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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6部 第1章 水鏡

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(13)帰り道

本日で「塔の管理をしてみよう」を投稿開始してから三年目突入になります。
長い間お読みいただきありがとうございます。
「なにっ!?」
 その報告を受けたベニートは、驚きのあまり固まってしまった。
 ベニートの隣では、言わんこっちゃないといいわんばかりにアデルモが呆れたような表情になっている。
「いや、しかし・・・・・・そんな簡単に? 肌身離さずとは言わないまでも、近くには置いてあったのだろう?」
「はい。寝ている場所とは別の部屋だったようですが、それでも近かったのは間違いありません」
 いくらお気に入りの道具といえども、一部屋だけ借りているのならともかく、そうでない場合は、商売道具を寝室にまで持ち込む人間のほうが少ない。
 それを考えれば、寝室にまで持ち込んで保管しておけ、という方が無茶だろう。
 今回に関しては、隣の部屋とはいえ、きちんと在室していたにも関わらず盗み出した者の技量が高かったということだ。
 さすがにその状況で持ち主のダナを責めることはできない。

 ベニートはそんなことを考えていたが、アデルモは違ったようだった。
 あきれた顔を隠さずに、鼻を鳴らしてこう言い放った。
「フン! だからさっさと手放してしまえばよかったものを。こちらに渡していれば、金銭ももらえたというのに。馬鹿な娘だ」
 自分のことしか考えていないアデルモのそのセリフに、ベニートはちらりと視線を向けたが、何かを言うことはなかった。
 代わりに、報告者に視線を向けて今の状況を確認した。
「それで? 被害届は出しているんだな?」
「そのようですね。もっとも、占い師の持ち物の窃盗ということで、警邏がどこまでまじめに動くかは不明ですが」
 勿論、何人かの人間は動員して調べるはずだが、ここまで見事に盗んでいったことを考えると、結果を当てにする方が難しいだろう。
 さらにいえば、鼻薬を嗅がせて捜査の手が伸びないようにしている組織に持ち込まれている可能性もある。
 この世界の常識でいえば、持ち主の手に戻ってくると考える者は誰もいない。

 そう考えたベニートは、顎に手を当てた。
「ふむ。警邏の尻をたたくのがいいのか、それとも闇のルートに流れるのを調べたほうが早いか・・・・・・」
 ベニートは、今回ダナのもとから水鏡を盗んでいった者が、自分で使うために盗って行ったとは考えていない。
 あると知れば、誰かの依頼を受けて盗み出したか、もしくは、転売目的のためだと考えている。
 どちらにしても、もしあの水鏡が見つかれば、不正なルートで出てくることになるのだからやり方はいくつかある。
 どうすれば、一番スムーズに自分のものにできるかを考え始めたベニートだったが、うっかりしていたことを思い出した。
「ああ、とりあえず、今あの水鏡がどこにあるのか、できるだけ調査するように」
 腕の立つものが盗み出していったのだから、その捜索もかなり困難だということはわかる。
 だが、何もしないで手をこまねいているよりはましだろう。
 そう考えてのベニートの指示に、報告者も丁寧に頭を下げた。
「かしこまりました」
 それだけを言って部屋を出て行く報告者を見送ったベニートは、横で騒ぐアデルモを適当にあしらいながら、今後のことを考えるのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 詰所からの帰り道。
 ダナは、うつむき加減で歩いていた。
 商売道具の水鏡が窃盗にあったと気付いたのが今朝。
 慌てて部屋中を探したり、占いの店に置き忘れたのかと戻ってみたりとしたが、結局見つからなかった。
 ダナが窃盗だと気付くまでしばらくかかったのは、盗まれていたのが水鏡だけで、他の金品がまったくの手つかずだったためだ。
 警邏の詰所でも、本当に窃盗にあったのかと何度も聞かれた。
 自分でさえまだ半信半疑なのだ。
 取り調べをする者が、疑いのまなざしを向けるのは当然だとダナもわかっている。
 それでも、何もしないで諦めるよりはと通報することにした。

