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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第7章 塔のあれこれ(その14)

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(11)遺言

 考助は、フローリア、シルヴィアと一緒に葬儀に出ていた。
 誰のかといえば、前フロレス国王であるフィリップの葬儀だ。
 享年85歳。
 この世界のヒューマンの平均寿命からすれば、長生きと言っていいだろう。
 最後の最後まで孫やひ孫たちをかわいがっていたフィリップは、十分に満足できた人生だったのではないか、と考助は他人事ながらに考えていた。
 残念ながらトワの結婚式は、結局病床にあったために出られなかったのだが、なんとしても出ると言って騒いでいたという話だけは聞いていた。
 フィリップがラゼクアマミヤに顔を見せているときは、管理層まで来ることはほとんどなかったため、考助が直接対面したのは数度くらいしかない。
 そのときに考助が受けた印象は、まさしく「王様」といった感じだった。
 王者ではなく王様というところが、一代で偉業を成し遂げた英雄や勇者ではなく、代々王位を引き継いできた家に生まれた者といえるだろう。

 そしてその印象を受けているのは、考助だけではなく自国の人間は勿論、他国の者からも同じような評価を受けていた。
 勿論、フィリップは国家の頂点に立っていた人物だ。
 特に他国の人間ともなれば、国益を背負っていろいろとやりあってもいる。
 ただ、それでも直接対面していれば、その人柄に触れることができる。
 そうした状況でフィリップを慕ってきた者は大勢いた。
 それは、今行われている葬儀を見ればよくわかる。
 当然前国王の葬儀ということで国葬が行われているのだが、フロレス王国が正式に招いた関係者だけではなく、それ以外にも国内外の重鎮たちが多く出ている。
 今後の関係をにらんできている者たちもいるが、その多くはフィリップに対しての最後の別れのために来ているのだった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 元国王ともなれば、生きている者たちに引き継ぐべき遺言というもの多数存在する。
 とはいえ、そのほとんどは生きているうちに伝えられており、紙面で残すといったことはほとんどない。
 ましてや、フィリップの場合、まだまだ現役としてやれるうちに王位を退いているので、遺言というのは元国王にしては少ないほうだった。
 そんな少ない遺言の中に、関係者一同を唸らせたものが一つあった。
 それが何かといえば、フィリップにとっての三番目の息子であるアレクの名誉回復だった。

 加護持ちであるフローリアを守るため国を出奔したアレクは、対外的には国家の裏切り者として処分されていた。
 さらに、実子であるフローリアは他国の女王として君臨して、そのさらに息子は現在も国王として辣腕をふるっている。
 勿論、この世界でも王に謀反を起こして、別の場所で国を興したなんて歴史はいくらでもある。
 当然のようにその国同士は仲が悪かったりするのが定番だが、ことフロレス王国とラゼクアマミヤ王国に関しては、それは全く当てはまらない。
 フィリップの人柄のおかげかそもそもの事情のためか、両国の関係は良好と言っていいものだ。
 それは、女王だったフローリアがフロレス王国と血縁関係にあったからというよりも、親しい間柄で居続けようとした前国王の存在があったからなのは間違いない。
 もっとも、本人にしてみれば、孫やひ孫に会いたいという本音のほうが重要だったのだろうが。

 そんな本人の思惑として、フィリップが両国の関係の架け橋になっていたことは間違いない。
 それがなくなってしまった今、その関係が壊れてしまうことは、どちらの国も望んでいなかった。
 そこから考えれば、アレクの現状を回復させることは、何ら問題はなかった。
 問題があるとすれば、どういった理由で今のアレクの曖昧な立場を回復させるか、ということである。
 さすがにフィリップの遺言だけでは理由としては弱すぎる。
 元国王の遺言だけに、ある程度の効果はあるが、それはあくまでも一般市民の噂話レベルのことだ。
 政治的にとなると、まったく話は別問題なのである。

