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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6部 第1章 水鏡

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(3)失った神具

 アスラの神域に来たときに、考助はエリスに何も言わなかったが、考助がいなくなってからアスラから伝えることになった。
 要は、だれがアースガルドで活動することになるかが問題なのであって、考助に依頼をしたあとであれば他の女神たちにばれても問題ないのである。
 もともとアースガルドで行動している考助が道具を探すことになるので、他の女神たちが行かなくてもよくなる。
 アスラが他の女神に感づかれないように、考助に連絡を取ってきたのは、そういう理由からだった。
 もっとも、考助が調査に難航したり時間がかかったりすれば、他の女神たちが自分も手伝うと主張してきたりする可能性はある。
 できることなら道具が無くなったこと自体を隠しておきたいアスラだが、考助が大っぴらに行動する以上、それは不可能だと諦めていた。
 あとは、考助ができるだけ早く道具を見つけ出してくれることを祈るしかない。
 そんなことを考えていたアスラだったが、そもそも誰に祈るのかを考えて、思わず考助の顔を思い浮かべてクスクスと一人で笑うのであった。

 アスラがそんなことを考えているなんてことはつゆ知らず、塔の管理層へと戻った考助は、メンバーから心配そうな顔を向けられた。
「コウスケ様、何がありましたか?」
 普段よりも丁寧な口調で問いかけてきたのは、シルヴィアだった。
 神域帰りの考助を、現人神として応対している。
 シルヴィアは、すでに名前は知らなくともアスラの存在は知っている。
 女神たちを統べる存在から直々に呼ばれて会いに行ったとなれば、何かがあったと考えるのは当然だろう。

 まじめな顔になっているのは、シルヴィアだけではない。
 いまは管理層にいないのか、コレットとピーチを除いた他の者たちは、一様に同じような緊張感を漂わせていた。
 考助は、そんな彼女たちを安心させるように微笑んでから言った。
「大丈夫だよ。そんなに大変な事態というわけでもないから。・・・・・・あ、いや、待てよ? 大変な事態なのかな?」
「こら、コウスケ。それを聞いた吾らはどうすればよいのじゃ」
 シュレインはそういいながら、いつも通りの考助の態度に安堵しつつ呆れたような顔になった。
「とりあえず、説明するから話はそれから、かな?」
「なるほど。では、準備をしよう」
 考助がきちんと話をしてくれるとわかって、フローリアが早速とばかりに動き出した。
 事情が事情だけに、立ち話ではなく、きちんと座って話をするつもりなのである。

 会議室のテーブルに人数分の飲み物が用意されてから考助は、話を始めた。
 といっても、今回は特に隠すようなことは何もない。
 神域から神具が三つ行方不明になり、それを探し出さなくてはならないことを話した。
「なるほど。そういうことか」
「失せ物探しか。なかなか大変じゃの」
 考助の話を聞いたフローリアとシュレインは、平静を取り戻して女神からの依頼について考え始めていた。
 ただ、シルヴィアだけは失った顔色を取り戻していなかった。

 そのことに気がついたフローリアがシルヴィアを見た。
「ん? シルヴィア、どうした? 無くなった神具を探せばいいのだろう?」
 言外に道具を探し出して見つければいいだけだと言ったフローリアに、シルヴィアは一度大きく深呼吸をしてから自分の考えている最悪の状況を話す。
「無くなったのは神具なのですよ、フローリア」
「それは、そうだろうな」
 女神が管理する屋敷からなくなった道具だ。
 それが神具だと考えるのは、当たり前のことだ。

 何を言いたいんだというような顔を向けてきたフローリアに、シルヴィアがさらに続けた。
「神具は、教会がその権威を主張するために囲っている道具に思われがちですが、そもそもの目的は違っているのですよ」
 シルヴィアの言葉に、フローリアとシュレインが顔を見合わせた。
 彼女の隣に座っている考助は、シルヴィアが何を言いたいのかわかっていてあえて黙っている。
「と、いうと?」
 シルヴィが何を言いたいのかわからないのか、フローリアが首を傾げる。
「本来、教会が神具を集め始めたのは、それが非常に危険だからです」
「何?」
「教会に残っている古い記録の中には、神具が暴走して大陸一つが無くなったという例もあるようです」
 流石にそこまで言われれば、シュレインもフローリアも、シルヴィアが何を懸念しているのかはすぐにわかる。

