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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6部 第1章 水鏡

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(25)作法

 聖水をかぶることなく神具に入れることができたシルヴィアだったが、特に何か特別なことをしたわけではない。
 それは、神殿長たちをはじめとした他の者たちの反応を見てもわかることだ。
 ただ、アデルモをはじめとして、わからない者にはその理由がまったくわかっていない。
 シルヴィアは、そのことを自分で説明しようとはしなかった。
 それは、神殿の役目だと考えているからだ。
 わざわざわかっていることを、部外者の自分が説明すれば、それは神殿の面目をつぶすことになる。
 もっとも、現人神の巫女として名高いシルヴィアが説明をしたとして、それをとがめるような者はまずいないだろうが。

 そんなシルヴィアの考えを見抜いたのか、ローレルがため息を吐きながら自分のそばにいた側近に視線を向けた。
 その視線の意味を理解した側近が、わかっていない者たちに説明を始める。
「今の動作を見て違いが判らなかったものたちは、一から修行をやり直した方がいいでしょう。巫女殿は特別なことをしたわけではありません。むしろ、アデルモ殿が教えに反することをしただけです」
「わ、私が・・・・・・!? しゅ、修行不足だと?」
 反発するようにアデルモが声を上げたが、その側近は顔色を変えずに頷いた。
「先ほどの作業を見ている限り、そう言わざるを得ません」
「な、なんっ!?」
「今の結果を見ても明らかでしょう? 反発するだけ無駄ですよ?」
 全身びしょぬれになった状態のアデルモは、そう言われると黙ることしかできない。
 それを見た側近は、他の者たちにもわかるように説明を続けた。
「水鏡に聖水を注ぐときは、中央からではなく、縁から円を描くように注ぐこと。これは、水鏡を扱うときに最初に師匠から教わる基本中の基本ですよね?」
 側近がそう言うと、そこかしこから「あっ」という声や「うっ」といううめき声が、そこかしこから聞こえてきた。

 側近が今言ったことは、水鏡を扱う上での「作法」のひとつとされているが、こうした作法を軽視している者は多い。
 特に、若い人たちの間でそういう傾向が強いのは、ある意味で仕方のないことなのだろう。
 そんな分野、世界でもそうしたことはごく当たり前にあることなのだから。
 問題なのは、そうした「作法」が本来の意味を失って、形骸化してしまうことなのだが、今の神殿はそこまではいっていないことがわかっただけましといえるだろう。
 それに、きちんとシルヴィアとアデルモの動作の違いがわかっている者たちがいたのだから最悪の事態には至っていない。
 今回の水鏡の「作法」は、別に目の前にある神具だけに限ったものではないのだ。
 むしろ、神具だったからこそ、アデルモに対して水をかけ返すという報復(?)に出たといえる。

 自分の修行不足、というよりも、知識不足を指摘されたアデルモは、言葉に詰まりながら言った。
「そ、それでは、別にシルヴィア様がこの神具の所有者である必要はないではありませんか。何しろ他の方でも使えるということなのですから」
 もともと言っていた主張とまったく変わっているうえに、そもそもシルヴィアとアデルモでどちらがふさわしいのかという話だったのが、まったくなくなっている。
 もはや、アデルモの頭には、シルヴィアにだけは渡したくはないという、他の者にとってはどうでもいい考えに満たされている。
 自分にこれだけの恥を欠いたのだから、何とかしてやりたいと思っているのだ。

 だが、そんなアデルモの主張は、シルヴィアではなく、周囲の者たちの白い視線に晒されることとなった。
 そもそもシルヴィアが、あの(・・)現人神の巫女というだけで、神具を持つのにふさわしいということがわかる。
 それを抜きにしても、当初のシルヴィアかアデルモかという議論からは、もはや比べるのもおこがましい状態だった。
 そんな周囲の視線に気づかないほど、アデルモは追い詰められていた。

 そしてシルヴィアは、そのことに気付いていたが、あえて指摘はしない。
 下手に自分が指摘をすると、今以上にアデルモを刺激することになる。
 そのためため息を吐きながら、神殿長たちへと視線を向けた。
 後は任せる、という意味だ。
 その視線の意味を正確に理解したジャミール神殿の神殿長が、アデルモへといった。
「アデルモ、もういい。これ以上は話をしても無駄だろう。もはやお前に味方する者はだれもおらん」
「そ、そんなことは!」
「ああ、そうだったな。お前の仲間たちは支持するだろうが、もはやそれは無意味だ。その神具は諦めるのだな」
「そ、そんな馬鹿なことを・・・・・・」
 アデルモは小声でそういったが、さすがにこの場で神殿長を相手にかみつくほど愚かではなかった。
 もはやこの状況では無理だがたとえ神具を手に入れることができたとしても、神殿長に逆らっては今後の出世は望めなくなる。
 そのことを理解できるだけの理性は、まだ今のアデルモにも残っていた。
 神殿長の考えをこの場で改めさせるのは不可能だと理解できたアデルモは、その場にガクリと膝をつくのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

「申し訳なかった」
 別室に入るなり、ジャミール神殿の神殿長がシルヴィアへと頭を下げた。
 それを見たシルヴィアは、苦笑しながら首を左右に振る。
「神殿長が謝る必要はありません。むしろ、黙っていたこちらにも非がありますから」
 シルヴィアがアデルモのことを知ったのはある程度前のことになるが、考助のこともあったために、あえて神殿側には伝えていなかった。
 勿論、そんなことまでは言わないが、自分にも問題があったことを伝えて、どちらのせいでもないとしようとしているのだ。
 この場に集まっている神殿長たちは、愚かではない。
 シルヴィアの言いたいことをきっちりと理解して頷いた。
「では、この問題はお互い様ということでよろしいですね」
「ええ」

 神殿側としても、アデルモの暴走がなかったことになるのであれば、それに越したことはない。
 そもそもシルヴィアがああして表に出てきたということは、裏に考助の存在があるということだ。
 下手につついて本人が出てくるなんてことは、神殿としては絶対に避けるべきことなのである。
 そもそも今回の件は、神具が騒ぎの発端になっている。
 現人神が直接出てこないという保証はどこにもないということは、それぞれの神殿長は理解している。

 一方のシルヴィアも、アデルモの暴走ということだけで抑えるのには、きちんと意味がある。
 下手にこれ以上の騒ぎを起こせば、それこそ神具が暴走しかねない上に、本当に考助が出てこなければならなくなる可能性もある。
 こんなことは神殿長たちにも言えないが、シルヴィアとしてはできればそれは避けたいのだ。
 いざとなれば考助も出てくることは厭わないだろうが、できるだけ人の世界で片付くのであれば片付けたいというのが本音だった。
 勿論これは、シルヴィアだけではなく、他の女性陣たちも同意見だった。

 結局、それぞれの考えの違いはあるもののこれ以上の騒ぎは起こしたくないという両者の思惑が一致したことで、今回の騒ぎは収まることとなった。
 当然神具は、シルヴィアが回収するということになる。
 神殿側としては、神具を自分たちで抑えておきたいという考えも無くはないのだが、それ以上に現人神が所持するのであれば、そのほうがいいのだ。
 これくらいのことで恩を売れるとは少しも考えていないが、対立してまで手に入れようとは思わない。
 こうして、神域から失った神具のうち一つは、ようやく考助の元へとたどり着く(?)こととなるのであった。
ようやく一つ目の神具が考助の元へとたどり着くことになりました。
二つ目、三つめも同じように間接的にかかわることになるのか、それは先のお話をお楽しみに。

そしてアデルモ。
結局、道化師になって終わりました><
どうしようもないですね。
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