 
「・・・・・・と、いうわけなんだが、どうする?」
「いえ、どうするといわれましても。兄上、それを私に相談しますか?」
 昼間の葬儀が終わり来賓客の対応もひと段落してから、フロレス王国の現国王であるマクシム国王が、ごくごく身内の席でそんなことをアレクに聞いてきた。
 いくら王族の中でもごく近しい人間しかいない席とはいえ、さすがにそれはどうなのか、とアレクは考えたが、マクシムはフッと笑った。
「仕方あるまい。すでにここにいる者たちには意見を聞いたが、ピンとくるものがなかったからな。それに、使えるうちは身内だからこそこき使えというのが父の教えではないか」
「それは、まあ、確かに・・・・・・」
 何とも乱暴な意見のような感じもするが、その言葉の裏には使い使われるくらいの関係でいたほうが、繋がりが途切れることはないという考え方がある。
 身内を大事にし続けてきた、いかにもフィリップらしい言葉だった。

 そんな父の姿を脳裏の思い浮かべながら、間違いなく言うだろうな、と考えたアレクは、ため息を吐きながら言った。
「そういわれましてもね。私が思いつくのは、クラウンの支部を作ってそこの支部長として私を据えるくらいでしょうか」
「いや、さすがにそれはあまりにも・・・・・・いや、待てよ?」
 実はすでにフロレス王国内には、クラウンの支部はできている。
 ただ、その支部がある場所は、首都から遠く離れた場所で、よりモンスターの被害が大きいところだった。
 建前としては、冒険者の力が最も発揮できる辺境にこそ作るべきだということになっているが、クラウンの影響力を恐れた者たちの政治的圧力が働いたのは間違いない。
 そもそもクラウンの支部を設置する条件の一つに、支部長の選出はクラウン独自に行うというものがあり、政治の思惑とは全く別の人材が選ばれることが多い。
 それを苦々しく思っている者たちは、国を支えている貴族たちにこそ多く存在しているのだ。
 結果として、フロレス王国にあるクラウン支部は、支部という割にはあまりに規模が小さく、どちらかといえば、出張所と呼ぶべき大きなのだ。
 一応転移門は存在しているが、使える者たちの制限は厳しく、今のところごく普通のギルドと何ら変わらない状態になっているのだった。

 身内が王族としているからだけではなく、ラゼクアマミヤとの関係を重視していたフィリップは、王位引退後も何とかちゃんとした支部を設置しようと尽力していたが、ついにそれは叶わなかった。
 王都にクラウンの支部を作るという仕事は、フィリップの最後の置き土産(?)といってもいいものだった。
 父王のかなえられなかった仕事を達成して王としての権威を上げるというのは、いかにも対外的に宣伝として使えそうなものである。
 もっとも、すでに父から王位を引き継いで十年以上経っているマクシムにとっては、そんな宣伝は必要ない。
 宣伝云々というのは、反対派に向けた建前として使うのだ。
「・・・・・・なるほど、確かにその手はなくはないな」
 クラウン支部の支部長にアレクを据えれば、完全に政治とは無関係ともいえず、そうした反対意見も躱すことができなくはない。
 今までが今までだけに、そうすんなりとはいかないだろうが、それでもフィリップが打ってきた手よりは、マクシムにとってはまし(・・)に思えてきた。
 何より、もしアレクが支部長につくとなれば、父の遺言もそれと合わせてかなえることが可能になるのだ。

 真剣な顔になって考え始めたマクシムに、アレクはこれ見よがしにため息を吐いていった。
「できることなら勘弁してほしいですが、そうはならないのでしょうね」
「諦めろ」
 その短い兄の返事に、アレクはすでに諦めの境地に至っていた。
 せっかく宰相の地位を引き継いで、悠々自適に塔の中で暮らしているというのに、またしても忙しくなりそうなアレクなのであった。
久しぶりのフロレス王国登場です。
そして、孫かわいがりのお爺様は、お亡くなりになりました><
でも、そのおかげで、どうにか支部ができそうな流れが・・・・・・?
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