 顔を見合わせたシュレインとフローリアは、同時に考助を見てきた。
「その辺はどうなんだ、コウスケ」
「いくらなんでも、それはないじゃろ?」
 考助の落ち着き具合からすぐにそんな事態になるわけではないと思いつつ、やはりどこか不安になっているようだった。
 シルヴィアを含めて、彼女たちを安心させるように微笑んだ考助は、どうするべきかと悩みつつ、正確なことを言うことにした。
「今回の場合は、流石に大陸一つはないよ。せいぜい山一つが消し飛ぶくらいだってさ」
「山一つ・・・・・・」
 考助の言葉に、フローリアは呆然となって呟いた。

 その考助の言葉をある程度予想していたのか、それとも予想よりも程度が低くて安心したのか、シルヴィアがため息をついた。
「やはりその辺りは、さすがに神具といったところですね」
「まあ、そもそも不用意に表に出ないように、屋敷の奥に隠されていた道具だからねえ」
 のんびりとそう言葉を交わしているふたりに、フローリアがうろん気な表情になって聞いてきた。
「それは、本当に神具なのか?」
 一般的に伝わる神具は、とにかく神秘的なもので、人々に多大な利益をもたらすものとして語られていることが多い。
 勿論、中には大きな破壊力をもたらす武器などもあるが、そうしたものは、神殿の奥深くに奉納されているというのが普通の認識だった。
「一般に伝わる神具は、教会が意図して伝えている面もありますから」
 神具の暴走によって多大な被害が及ぼされるということなど、知らなくてもいい情報なのだ。
 そうしたことは隠し、あえていい面だけを強調して噂として流した結果が、今の一般的な神具の認識となっている。

 事情を察したフローリアは、苦々しい顔になった。
「なんというか・・・・・・、夢が壊れる話だな」
「残念ながら、現実はこんなものです」
 あっさりとしたシルヴィアの返事に、これまたシュレインが苦笑しながら考助へと視線を向けた。
「まあ、神具云々の話はともかくとして、探しに出ることになるのじゃろ?」
「うん。なるべく早いほうがいいだろうね」
「そうじゃろうなあ」
 さすがにシルヴィアの話を聞いたあとでは、ゆっくり探せばいいなんてことは考えられない。

 とはいえ、いきなり当てもなく探し出しに出るのも現実的ではない。
 どうするんじゃ、と視線だけで問いかけてきたシュレインに、考助は首を左右に振った。
「とりあえずこの世界のどこかにある、というのはわかっているんだけれど、そこから先はさっぱりなんだよね」
「それはまた、雲をつかむような話じゃの」
「だよね。まあ、だから、まずここは専門家にでも聞こうかと思ってね」
「専門家じゃと?」
 思い当たるものがいなかったシュレインは、首を左側に傾けた。
「当たるも八卦当たらぬも八卦、って言葉はこっちにもあるよね?」
「あ、ああ、そういうことか、なるほどの」
 ようやく考助の言いたいことが何かを理解したシュレインは、納得して頷いた。

 巫女や神官も神託のようなものを利用してお告げを行ったりしているが、他にこうした場合によく利用される存在がある。
 それこそ考助が言った通り、当たるかどうかは神のみぞ知る、なのだが。
 幸いにして、塔にはその道の専門家が里を作っていた。
 それは勿論、今ピーチが子育てを行っているサキュバスの占いのことであった。
ちょっとばかり神具について語ってみました。
今まで出てきた神具は、あくまでも表面的な物ですよ、といいたかったのですが如何でしたでしょうか。
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