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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 勾玉

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(9)逃亡

 人一人がようやく通れるくらいの広さの道を進みながら、シルヴィアがふと思い出したような顔で聞いてきた。
「そういえば、なぜあの罠はコウスケさんだけに反応したのでしょうか?」
 考助が最初に入って罠に引っかかったのならともかく、その前にワンリやコウヒが通ってもまったく反応がなかった。
 考助が最後に入ったわけではないので、本当に考助だけをターゲットにしたのかどうかは確認できないはずなのだが、考助もワンリも狙いが考助だったと確信している。
 それには何か理由があるのかというシルヴィアの疑問だった。
「ああ、それは簡単だよ。あの罠は、神の持っている神威に反応するようにできていたんだ」
「神威・・・・・・ということは」
「うん。神には来てほしくないと思っているのか、単に警戒しただけなのか。いずれにせよ、これで逃げられていたら、次の探索は参加しない方がいいだろうね」
 コウヒが見破ることができないくらいの罠を張れる技量に加えて、神だけを特定できるように神威さえ探ることができる探知力。
 今回の神具は、とくに逃げまわることもしなかった水鏡のときと違って、一筋縄ではいかなそうだとシルヴィアは、改めて気を引き締めた。
 神を対象にした罠が何を意味しているのかは、当の神具に聞いてみないとわからない。
 さらにいえば、この先に神具が待ち構えている可能性もまだ残っている。
 結局のところ、奥に行って状況を確認しないことには、どうしようもないのである。

 そんなことを話しながら十分ほど進んだ先が、少し広めの空間になっていた。
「・・・・・・ここにあったみたい」
 ワンリがそう言いながら、残念そうに肩を落とした。
 今はその空間には考助たち以外には何もいない。
 一応勾玉ないかどうかも確認したが、見つけることはできなかった。
「まあ、予想通りといえば予想通りだけれど、ものの見事に逃げられたか?」
「そうだね。どう見ても神具の反応はなさそうだし」
 周囲を見回しながらそう言ったフローリアに、考助が頷きながらそう答えた。
 どこをどうみてもただの石や岩が転がっているだけで、神具らしきものは見当たらない。
 目だけで探せば、いくら狭い洞窟といってもそれなりに時間がかかるのだが、神具を探すとなると話は別だ。
 なにしろ考助が神具の持つ神力を探ればいいだけなので、ある程度歩き回って確認すればいいのだ。
 付け加えると、洞窟の中には狼のものらしき毛もたくさん落ちていたが、本体(?)の気配は全くしなかった。
 この状況を見る限りでは、フローリアが言った通りに、逃げられたと考えたほうが自然だ。

 洞窟内を見回して諦めモードになった一同に、ワンリが追い打ちをかけてきた。
「ユッタ様から連絡です。私たちが入ってきた入口とは別の入口から出て行ったそうです」
 精霊たちに神具の様子を見張ってもらっていたユッタは、しっかりと逃げ出すのをとらえていたようだった。
 考助たちももうすでに逃げ出したのはわかっていたので、その報告にきっぱりと意識を切り替えた。
「よし。これ以上ここにいても仕方ないから、いったん里に戻ろうか」
「そうだな。そうしたほうがいいだろう」
「わかりました」
 考助の決断に、フローリアとシルヴィアも同意した。
「とりあえず、神々には探されたくないということがわかっただけでも、ひとつ収穫かな?」
「まあ、そうだな」
「次からは対策ができますね」
「・・・・・・できるなら次なんかなかった方が良かったんだけれどね」
 考助が苦笑しながらそういうと、フローリアとシルヴィアが顔を見合わせて、すぐに考助を見た。
「私にしてみれば、これだけすぐに神具のありかを見つけ出した方がすごいと思うのだがな?」
「そうですわね。一度逃げられたくらいで落ち込んでいても仕方ありません」
「まあ、それはそうか」
 シルヴィアとフローリアのふたりがかりで自分を慰めにかかっていると察した考助は、素直に頷いた。
 別に考助としては落ち込んでいたわけではないのだが、ふたり揃って言ってきたということは、そう思わせる何かがあったということだ。
 こういうときは女性陣のいうことに素直に従っていたほうがいいと、長年の付き合いで理解している考助なのであった。

