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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第7章 塔のあれこれ(その14)

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(3)結婚報告

「結婚?」
 ダニエラを伴って管理層にやってきたトワの言葉に、考助は首をかしげた。
「はい。私が多少強引なことをやっても周囲を黙らせるほどの力を、ようやくつけることができましたから」
 そう言って頷くトワは、すでに国王に就任してから数年がたっている。
 その言葉通りしっかりとフローリアのあとをついで、国王らしい貫録さえ身に着けてきていた。
 そんなトワが、相変わらず考助をしっかりと立てているのは、やはり考助が現人神という立場にあるためだ。
 さすがに家族だけになれば親子という立場で接してくるが、トワの中ではしっかりと線引きがなされていた。
 そしてそれは、ダニエラがいるときでも変わらなかった。
 ダニエラはあくまでもトワの相手であって、考助の血を引いた存在ではない。
 そのダニエラがいる前では、考助のことを現人神として接していた。
 もっとも、トワの態度によって考助が接し方を変えるということはしていない。

 そんなトワの言葉に、考助が少しばかりあきれた顔になった。
「なんだ。まだ発表してなかったのか」
 考助にしてみれば、今更といえば今更の言葉だった。
 すでにトワは、ダニエラを伴って何度か管理層に来ているし、彼女の両親とも顔を合わせたことがある。
 そんな状態であるにも関わらず、まだ式をあげていなかったのだ。
 考助がこんなことを言うのも当然だろう。

 そんな考助に対して、トワは苦笑を返した。
「はい。すいません」
 そんなトワに対してフォローをしたのは、フローリアだった。
「まあ、そうトワを責めてやるな。実務はともかくとして、トワは若いからな。まだまだなめて出てくるやつも多いだろう」
「そんな状況に追い込んだのは、母上なのですがね」
 恨みがましい顔でそういったトワに、フローリアはつらっとした表情で返した。
「なにをいう。お前ならできると信じていたからこそ、任せたんじゃないか。現にこうして報告に来ているだろう?」
「それはそうですが、ね」
 これまでの苦労を無視したかのような言葉に、トワは再び苦笑を返すことしかできなかった。
 ただ、フローリアも別に、トワのこれまでの努力を無視してこんなことを言っているわけではない。
 それよりもトワのことを信じたからこそ任せたのだといいたいのだ。
 たとえ血がつながっていても、一個歯車がずれればすれ違いが起きて仲が悪くなるようなことを言い合えるのも、普段からそうした気安い関係で話をしているからだった。

 そんな兄と両親の会話を聞いていたミアが、口を挟んできた。
「それで? 式はどうされるのでしょうか?」
「実はそれが問題なのです」
 ミアの問いかけに、トワがため息を吐いた。
 そんなトワを見ながらフローリアは、納得したように何度か頷いた。
 逆に考助は、トワの言ったことがわからずに、首をかしげた。
「どういうこと?」
「何。恐らく慣例という常識に縛られているのだろう?」
「まあ、そういうことですね」
 フローリアの説明に、トワが苦々しい顔になった。

 この世界において、各国の王家が結婚式を挙げるときは、三大神のいずれかを選んで祭神とするのが慣例となっている。
 だが、ラゼクアマミヤにおいては、この慣例が問題をややこしくさせていた。
 アマミヤの塔を中心にして成り立っているラゼクアマミヤは、当然というべきか、現人神の考助を主神として据えていた。
 それ自体は、問題ない。
 この国に属するほとんどの者たちは、そのことに文句を言うことはなかった。
 だが、こと王族の結婚となると事情が変わってくる。
 端的にいえば、これまでの慣例を破るのはどうなのかと、神殿に属する者たちが言ってきたのだ。
 人の結婚にわざわざ口を出すなと言いたいところだが、王という立場上、そういうわけにもいかない。
 さらに付け加えると、こういったことに対して神々が直接口を出すということは、絶対にない。
 なぜなら、そこから女神同士の争いに発展しかねないからである。

