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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 勾玉

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(5)神具の姿

 はるか空の彼方から<何か>が落ちてくる。
 その<何か>がある高さにまで来ると、そこに壁があるかのように一瞬だけ空が赤く光った。
 赤い光は一瞬で収まったが、落ちてくる<何か>は重力に従って、そのまま落下を続けてついに地面まで落ちた。
 <何か>が地面に落ちた衝撃で、落ちた地点を中心に半径一メートルほどの範囲が一瞬にして燃えて無くなった。
 信じられないほどの高温で焼き尽くされたかのような惨状だったが、その場の変化はそれだけではとどまらなかった。
 一瞬にして無くなったはずのそのあたりの木々や草花が、まるで何事もなかったかのように、これまた一瞬にして元通りに戻った。

 これらの変化を遠巻きにでも見ている者がいたとしても、それらの出来事は認識することは難しかっただろう。
 シルヴィアは、これらを水鏡の過去視という形で見ていたのでよく観察することができたが、実際の時間にすれば今起こったことはほんの一瞬の出来事だったのだ。
 もしこの場に誰かがいたとしても、ほんの瞬きほどの時間のことで、何かが起こったとすら認識することが難しかっただろう。
 何しろ、この森に深く根差している世界樹でさえ、何か違和感があったとしか感じられなかったのだから。
 そして、その予想通りにこれらの出来事を見ていた者は、当事者の<何か>しかいなかったのである。

 過去視を見終えたシルヴィアは、水鏡の上にかざしていた手をゆっくりと外して、大きく息を付いた。
 今まで見ていた光景が目に焼き付いて、若干頭がふらついた。
 右手でこめかみを抑えるような仕草をしたシルヴィアを見て、考助が心配そうな顔になって聞いていた。
「大丈夫?」
「ええ。ごめんなさい。大丈夫です。・・・・・・過去視でここまではっきりとした情景を見たのは初めてでしたから・・・・・・」
 シルヴィアは、そう言いながらもしばらくの間こめかみを抑えていた。
 本来水鏡で見る過去視は、ここまではっきりとした映像ではなくぼんやりとしたものが動いているのが見えるだけだ。
 そのため、いろいろな解釈が生まれるという弊害も出てくるのだが、シルヴィアの様子を見る限りでは、巫女や神官の負担を考えてあえてそう見えるようにしているのではないかとさえ考助は思えてきた。

 シルヴィアが回復するのを待ってから話を聞いた考助は、大きくため息を吐いた。
「・・・・・・ずいぶんと厄介だね」
 ため息に続いてぼそり呟かれたその言葉に、シュレインとシルヴィアの視線が集まった。
「そうなのかの?」
「そうなのですか?」
 ほぼ同時に聞かれた問いかけに、考助は頷いた。
 シルヴィアが見た光景が本当に起こったのだとすれば、その痕跡を跡形もなく消し去っているという時点でその神具が相当の力があるということは、ふたりにもわかる。
 考助がこの場で言った厄介というのには、それ以外の意味が込められていたので、揃って首を傾げたのだ。
「ほとんど一瞬で痕跡をなくしたこともそうだけれど、あえてそうしたってことは、隠れたがっているってことだからね」
「・・・・・・ああ、それだけの力がある存在が、本気で逃げ回ったら面倒になる、ということかの?」
「そういうこと」
 考えてみれば当たり前のことに、シュレインもシルヴィアも納得した表情になった。

 半径一メートル以内とはいえ、周囲を焼き尽くしたにもかかわらずそれをなかったことにできるほどの力があるのだ。
 しかも、この辺りを管轄している世界樹の目を逃れながら、である。
 そう考えると、考助の懸念はあながち間違ってもいないだろう。
 勿論、蓄えていた力をこの件で一気に使い果たしたという考え方もできるが、どういう神具が降りてきたのかわからない以上、警戒しすぎて悪いことはない。
「それにしても、シルヴィアの水鏡でもはっきりは見えなかったようじゃが、どんな神具かはわかっておらんのか?」
 シュレインがもっともな疑問を投げかけてきたが、これには考助が答えた。
「わかっていないね」
「・・・・・・ふむ。水鏡のときもそうじゃったが、なぜかの? 保管していた場所から無くなったのだから、分かってもよさそうなものじゃが?」
「ああ、なるほど。そういうことね。勿論、それにはちゃんと理由があるんだよ」
 考助はそう前置きしてから神具の事情を話し始めた。

