っていなかったのである。
 今後どうすべきかは、考助に相談してから決めるというのが、今のワンリの方針なのであった。
なぜこんなにあっさりとワンリの手に入ったかは次話でw
ちなみに、ワンリは慌てすぎてて神具に確認するということをすっかりと忘れていますw
それよりも、考助に早く確認しないとという思いでいっぱいです。
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