 考助の直系の子を王に据えているからこそ正当性を主張している王国であるがゆえに、過去からの慣例というのがときに邪魔になることもある。
 トワの結婚は、その問題がわかりやすく表面化した例ともいえた。
 そのトワの説明を聞いていた考助は、苦い顔になった。
「なんともまあ、面倒くさい話だね」
 考助にしてみれば、そんなのはどうでもいいということになる。
 ぶっちゃけ、自分が結婚式の祭神として祭り上げられなくてもいいとさえ考えていた。
 だが、そんな考助に対してフローリアが首を左右に振った。
「そうもいかんだろうさ。なにせ、根本には王家としての正当性がある」

 どこの国も神話や伝説をもとに王家の成り立ちを正当化して、国を治めている。
 それが本当のことかどうかはともかく、過去の神々や英雄を持ち出して王族となり国を統治する。
 ラゼクアマミヤの場合は、それが特に顕著に出ている例となる。
 もしその根幹が崩れれば、王家として国を治めるのが難しくなる。
 さらに厄介になるのが、問題が出てくるのがトワの代ではなく、代を重ねれば重ねるほどその影響が出てくるということだろう。
 そのためにも、ここでトワが妥協するわけにはいかないのである。
 神殿が、ラゼクアマミヤの王家が妥協できるところではないとわかっていながらそんなことを言い出しているのか、それとも他に思惑があって言い出しているのかはわからない。
 ちなみに、セントラル大陸にある神殿、特にミクセンの三神殿は、この件に関してはわれ関せずを貫き通していた。
 これも現在の三神殿が、微妙な立ち位置にいることを示している端的な例といえるだろう。
 そんな神殿側の事情はともかく、王家として妥協ができない以上、考助を祭神としてまつるのは決定事項と言っていい。

 フローリアから説明を聞いた考助は、納得して頷いた。
「ということは、やっぱり僕が祭神になるわけだ」
「そうなりますね。父上にとっては煩わしいでしょうが」
 そんなことを言ってきたトワに、考助は首をかしげた。
「いや、そんなことはないと思うけれど? だって、僕が直接出て行って何かするわけではないよね?」
「それはやめてください」
 考助のセリフに、トワが即答した。
 現人神である考助が、直接会場に乗り込んできたとなると、どんな騒ぎになるか分かったものではない。
 第五層に神殿を建てたときとは、まったく状況が変わっているのだ。
 考助としては、自分が出るくらいでトワの助けになるのであれば、いくらでも出て行ってもかまわないという思いはある。
 それがわかっているからこそ、トワもすぐに拒否を示したのである。

 考助も自分が表に出て行けばどうなるかわかっているので、特に自分から動こうという意識は今のところはない。
 自ら好んで騒ぎを起こすつもりは、まったくないのである。
「ふーん。それならいいけれど。まあ、何かあったら教えてくれればいいよ」
 軽くそういった考助に、トワは苦笑を返し、隣で黙って話を聞いていたダニエラが卒倒しそうな顔になった。
 まさか自分の結婚式で、神が直接かかわることになるとは思ってもみなかったという顔だ。
 もっとも、トワと結婚すると決意をした時点で、何をいまさらという気もしないではない。
「いざとなればそういうこともあるかもしれませんが、今は大丈夫です」
「そう。それならいいや」
 トワの顔から嘘ではないと分かった考助は、特に執着することなくそう言うのであった。

 トワはその考助の返事を聞いて安心してしまったがために、不覚にもフローリアの顔を見るのを忘れていた。
 そして、そのフローリアは、長年の付き合いから考助が何かを企んでいると表情から察していたのであった。
いよいよトワの結婚が秒読み状態に入りました。
ようやく周辺の環境が整ったというところでしょうか。
これ以上待たせるわけにはいかないというトワの個人的な思いもありますが。

そして、考助が何をたくらんでいるかは、またのお楽しみにw
特に、大したことではありません。(タブン)
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