「はあ~。何をやっているのかな。ちゃんと寝室においておけばよかった」
 盗まれたことさえ最初は気付いていなかったので、寝ている部屋にあっても盗まれることが防げたかどうかは疑問だが、それでも今ダナの胸の内に浮かんでくるのは後悔だけだった。
 そして、頭をよぎるのが次の言葉だ。
「・・・・・・いっそのこと、街を移動しちゃおうかな」
 それでも次に浮かんでくる師匠の言葉が、その思いを打ち消してしまう。
『いいかい、ダナ。つらいとき、苦しいときに、逃げるように街を去っては駄目だよ。町を出るタイミングは、最初に決めたときから動かさない。これが鉄則さね』
 逃げるようにして町を去ると、次に来たときに必ず影響を受ける。
 それだけではなく、逃げたという記憶が、別の町で占いをするときにも影響するというのが師匠の教えだった。

 この街から逃げるわけにも行かず、さりとて占いの仕事をする気にもならない。
 沈んだ気分のまま歩き回っていたダナだったが、ふと占いの看板が目に入った。
 そこは、クラウンが経営している占い宿で、街一番の占い師がいると耳にしていた。
 ダナは、せっかくなので気分を変えるためにも占いをしてもらおうと店に入ることにした。

 流石に一番人気の占い師は、人気があってすぐに占いというわけにはいかず、整理券を渡された。
 順番が来るまでは街をぶらついていたダナだったが、順番が来た頃には多少気分が上向いていた。
 占い師がいる個室に入ると、そこには女性の占い師が腰かけてお客であるダナを待っていた。
「はい。いらっしゃい。・・・・・・おや。これまた珍しいお客さんだね」
 占い師が占いをしてもらうことは珍しいことではないが、基本的には知り合いの占い師に頼むことが多い。
 今のダナのように、ふらりとやってくるのは珍しいことなのだ。
 ただ、そんなことよりもダナは、街一番の占い師が自分のことを知っていたことに驚いた。
「・・・・・・ご存じなのですか」
 業界の先輩として敬意を払っていうダナに、その女占い師はカカと笑った。
「占い師にとって重要なのは目よりも耳だと、お前さんもお師匠さんから教わらなかったかい?」
 確かに師匠は、目で見た情報よりも、お客の口から得た情報を何よりも大切にしろと口を酸っぱくして言っていた。
 ダナもその教えをもとに日々の占いをしてきたつもりだったが、その女占い師の言葉で、まったく足りていなかったことを察した。
 女占い師の言葉は、こうして対面でお客から得る情報だけではなく、他にも得られる情報があるじゃないかと教えられた気分だった。

 なんとなく懐かしい気分になっていたダナだったが、相対していた女占い師は、首を左右に振って言った。
「おや、いかんね。今はお客様と占い師の立場だ。今日は何の占いで来たんだい?」
 相手にいわれてようやくダナも占いをしてもらうんだということを思い出した。
 少し慌ててしてもらいたい占いを告げる。
「はい。あの・・・・・・お恥ずかしいのですが、大事な商売道具を盗まれてしまいまして、今後どうしたらいいものかと・・・・・・」
「おやまあ、そいつは大変だね。どれどれ、ちょいと待ってな」
 そう言ってカードを切り始めた占い師の手つきをダナは注意深く見た。
 最近は水鏡ばかり使っていたが、ダナもカードを使った占いはできる。
「おやおや、そんなに注目されると恥ずかしいじゃないかい」
 そう言いながらもさすがに慣れた手つきで占い師はカードを切っていく。
 それを見れば、同業の者たちから占いを頼まれることも多いのだということがわかる。

 師匠がこうしてよく占いをしてくれていたことを思い出しながら、ダナは久しぶりに他の人が行う占いを見ることが出来た。
 得られた占いの結果もさることながら、そのこと自体に得るものがあったと感じるダナなのであった。
盗まれたことに気付いたダナでした。
占いの結果は次にでもかるく触れるかもしれません。(まだ未定)
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