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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6部 第1章 水鏡

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(24)現人神の巫女

 シルヴィアは、周囲の視線を一身に受けながらローレルの傍まで歩いて行った。
 その立ち居振る舞いは、完全に人の注目を集めるのに慣れているものだった。
 フローリアの助言役として多くの視線を浴び続けてきたシルヴィアにとっては、この程度のことなどものの数でもないのである。
 一方、シルヴィアの登場に驚いていたアデルモは、その姿を見て驚きから訝し気な表情になっていた。
 アデルモの中でシルヴィアは、完全にただの一巫女でしかない。
 だが、今の様子を見ている限りでは、とてもそうは見えない。
 このときはじめて、アデルモの胸の内にシルヴィアに対しての疑念が沸き起こった。

 ローレルの隣に立ったシルヴィアは、他のふたりの神殿長に対して目礼をしてから話し始めた。
「私の記憶では、あのときすでに神具の所有権は別の者に移っていました。私は許可証も確認しましたが、あれはすでに無効だったと認識しております」
 そう言ったシルヴィアに、アデルモは反射的に反論した。
「何を言う! 確かにお前はあのときあの場にいたが、許可証を認めていたではないか!」
「確かに許可証があることは認めましたが、所有権までは認めていません。何より、こちらの言い分を一切聞かずに強引に奪っていったのは、どなたでしょうか?」
「私は正当な権利を主張して、接収を行っただけだ! 大体、突然現れて何だ、貴様は!?」
 部外者は出て行けと続けようとしたアデルモだったが、顔色を変えたジャミール神殿の神殿長に慌てて止められた。
「ば、馬鹿者! やめんか!」
「は? い、いや、しかし・・・・・・」
 さすがに神殿長を無視して自らの主張を続けようとするほど愚かではなかったアデルモは、戸惑った表情を神殿長へと向けた。

 そんなアデルモに対して、ジャミール神殿の神殿長がいさめるような仕草をした。
「馬鹿者! こちらの巫女は、シルヴィア様だ!」
 神殿長がその名前を言った瞬間、その場の雰囲気が一変した。
 フローリア女王が引退すると同時に表舞台に姿を現すことがなくなったシルヴィアだが、今でもセントラル大陸内の神殿では影響力がある。
 それは、それだけ大陸内に現人神の信仰が広がっていることを裏付ける証拠でもあった。
「はっ!? シルヴィア・・・・・・シルヴィア様!?」
 さすがのアデルモもシルヴィアのことは知っていたようで、驚きをあらわにした。
 神殿長にいわれるまで、目の前にいる女性と話に聞いていたシルヴィアの名前が一致していなかったのだ。

 自分を凝視してくるアデルモを見たシルヴィアは、ひとつため息を吐いてから言った。
「どうしましたか? あなたは人の肩書で自らの言うことを変えるのですか?」
「そ、それは・・・・・・」
 とたんに勢いをなくしたアデルモを見て、シルヴィアはさらに続ける。
「ついでに言いましょうか。あなたがあの家に来た時点で、神具の権利は私に移っていました。今の所有権も私です。あなたは私よりも神具を持つのにふさわしいと主張しますか?」
 実際には、あくまでも神殿で持つべきだということになっているのだが、すでに自分のために役立てるべきだと思い込んでいるアデルモは、思わず言葉に詰まってしまった。
 その態度だけで、アデルモが神具に対してどう思っているのかまるわかりだったが、あえてシルヴィアはそれに対しては突っ込まなかった。
 それがなぜかといえば、周囲の者たちの反応を見ていれば十分だったからだ。
 特に神殿長の三人は、アデルモにむかって疑いのまなざしを向けている。

