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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6部 第1章 水鏡

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(18)回収

「前の水鏡が神具だと知ってどうするかはそなた次第だ。どうするかはそなたが決めるといい」
 そう言って立ち去りそうな気配を見せた三人に、ダナは慌てて問いかけた。
「で、でも、今手元にあの水鏡はなくて・・・・・・!」
「そうでしたね~。でも、それはあまり関係ないですよ」
「ど、どういうことですか!?」
 いつもの調子であっさりと言ってきたピーチに、ダナが慌てた様子で聞き返した。
「言ったじゃないですか~。あれは神具だと」
「本当に縁があるのなら、もう一度あなたの元に帰ってくるわよ。でも、それだけだとどうしようもない事態というのも起こり得るけれど」
「ど、どういうことですか」
 ピーチとコレットの説明に、ダナは幾分かテンションを落とした。

 そんなダナに、フローリアが肩をすくめながら話す。
「一番わかりやすいのは、神殿が介入してくることか。あるいは国だな」
「そ、そんな!?」
 そんなものを相手に交渉して勝てるわけがない。
 そう言いたげなダナに、フローリアは首を左右に振った。
「だから言っただろう? どう考えるかはそなた次第だと。それから、神具だとばれずに使い続けられると考えるのは、やめた方がいいぞ」
「そうですね~。盗られる前からすでにばれていたみたいですし」
「そう・・・・・・なんですか?」
 そんなことにもまったく気づいていなかったダナは、不安げな表情になって三人を見た。

 そんなダナを見て、フローリアがため息をついてから続けた。
「そもそもこういっては何だが、交渉人がわざわざ足しげくここに通ってきていたんだぞ? 何かあると考えてもおかしくはないだろう」
「・・・・・・交渉人?」
「水鏡が盗難に会うまで何度もここを訪ねてきていた人がいたはずですが~?」
 ダナはそう言われて初めてミストのことを思い出した。
 盗難にあってから一度も来ていないが、まだ数日しかたっていない。
 単純に、そういうものだろうと思いこんでいたのだ。
「交渉人、ミストさんが・・・・・・」
「ほとんどの者には縁がない職業だから知らなかったのは仕方ないとはいえ・・・・・・ずいぶんと無防備過ぎないか?」
「そ、それは・・・・・・」
 言葉を失ったダナに、フローリアは首を左右に振った。
「いや、すまない。別にそなたを責めているわけではない。ただ、水鏡が神具である以上、これから先もそういうことが起こり得るとわかってほしかっただけだ」
「そうですね~。さっきも言った通り、これから先どう考えるかはあなた次第ですよ」
「そうね。これで私たちの話は終わり。あとは、あなたがどう考えるか、よ」
 コレットがそう締めくくって、テーブルの上に乗ったままの水鏡に手を伸ばして回収した。
 結局ダナは、ただそれを呆然と見ていることしかできなかった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 部下の運んできた物を見ながら、その男はクツクツとのどを鳴らした。
「こんなもんが金になるとは、世の中わかんねーもんだなあ、おい」
 男が水鏡のことを知ったのは、ただの偶然だった。
 占い師が使う珍しい道具ということで噂になっていることは知っていたが、その程度のことで人を雇ってまで盗み出そうとは思わない。
 神官崩れの食い詰めた輩が、情報料をせしめる代わりに、水鏡のことを話してきたのだ。
 曰く「あの水鏡は、本物の神具だ」と。
 勿論、男も最初からそんな話を信じていたわけではない。

 だが、やがて交渉人が動くのを見て、その情報が本当のことだと理解した。
 占い師のもとに盗みに入るために、腕利きを雇ったためそれなりの金はかかったが、それは致し方ないと諦めている。
 あの女占い師が交渉人に物を引き渡す前にことを起こさなければならなかったため、どうしても必要だった。
 結果として、こうして手元に物が手に入ったのだから、それでよしとしていた。
 あとは、転移門を利用するなりして他大陸に移動して、神殿なり国なりを相手に売りさばけばいい。
 すぐに動かなかったのは、警邏の動きを警戒してのことだ。
 だがそれも、もういいだろう。
 男はそう考えて、部下に保管場所から手元に持ってくるように命じたのである。

