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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6部 第1章 水鏡

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(17)もうひとつの水鏡

「そ、それは!」
 それを見た瞬間、思わず椅子から立ち上がりそうになったダナだったが、何とかそれは抑えることが出来た。
 だが、それを出したフローリアを非難の目で見るのを止めることはできなかった。
 そのダナを見て、フローリアはクツクツと笑いだした。
「落ち着いてよく見てみろ」
「落ち着いて、ですって・・・・・・って、あれ?」
 思わず素の声が出てしまったが、改めてテーブルの上に置かれた水鏡を見たダナは、違和感に気付いた。
「これは・・・・・・え、偽物?」
「偽物とはひどいな。そもそも水鏡に本物も偽物もあるまい?」
 神具として見た場合には本物か偽物かという問題はあるが、勿論フローリアはそんなことを言ったりはしない。
 付け加えると、考助が作った水鏡という時点で神具といえなくもないのだが、それもわきに置いておく。

 ダナは、もう一度フローリアが出した水鏡をまじまじと見つめた。
「それで、こんなものを持ち出してきて、どういうおつもりでしょうか?」
 声に険がこもってしまったが、もうそれは仕方ないと諦める。
 このタイミングでこんなものを持ち出されれば、ダナからすれば仕方のないことだろう。
「そんな怖い顔でにらむな。何、単にこれを使って占いをしてほしいだけだ」
「これで? でも、それは・・・・・・」
 言い淀んだダナに、ピーチが口を挟んだ。
「前の水鏡に気を使っているのかもしれませんが、それでは駄目ですよ~。道具はあくまでも道具。そう教わりませんでしたか?」
「・・・・・・あなたは?」
 うろん気な視線を向けてきたダナに、ピーチはニコリと微笑んで見せた。
「私も少しは占いをかじっていますから~」
「そう、ですか・・・・・・」
 ピーチが言ったことは間違っていない。
 生涯を共にできるような道具があるというのは本当のことだ。
 だが、他方で、道具は壊れたり使えなくなったりするので、ひとつの道具だけにこだわっては駄目だということもある。
 両者は矛盾しているように思えるが、これもまた占い師としての教えなのである。

 勿論、すべての占い師がそう教わっているとは限らないが、少なくともダナはそう教わっていた。
 師匠の教えが頭をよぎったダナは、決意をするように一つため息を吐いた。
「・・・・・・それで、何を占いましょうか?」
 まだためらいがちだが水鏡に手をかけたダナに、フローリアは笑顔になった。
「ふむ。実はその水鏡、作ったはいいが、どうやって利用するか悩んでいてな。この先、どうすればいいか、占ってくれないか?」
「? わかりました」
 自分で占いをするように言っておきながら、どう利用するかわからないというところに内心で首を傾げたダナだったが、どんな内容でもお客の要望だ。
 ひとまず頷いて、言われたとおりに占いを始めた。

 占いを始めてすぐ、ダナは違和感を感じた。
 いや、占いそのものにそれを感じたのではない。
 むしろ、違和感を感じなかったことに、違和感を感じたのだ。
 今使っている水鏡が、それほどまでに、自分が行っている占いの道具としてすんなりと動作に収まっていた。
 勿論、盗まれた水鏡には及ばないが、それでも他の道具以上に相性が良いということはすぐにわかった。
「これは・・・・・・」
 驚きに思わず声を出してしまったダナだったが、お客を前にした占いの最中だと思い直して、気を引き締めた。

 そして、占いを続けたダナだったが、その結果にさらに驚くことになった。
「えっ・・・・・・!? でも、そんな・・・・・・」
「どうした? 結果が出たのか?」
 フローリアは、若干にやけた顔でダナを見る。
 そんなフローリアを見て、ダナは狼狽えた顔になった。
「そ、それが・・・・・・」
「うん? どうした?」
「・・・・・・私です」
「なに?」
「この水鏡を使うべきは、私だと出ています。で、でも、そんなわけないですよね! や、やり直します!」
 言い訳するように言ったダナだったが、占いを再開する前にその手を止めるものがいた。