 アデルモもまた、神殿長たちの視線は感じ取っていた。
 どうやってこの状況を逆転するのか必死に考えるが、まったく思いつかない。
 それほどまでに、今の状況はアデルモにとってはどうしようもない状態だった。
 そもそもシルヴィアは、ラゼクアマミヤができてからの二十年近くを巫女として女王の傍で過ごしてきたのだ。
 大陸内の神殿におけるシルヴィアへの信頼度は、当然ながらアデルモと比べることすらおこがましい。
 勿論、現人神の巫女としてときに神殿とも対立をすることがあったシルヴィアだが、だからこそ得てきたものがそれぞれにある。
 未だに目の前にいる女性がそのシルヴィアだというのが、アデルモにとっては信じられない。
 見た目だけでいえば、そんな年を取っているようにはまったく見えないのだ。
 だが、各神殿の神殿長たちが揃ってシルヴィアだと言っている。
 それを覆せる者は、この場にはいない。

 言葉を失っているアデルモと神殿長の横に立つシルヴィアを見ながらその場に集まった者たちは、このあとの展開がどうなるのかと固唾を飲んで見守っていた。
 そんな周囲の状況を察したシルヴィアは、ローレルが持っていた神具を受け取って、アデルモのいる場所へと近づいていく。
 そして、テーブルの上に乗っている水鏡と神具の水鏡を交換して、いきなりこんなことを言った。
「使ってごらんなさい」
「・・・・・・はい?」
「この神具は自分の物だと主張しているのでしょう? それでしたらきちんと使えるはずです。今この場で使いこなしてみては? さんざん他の人にはふさわしくないと言い続けたのです。それくらいはできるのでしょう?」
 さあどうぞ、と手を神具に向けたシルヴィアを見て、アデルモは苦虫を噛み潰したような顔になった。

 いきなり神具を使えといわれて使えるはずもない。
 そもそもアデルモは、自分で使うために神具を確保しようとしていたわけではないのだ。
 神具としての使い方など二の次で、まったく調べることなどしていなかった。
 かといって、ここまで言われて引き下がるわけにもいかない。
 覚悟を決めたアデルモは、そばにいた自分の子飼いに聖水を持ってくるように指示を出した。

 聖水は、聖職者にある者たちが道具を使う際によく用いられる水のことだ。
 当然水鏡に水を入れるときも聖水を使うことになる。
 その聖水を受け取ったアデルモは、早速水鏡に聖水を入れ・・・・・・ようとして、水鏡からその聖水を噴射されてしまった。
 おかげでアデルモは全身聖水で濡れてしまった。
「なっ・・・・・・!?」
 まさか神具がそんなことをしてくるとは思っていなかったのか、アデルモはそう声を上げることしかできなかった。

 そのあとも何度か聖水を水鏡に入れようとするが、どうしても神具は聖水を受け入れなかった。
 すでにアデルモはびしょぬれと言っていいほどに濡れている。
 そんなアデルモを見て、シルヴィアはため息を吐いた。
「・・・・・・その程度ですか」
 その言葉を聞きとがめたアデルモはキッと見てきたが、シルヴィアはそれを無視して、アデルモが入れようとしていた聖水の瓶を手に取り、同じように水鏡へと聖水を注いだ。
 今までのことから一瞬身構えたアデルモだったが、しかし神具は何の反応も示さず、素直に聖水を受け入れていた。
「なっ!? なぜ・・・・・・?」
 意味がわからずに驚くアデルモを横目に、シルヴィアは聖水を神具へと注ぎ続けた。
 そして、最後まで注ぎ切ったシルヴィアは、アデルモに視線を向けて言った。
「わかりませんか? それがわからなければ、あなたには最初からこの神具を使う権利などありませんよ」
「な、なにを・・・・・・」
「恐らく、神殿長たちもわかっているでしょう」
 そう言いながらシルヴィアは、視線を神殿長たちへと向けた。
 その中でもアデルモが所属しているジャミール神殿の神殿長は、こめかみに手を当てている。
 その顔は、だれが見てもアデルモに対して呆れているというのがわかるものだった。
 ただ、周囲の反応は、シルヴィアが言っている意味がわかっている者と、そうでない者にくっきりとわかれているのであった。
シルヴィア登場第二弾! というか、シルヴィア無双!
・・・・・・なのですが、次に続いてしまいました><
なぜシルヴィアがうまくいっているのかは、次の話で書きます。
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