 そもそもアスラの神域とアースガルドの世界では、姿を保つための理がまったく違っている。
 考助が頻繁に行き来をして同じ姿で保っていられるのは、現人神であることに加えてそうなるように魔法陣に仕掛けを施しているからである。
 女神たちが世界に顕現するときも同じような仕掛けが施される。
 そのためどちらの世界を行き来しても姿かたちが変わるということはないのだが、これが神具などの道具になると事情が変わってくる。
 道具の場合も、勿論神域にあるときは姿があるのだが、基本的には「何に使うための道具なのか」という目的のほうが強く定義されている。
 そのため、神域からアースガルドに降り立ったときに、形を変えることはごく普通に起こるのだ。

 例えば、水鏡の場合は、ダナが拾う際に「占いの道具として使えそうなもの」として認識したがゆえに、その道具が最適だと認識した水鏡という形をとったということになる。
 もしこれが、最初に拾ったのが考助だったり、他のメンバーだったりした場合、別の道具に変わっていた可能性もある。
 道具にとって大事なのは、姿かたちではなくあくまでも使われるための目的なのだ。
 ちなみに、これが考助の作った神具となると、またややこしいことに話が変わってくる。
 考助が塔の管理層やどこかの町で神具を作るときは、あくまでも姿かたちを定義して作っている。
 というよりも、もともとアースガルドの世界で形のあるものを加工して作っているのだから当然である。
 そのため、アスラの神域へ持ち込んで、再度アースガルドに戻したとしても姿かたちが変わることはないのだ。

 説明を聞いて納得しているふたりに、さらに考助は付け加えた。
「ほら。神話とかで、英雄とかが使っている神具が時と場合によって形を変えたりするだろう? あれは、そういうことがあるからなんだよ」
「なるほどのう」
「勿論、最初から複数の形をとれるように作られている物もあるけれどね」
「そうだったのですか」
 誰よりも多くの神話や伝説を知っているシルヴィアが、深く頷いた。
 さらにシルヴィアは、そうした物語だけではなく、いくつかの神具も実際に神殿で目にしたことがある。
 そのため考助の話がよりリアルに実感できたのだ。

 シルヴィアと同じように頷いていたシュレインが、難しい顔になって聞いてきた。
「姿かたちで探そうとしない方がいいというのはわかったが、先ほどのようにシルヴィアが過去視をして追っていくのはできないのかの?」
「それも難しいだろうねえ」
 考助は、シュレインの疑問にあっさりと否定し、それに同意するようにシルヴィアも頷いた。
「先ほどの過去視は、この場所で起こったことを見ただけです。神具を特定して見たわけではありません。恐らく、神具を特定して行き先を探ることはできないと思います」
 道具がどんなものかわかっていれば、それこそ水鏡の過去視でたどって行けばいいが、先ほどの理由で神具を特定することはできない。
 そのため過去視を使って神具の行く先をたどっていくのは、難しいと言わざるを得ないのだ。

 手詰まり感が漂う雰囲気になりそうになったが、考助がそれに先んじてあえて明るい声で言った。
「まあ、とりあえず、この辺りに落ちたのは間違いないということがわかっただけでも良しとしようよ。このあとのことは、もう少し落ち着いたところでゆっくりと考えよう?」
「それがよさそうだの」
「そうですわね」
 こうして、とりあえずの目的を果たした考助たちは、いったんエルフの里に戻ることにしたのである。
神具の姿に関する話でした。
ちなみに、考助の作った神域は、アースガルドにより近い法則でできているので、姿かたちが変わることはありません。
勿論、考助があえてそうなるように創れば話は別ですが、そんな面倒なことはあえてしていません。
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