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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第7章 塔のあれこれ(その14)

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(1)お祝い

 狐のお宿で売り出した狐除香は、手にした冒険者たちによって噂が広められていった。
 宿では狐除香の効果については、わざとぼかして使い方だけ軽く説明をして売っていた。
 だが、ためしに使ってみた冒険者が、狐除香を付けたことによって絶大な効果を発揮したのを確認してから風向きが変わった。
 偶然宿に導かれて泊まることができたお客は、こぞって狐除香がないかを問い合わせてきた。
 もっとも、店でも素材と作成の手間の関係でそこまで多くは販売できないと、ほとんどのお客に対してお断りしていた。
 そこで逆上するようなお客は、そもそも狐たちは連れてきていない。
 さらにいえば、たとえ逆上されても次に宿に来る機会が失われてしまうことになる。
 宿側ではわざわざそんなことは話していないが、泊まっているお客は、そのことをよくわかっていた。
 結局、狐除香は幸運に恵まれて宿に泊まれたお客の中で、さらに気に入られた者たちだけが入手できるアイテムとして認知されていくことになる。
 ちなみに、狐のお宿は冒険者として実力が高い者たちだけが泊まっているわけではない。
 そうした者たちの中で狐除香を手に入れられたものも存在していたが、彼らを襲うような冒険者はほとんどいなかった。
 そんなことをすれば、襲った者たちは宿に泊まれなくなると考えたためである。
 ただ、そんなことを気にせず襲う輩もいたが、そうした者たちはすぐさま特定されて回収されるか、第五層の街には居続けることができなくなる。
 今や冒険者たちにとっては、狐のお宿は幸運の象徴に近い存在になっているのであった。

 とある人物にジト目を向けられて、考助はついと視線を逸らした。
 そのジト目の持ち主は、勿論というべきか、シュミットであった。
「・・・・・・何の件かは、わかりますよね?」
「サテ、ナンノコトデセウ」
 今更ごまかしたところでどうしようもないのは、考助もわかっている。
 ついでにいえば、シュミットも考助がごまかしようのない状態になるまで噂が広まるのを待っていたのである。
 確認できてからすぐに問い詰めるよりも、こちらのほうが効果的である。
 ついでに、考助に対しては特に有効な戦術だとシュミットも理解していた。
 すでに考助とシュミットの付き合いも二十年以上になる。
 とっくにシュミットには考助の性格も把握されている。
 もっとも、それはお互いさまともいえるのだが。

 別に考助としては、狐除香のことをシュミットに教えるくらいはかまわないと思っている。
 だが、製法はともかく、素材までばらしてしまうと、いろいろと問題がある。
 水の名前からアスラの存在にまでたどり着けるとは思わないが、それでも彼女の扱いに関しては慎重に慎重を期す必要がある。
 シュミットも具体的にはわかっていないだろうが、考助が隠さなければならない何かがあることはわかっている。
 一つだけため息を吐いて、それ以上の追及はやめた。
「・・・・・・まあ、いいです。それよりも、今日は別件で来たのです」
 最初から深くは追及するつもりのなかったシュミットが、そんなことを言った。
 逆に考助が驚いた表情になった。
「別件?」
 狐除香の件を除けば、シュミットに何かを言われるようなことをした覚えは特にない。

 首を傾げる考助に、シュミットは小さく笑いながら言った。
「ええ。そろそろでしたよね、ピーチ殿の出産は」
「え? あ、ああ、そうですね」
 別に考助もピーチのことを忘れていたわけではない。
 なぜこのタイミングで、シュミットが話題に出してきたのかがわからなかったのだ。
「そんなに不思議がらないでください。単にお祝いを言いに来たのですから。私は、部門長たちを代表して来ただけです」
 考えてみれば、今までも子供ができるたびに、部門長の誰かがお祝いに来ていた。
 ピーチの場合は、コレットの出産と重なったため、後回しになっていたのである。
 ちなみに、コレットの時は、妊娠が発覚してすぐにガゼランがお祝いに来ていた。

 今更ながらにそのことに気付いた考助は、照れくさそうな表情になって頭を下げた。
「わざわざすみません。ありがとうございます」
「いやいや、何を言っているのですか。我々にとっては、あなたの子ができるのは慶事ですからね。むしろ、大々的に祝えないのが心苦しいくらいです」
「僕の子供が?」
 再び首をかしげた考助に、今度はたまたまそばにいたフローリアが説明してきた。
「それこそ今更何を言っておる。組織を立ち上げた者の子が、その組織を親から引き継いで安定を図る。当然のことだろう?」
「え? ああ、そういえばそうだった」
 こちらの世界の常識を忘れていた幸助は、きょとんとした表情になった。

 ついつい忘れてしまうが、この世界では子が親の職業を引き継ぐのは当たり前のように行われている。
 というよりもむしろ、子供のために親が職業を用意しておくという感覚なのだ。
 もちろん、子供がなりたい職を邪魔するというわけではない。
 考助は、これまでも今までも子供たちに職を押し付けるつもりはないが、なんだかんだと今までの子供は自分の仕事を引き継ぐような形になっていた。
 コレットやピーチの子供たちはまだわからないが、恐らくそれぞれの分野に特化した職に就く気がしている。
 結局のところ、子供たちが育つ環境というのは、非常に重要なのだ。
 付け加えれば、考助はこの世界で「職業選択の自由が~」などと叫ぶつもりはない。
 この世界でそんなことを叫んでも押し付けでしかないし、ついでにいえば「職業選択の自由」が最高の制度だと思ってもいない。
 勿論、やりたくもない職を親から押し付けられるのは間違っていると思っているが、それはまた別の話である。

 そんなことを考えているにも関わらず、フローリアが言ったようなことをすっかり忘れているところが、考助の考助たるゆえんである。
 まだまだこの世界に染まりきってはいないということだった。
「うーん。まあ、でもピーチの子供があっちの世界に入るかは、まだわからないですよ?」
 一応のつもりで釘を刺した考助に、シュミットも大きくうなずいた。
「勿論です。我々が期待しているのは、むしろ彼らの戦闘能力のほうですよ。ただ、当然ながら今までの仕事も続けてほしいとは思いますが」
 サキュバスたちが、クラウンにとってもラゼクアマミヤにとっても重要な役目を果たしているのは重々承知している。
 だが、リクが冒険者になっているように、ピーチの子供が冒険者を目指すような選択肢があってもいいとは考えている。
 シュミットがガゼランから聞いた話では、サキュバスたちの戦闘能力は、平均すればかなり上に来るといっていた。
 それだけのことがわかっていれば、ピーチの子が冒険者を目指すと考えるのは、クラウンの一部門を預かっているシュミットとしては当然のことだった。
 もっとも、そんな将来のことなどどうなるかまだ分かるはずもない。
 今は、ただ単純に考助に子供ができることを祝いにきただけだった。

 結局シュミットは、ピーチの出産のお祝いを述べて言っただけで、戻って行った。
 当然のように考助の「新作」が何かないかは聞いていたが、これはいつものように空振りで終わっていた。
 そもそも最近までガゼンランの塔にこもっていて、ほとんど素材の整理だけで終わっていたのだから仕方ない。
 そんなにいつも新しいアイデアが出るわけでもないのは、毎度のことだった。
 シュミットもそれがわかっていて、考助に会うためだけに来ているのだ。
 そうやって理由を作って来ないと、仕事の忙しさにかまけて顔見せすらすることがなくなってしまう。
 それは、部門長の一人としても避けなければならないことなのであった。
今話から新しい章のスタートです。
この章はアマミヤの塔での日常の章になると思います。
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