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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6部 第1章 水鏡

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(7)厄介

 塔の管理層に戻った考助は、シルヴィアとフローリアに話を持ち掛けた。
 というよりも、考助が返ってくるなりふたりが揃って考助へと質問をしてきたのだ。
「それで? どうだったのだ?」
「ああ、うん。そのことで相談しようと思ってね。特に、シルヴィアに、かな?」
「私に、ですか?」
 首を傾げるシルヴィアに、考助は頷いた。
「うん。単刀直入に聞くけれど、占い師が使っている道具が本物の神具だとばれたら神殿はどう動くかな?」
 その考助の質問に、問われたシルヴィアは深々とため息をついた。
「・・・・・・本物だったのですね?」
「うん。まあね」
「そうですか・・・・・・」
「厄介な」
 頷く考助にシルヴィアは顔を曇らせ、フローリアは面倒くさそうな表情を浮かべた。

 市井にあるものが使っている道具が本物の神具だとばれれば、動き出すのは神殿関係者だけではない。
 貴族や大商人など、自らの手元に置いておきたいと考えるものはいくらでもいるのだ。
「やっぱりそうだよね」
 フローリアの呟きに、考助が同意するように頷く。
「まあ、今のところ本物だとばれていないからまだいいけれど、ね」
「確かにそれはいいことだが、むしろばれたときが怖いぞ?」
 少なくとも過去百年に遡って考えても、新しく神具が発見されたという話は聞いたことがない。
 今ある神具のすべては所有者が決まっているので、ここで新しい未発見の神具が見つかれば様々な者たちが動き出すのは、誰でも想像できることだった。

 そうなったときのことを想像して頭を抱えるふたりに対して、シルヴィアがさらに想像したくない状況を話す。
「むしろ怖いのは、神具だとばれない状況で神殿側にその道具が渡ることではないでしょうか?」
「ん? どういうこと?」
 意味がわからず首を傾げた考助だったが、フローリアはすぐにシルヴィアが何を言いたいのか察して大きくため息を吐いた。
「つまりこういうことだろう? 神殿の誰かが、神具を占いの道具に使うのはふさわしくないといって、その占い師から取り上げる可能性があるという・・・・・・」
 この場合の神具というのは、神官や巫女が使っている道具としての神具を意味している。
「はい。むしろそうなる確率のほうが高いかと」

 神殿の所属している人間が、フローリアが言った通りの行動を起こして、占い師が使っている神具を取り上げたとする。
 そうなった場合、入手手段はともかくとして、一度はその神具がきちんと調べられることになる。
 本当に神具としてふさわしいのかどうかを確認しないと、神殿内では使うことができないからだ。
 そして、その検査のときに、本物の神具だとばれると厄介なことになる。
 占い師から正規に買い取った場合はまだいいのだが、無理やりにでも取り上げた場合、その入手方法で混乱が起きる。
 一言でいえば、神殿側には持ち主としての正当な権利がないと主張する者が出てくるのだ。
 これは単に想像ではなく、過去にいくらでもあった事例だ。
 そのため、今回も同じようなことが起こる可能性は否定できない。

 一番いいのが今の状態を続けるというありえない状況に、考助たちは揃ってため息を吐いた。
「・・・・・・いっそのこと、本当のことを話して手に入れてしまおうか」
 あとのことを考えれば、それが一番穏便に済むような気がした考助だったが、それにはフローリアが首を左右に振った。
「確かに魅力的な案だが、やめておいたほうがいいだろうな」
「え? なんで?」
「簡単な話だ。そなたが現人神だと、どう証明する?」
 先ほどピーチと一緒に行ってきたように、ふらりと訪ねていってもまず信用されないだろう。
 手っ取り早いのは、トワあたりに頼んで城に呼び出しをかけてそこで対面するということもできなくはないが、それはそれで大げさすぎる。
 後先考えられないような状況、すなわち神具が暴走しそうな状況になれば、そんな贅沢(?)も言っていられないが、それはできれば控えておきたいというのが考助の本音だ。
 そもそも神具が暴走する状況というのがはっきりしていない以上、変に神として取り上げた場合にも暴走する可能性だってある。
 現人神だと名乗って素直に従うような神具であれば、そもそもアスラの屋敷から抜け出すなんて真似はしていない。
 むしろ、反発される可能性だってある。

 下手に現人神として動けない以上、どうにかしてあの占い師から神具を手に入れられればいいのだが、考助はそう簡単にはいかないだろうとも考えている。
「神具かどうかはわかっていなくても、自分に必要な道具だとはわかっていたみたいだからなあ」
「そうですか。では、拾われるべき人に拾われた、ともいえるのですね?」
 シルヴィアの好意的な解釈に、考助も頷く。
「それは間違いないね。少なくとも今のところは」
 普通にお客として占いをしてもらったのは、探りを入れるためだけではなく、道具の様子を見るためでもあった。
 占いのことはあまり詳しくない考助だが、見る限りではあの神具は占い師の指示に素直に従っていた。
 それが、ピーチにも話した「繋がり」ができているといったこととも関係している。

 その考助の考えを聞いていたシルヴィアが、ふと思いついたように言った。
「そもそも難しく考えすぎかもしれませんわ」
 その言葉に、フローリアが反応して首を傾げた。
「というと?」
「どちらにせよ、こちらから無理やり取り上げることが出来ないとなれば、変に刺激はしないほうがいいと思います。特にコウスケさんの場合」
 現人神の考助が手を出して下手に刺激すると、神具が過敏な反応を返してきて、それこそ暴走するといったことになりかねないのだ。
 そのシルヴィアの考えを察したフローリアが、納得して頷いた。
「なるほど。確かに、そうだな。下手に手を出すよりも、事態の推移を見守ったほうがよさそうだ」
「・・・・・・何か納得いかないところもあるけれど、確かにそれが一番よさそうだね」
 ふたりの会話を聞いて微妙な表情になった考助だったが、考え方そのものには同意した。

 神具にとってみれば、現人神だろうとその辺の物取りだろうと、占い師から無理に取り上げられるという状況は変わらないのだ。
 ならばいっそのこと今の状況が動くまで放置しておくというのも一つの手だった。
 むしろ、神具が暴走しそうな事態になったときに動いたほうがいいかもしれない。
 とりあえずアスラには、見つかった状況だけを報告しておけば納得するだろう。
 考助はそんなことを考えるのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 考助から報告を受けたアスラは「そう。それでいいわよ」とあっさりと返事を返してきた。
 そのあっさりぶりに、考助のほうが拍子抜けしてしまった。
「随分とあっさりしているね?」
「言ったじゃない? 私はとりあえず、考助が探すことになればいいって。それだとそっちで騒動が起こっても、基本的には女神たちは関係しないことになるからね」
「なるほどね」
 なんとも女神らしい言葉に、考助も納得した。
 今のアスラの言葉は、神具そのものが勝手に暴走したのならともかく、人が起因で神具が暴走する分には、女神という立場からすれば特に問題がないということになる。
 ついでにいえば、神具のある場所さえわかっていれば、回収するのに多少の年月がかかってもかまわないのだ。
 しかも女神の感覚で「多少の」年月なので、それがどれくらいの期間なのかは押して知るべし、というところだろう。

 とにかく、アスラからも許可をとった考助は、ミクセンで見つかった神具は自分から手出しをするのではなく、しばらく様子を見るということに決めたのであった。
神具にまつわる厄介な状況でした。
考助は強権を発動することはできません。
いや、やったとしても町が消滅、なんて事態も考えられます。
厄介ですね。
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