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 洞窟での調査を終えてユッタのところに戻った考助は、とりあえず謝罪を入れた。
「せっかく警告してくれたのに、間に合わなかったよ。ごめん」
「いいのです。こちらこそ、警告が遅くなってしまって、ごめんなさい」
 お互いに頭を下げあったところで、これ以上続けても意味がないとわかっていた両者は、すぐに本題に入った。
「それで、神具は今も移動の最中?」
「そうですね。ちょうどいい拠点にできそうな洞窟を探している感じでしょうか」
「なるほどね。さすがにうろつかれている状態で探しに行くのは、難しいですよねえ」
「恐らく指示が間に合いませんね」
 神具を持ち運んでいるのがどの生物なのかがわかれば、コウヒなりミツキがあっという間に追い詰めることができるだろう。
 だが、それがわからないうちは、やみくもに探しても見つからない。
 森に生息している狼型の生物は、数多くいるため一匹一匹当たっていくような手間はかけていられない。

 ユッタの精霊による監視は、今も続いている。
 ただ、考助が罠に引っかかったときのように、リアルタイムでユッタから指示を出すのが難しいため、森の中で捕まえるのは難しい。
 となると、やはり先ほどのように洞窟かどこかで休んでいるときを狙うのがいい。
 エルフを使って、大勢で取り囲んで追い詰めるというやり方もなくはないが、下手にそういうことをすれば、神具が暴走しないとも限らないのだ。
 もっとも、考助たちが洞窟に来た時点で暴走しなかったことを考えると、その方法を使って追い詰めても大丈夫という可能性もあるが、できる限り神具を刺激することはしない方がいい。
 そのため、極端な方法はとれず、少人数で行くことを選択しているのである。

 神具の移動が落ち着いたら連絡をもらうようにしてもらって、考助たちは塔の管理層へと戻った。
 そこでことの顛末を聞いたコレットが、不思議そうな顔で考助に聞いてきた。
「それって、ナナとかを使って追い詰めるのは駄目なの?」
「ワフ?」
 たまたま管理層に来ていたナナが、コレットに名前を呼ばれて頭を持ち上げた。
 考助は、その頭を撫でてやりながら首を左右に振る。
「たぶんナナは駄目だろうね。一応、ナナも神族に属しているから」
「ああ、そうだったわね」
 考助のそばにいるときのナナを見ていれば忘れがちになるのだが、ナナもれっきとした神族の一員だ。
 当たり前だが、考助と同じように神威も持っている。
 その神威のおかげで、神具には見分けられてしまう可能性が高いのである。

「それじゃあ、狐たちを使うのは・・・・・・ああ、それも無理ね」
 途中まで言いかけたコレットだったが、すぐに自分で結論を出した。
 たとえそれが狐であっても、大勢で追い詰めるという点で考えれば、エルフに頼むのと変わらない。
「無理だろうねえ。狐が狼を追い立てるなんて、普通には起こらないことだから」
 これがもし、神具を運んでいるのがウサギとかなら、複数の狐が追い立てることはあってもいいだろう。
 だが、残念ながら狼が運んでいる時点で、そういう言い訳も聞かないのだ。
 もっとも、神具がどういう基準で逃げ出すのか詳しくわかっていない以上、下手な手は取れない。
「試しにやってみるのもいいかもしれないけれど、とりあえずは少人数で行ったほうがいいと思う」
「そうね」
 コレットとしても今のやり方に反対するつもりはない。
 あくまでもひとつの提案として意見を言っただけだ。
 そのあとも、他のメンバーからもいくつかの提案はされたが、結局次は考助を抜いた少数のメンバーで行くことに決まったのである。
やっぱり逃げられました。
ついでに、大人数(エルフ、眷属問わず)で囲い込むことについても駄目だろうと考えています。
その方法をとるのは最終手段です。
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