 ピーチである。
「駄目ですよ~。ちゃんとした結果なのですから、きちんと受け止めないと」
「で、ですが、そんなはずは・・・・・・」
 なぜ自分が使うべきだと出たかわからない、と繰り返すダナに、今度はコレットが首を左右に振った。
「不思議でもなんでもないわよ。だって、その水鏡、あなたのために作ったものだもの」
「・・・・・・えっ!?」
「むしろ、あなたがちゃんとした結果が出せて、ほっとしましたよ~」
 コレットに同意するように、ピーチも頷きながらそう言った。
 コレットとピーチの言葉に、ダナは水鏡に視線を向けたあと、フローリアへと視線を移した。
「・・・・・・どういう、ことですか?」
「どうもこうもない。二人が言った通りだ。その水鏡は、ある方が、そなたが使えるようにそなたのためだけに作った物だ」
 肩をすくめながらあっさりとそう言ったフローリアを、ダナは呆然と見つめた。

 しばらくその状態だったダナだったが、何とか復活して気を持ち直した。
 そして、三人をかわるがわるに見ながら問いかけた。
「一体、どういうことなのでしょうか?」
 ただのいたずらを仕掛けるためだけに、こんな手間のかかるようなことをしたとは思っていない。
 何しろ、目の前にある水鏡を作るだけでもかなりの手間がかかっているはずだ。

 そう言いたげなダナに、フローリアが種明かしを始めた。
 もとより、最初からすべてを説明するために、わざわざだまし討ちになるような真似をしたのだ。
「ふむ。それを説明するには、前にそなたが使っていた水鏡について説明をせねばならないな」
「前に、というと、盗られた水鏡ですか」
「そうだ、その水鏡だ」
 盗られた、というところで顔をしかめたダナを見ながら、フローリアはさらに説明を続けた。
「あの水鏡だがな、正真正銘の神具だ」
「それはそうですよ。だって、聖職者の皆さんが使って・・・・・・」
 何を当たり前のことを、と続けようとしたダナを、ピーチが首を左右に振って止めた。
「そういうことじゃないです~。神具というのは、本当の意味での神具なんですよ」
 本当の意味、と口の中で繰り返したダナが、その本来の意味を理解して呆気にとられた表情になった。

「ま、まさか・・・・・・」
「そのまさかだ。あれは、神のごとく力を持つ道具だ。普通であれば、どこかの国の国宝になっているか、神殿の宝物庫の奥でむやみに飾り立てられているかのどちらかだ」
「え・・・・・・で、でも、あれは、拾った物でそんな大層なものでは・・・・・・」
 そんなわけはない、と否定しようとするダナに、今度はピーチが首を振って否定した。
「残念ながら間違いありません。前に来たときに、しっかりと確認しましたから~」
「あ、あのときに・・・・・・?」
 ダナはピーチが以前に占いに来たときのことを覚えていた。
 どうやって確認したのかはわからないが、もしかしたらそれも可能なのかもしれない、と思ってしまった。

 今になって、ダナが使っていた水鏡が神具であることを明かしたのには意味がある。
 占いに来た客が、いきなり神具だといっても信じてもらえるはずもない。
 考助が作った水鏡があって、ダナ自らが占いをして先ほどの結果を出せたからこそ、信じさせることが出来たのだ。
 わざわざ同じような水鏡を用意したという理由も、それで説明することが出来る。
 フローリアたちが説明することになったのは、考助の問題もあったが、それはまた別問題である。
 ダナにとっては、それは全く関係のない話で、また、知らなくてもいいことだ。
 とにかく、ダナの前に考助が作った水鏡を出すことはできた。
 このあとにどう判断するかは、ダナ次第ということになるのであった。
考助が作った水鏡が出されるのと同時に、今はない水鏡が神具であると明かされました。
このあとどうするかはダナ次第です。
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