 目の前にある水鏡を見ながら、男は再びクツクツとのどを鳴らした。
「なんにせよ、いい感じで売れてくれや」
 男はすでに転移門を使って、他大陸に移動するつもりになっている。
 他の人間に任せるには、あまりに取引できる金額が莫大なものになりかねないためだ。
 あとは数人、護衛のために部下を連れていくつもりではある。
 組織を大きくするためには、どうしたって金はかかる。
 今回の件で得た資金は、役人を相手に裏金を渡す資金にするつもりだった。

 そんな捕らぬ狸の皮算用をしていた男だったが、部屋の外が騒がしいことに気が付いた。
「なんだ?」
 今は人払いをしていたので、その問いかけに答えるものは誰もいなかった。
 何か緊急の事態が起こったのかと耳を澄ましたが、そのときにはすでに遅かった。
 ガチャリと扉が開いて、騒ぎの原因が入ってきた。
「よう。ずいぶんとご機嫌なようだな。悪いが、ちょっと一緒に来てくれるか?」
 そう言って現れたのは、警邏の服を来た役人の一人だった。
「な、なんだ!? いきなり踏み込まれるようなことは、何もしてないぞ!?」
「ハハ。いやなに、詳しい話はとにかく詰所で聞こうな」
 どこかで聞いたことのあるような会話をしたあと、男は警邏服の人間に腕をとられて連れられて行った。
 そしてその際に、テーブルの上に置かれた水鏡は『重要参考物』として、回収されることになるのであった。

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 その報告書を受け取ったベニートは、満足気に頷いた。
 そこには、とある闇ギルドの摘発と同時に回収された金品について書かれている。
 勿論、すべてではないのだが、ベニートにとってほしかった情報が載せられていた。
 その一つには、例の水鏡についても書かれている。
 この様子であれば、数日中には持ち主の元へと返されることになるだろう。
 そうすれば、改めてまたミストを介して交渉を再開すればいい。
 と、ベニートがそんなことを考えていられたのは、報告書を受け取ってから二日後までのことだった。

「あの水鏡、摘発された闇ギルドが所持していたそうですね!」
 来るなりいきなりそんなことを言ってきたアデルモを見て、ベニートは嫌な予感を覚えた。
「・・・・・・耳が早いですね」
「我々にも、独自のルートがありますから」
 独自のルートといってもろくでもなさそうだなと思いつつ、ベニートは「そうですか」とだけ返しておいた。
 そんなベニートの考えに気付いているのかいないのか、アデルモがさらに唖然とさせることを言ってきた。
「では、さっそく引き取りにまいりましょう!」
「・・・・・・・・・・・・はっ?」
 ベニートは、アデルモが言っている意味がわからずに、思わず素の返答をしてしまった。
 ベニートがこんな失態をしたのは、駆け出しの商人だったことくらいしかないだろう。

 それほどまでに珍しい事態だったのだが、当のアデルモは、そんなことにも気付かずに意気揚々と話を続けた。
「せっかく警邏の連中があの水鏡を回収してくれたのです。我々が引き取りに行くのは当然のことでしょう!」
 そんなアデルモを見て、ベニートは本気で頭痛がするのを感じた。
 今からこの常識なしを相手に説得しなければならないのか、と。
 最初のときは、それなりに知性も理性もありそうな相手だったと思っていたのだが、それが見事に外れたなと過去の自分をぶん殴ってやりたくなったベニートであった。
頭を抱えたベニートでした。
世間の常識を持っていない神官は、時折おかしな暴走をしたりします。
アデルモは極端すぎますが。
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