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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6章 ガゼンランの塔再び

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(29)完成

 ここ数日は、すっかりシルヴィアの助手と化していたワンリは、現在一心不乱に薬草をすりつぶしていた。
 ワンリの中で何が気に入ったのか、調合に関しての作業は余程性に合っていたようである。
 流石にシルヴィアの作業の全てを手伝うレベルには至っていないが、シェリルを除いた他の者たちよりは余程上手になっていた。
 ちなみに、シェリルの調合のレベルが高いのは、薬草に詳しくそうした作業にも精通しているエルフとしての面目躍如といったところだろう。
 もっともシェリルに言わせれば、流石に始めてひと月も経っていない者に抜かれるとショックが大きいです、ということになる。

 ゴリゴリと楽しそうにすりつぶしていたワンリが、ピタリとその手を止めた。
「シルヴィアお姉様、出来ました!」
 そして、埃などが入らないように、すり鉢の上に手を添えながらすぐ近くで作業をしていたシルヴィアに声をかけた。
 そのワンリの声でシルヴィアは振り返り、手招きをした。
「そう。でしたら、そのすり鉢ごとこちらに持ってきて。他の容器に移さないでね」
「はい!」
 短く返事を返したワンリは、中身をこぼさないようにすり鉢を持ちあげて、シルヴィアの所まで持って行った。
「・・・・・・。ええ。大丈夫そうですわね」
 ワンリからすり鉢を受け取って中身を確認したシルヴィアは、満足そうに頷いてから続けた。
「あちらにある神水を持ってきてくれるかしら?」
 既に何の容器に入れて持ってくるかはわざわざ言わなくても大丈夫なほどに、ワンリはシルヴィアからの指示に従って動くことに慣れている。
 樽に入れられた神水をその傍に置いてあった容器に汲んで、先ほどと同じようにシルヴィアの傍まで持って行った。
「ありがとう。その神水をこっちの容器にぎりぎりまで入れて、すり鉢に移して混ぜてくれるかしら?」
「はい」
 シルヴィアが示したのは、小さめの容器で、すり鉢に神水を入れて移してもそこから水がこぼれることは無かった。
 ワンリは、すりつぶした薬草に神水を混ぜる作業も既に何度か行っている。
 とはいえ、これが重要な作業だということも分かっているので、手早く慎重に作業を行った。

 ワンリにあれこれ指示を出していたシルヴィアは、単にそれだけをしていたわけではない。
 自分が行っていた作業を見極めながらワンリの様子も見ていたのだ。
 その証拠に、ワンリから受け取った神水入り薬草の液体をろ過器の上から流し込んだ。
 流し込むタイミングを、しっかりと見極めた上での作業だ。
 ここまで来ると、とてもではないがワンリに出来ることはない。
 ただ黙ってシルヴィアが行っている作業を見ていた。

 シルヴィアが濾過器を使って上から流しているものは、ワンリが作った液体だけではない。
 他にも事前に用意していた物を、決めてあった手順通りに流している。
 流し込む順番やタイミングは、完全に今までの経験と勘に基づいて行っていた。
 勿論、何度も行っていけば、定型化して誰が行っても出来るようにすることができる。
 ただ、最初のときに関しては、というよりも、成功するまでは結局そうしたものに頼らざるをえないのである。

 手元にあった最後の液体を上から流し込んだシルヴィアは、ホッとため息を吐いた。
「これでいいですわ」
「・・・・・・終わり?」
 シルヴィアの呟きを聞いたワンリが、首を傾げながら問いかけた。
「ええ。あとは濾過されるのを待つだけですね」
「楽しみです」
 短く答えて来たワンリを見ながら、シルヴィアも小さく笑った。
「そうですね」
 ワンリに答えた通り、あとは濾過器を通して液体が溜まってくるのを待つだけである。
 ただし、今回は、ろ過するためのフィルターの数をかなり多めにしてあるので、時間がかかる。
「取りあえず、今はこのまま放っておきましょう」
「大丈夫? こぼれてこないですか?」
 一番下で液体を受け止めている容器を見ながら、ワンリが問いかけて来た。
「ええ。大丈夫ですよ。ちゃんと分量は計算していますから」
 シルヴィアが安心させるように微笑みながら答えると、ワンリもコクリと頷いた。
 ここから先は、時間単位で待つことになる。
 流石にその間ずっとここで見ているのも疲れるので、二人は器具が倒れたりすることが無いように、しっかりと固定してその場を離れるのであった。

 
 ある程度ろ過された液体が受け取り瓶に溜まってから、別の新しい瓶に交換をした。
 溜まった液体を見ていたシルヴィアは、やがてその液体を使って色々と調べ始めた。
 きちんと目的に沿った効果が出てくるかを確かめるためである。
 シルヴィアが調べている間、ワンリもその液体を少し貰って、狐型になって匂いを嗅いだりしていた。
「・・・・・・どうかな?」
 シルヴィアがそう呼びかけると、ワンリは人型に戻って答えた。
「うん。大丈夫みたいです。お兄様の眷属になっている私は大丈夫のようですが、普通のモンスターには効果があると思います」
 その答えを聞いたシルヴィアは、満面に笑みを浮かべた。
「そう! それじゃあ、完成ね!」
 そんなシルヴィアを見て、ワンリはどこで覚えたのか両手でパチパチと拍手をするのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦。

 シルヴィアから完成の報を聞いた考助は、他のメンバーと共に作業場へと足を踏み入れた。
 そして、部屋の中央にあるテーブルの上には、陶器の中に入れられた液体があった。
「これが?」
「そうですわ。これが今回作ったアイテムになります。・・・・・・<狐除香>とでもつけましょうか」
 シルヴィアが、ワンリをちらりと見ながらそういった。
 名前に狐が入っているのは、手伝って貰ったワンリのためと、これから先売りに出すことになるであろう狐のお宿のことを考えてである。
「<狐除香>、ねえ」
 陶器の入口に鼻を近づけて匂いを嗅いでいたフローリアが、首を傾げた。
「香という割には、匂いがほとんどしないようだが?」
「どれ? ・・・・・・あ、ほんとだ」
 フローリアと同じように匂いを嗅いだ考助が、納得して頷く。
 彼女の言った通り、ほとんど匂いらしい匂いがしていなかった。

 名前だけではどんな化粧品か分からずに、考助がシルヴィアに聞いた。
「それで、どうやって使うの?」
「まずは、香水のように、少量だけ振りかけます」
「うん」
「そのあとは、モンスターが出る場所に行きます」
「・・・・・・うん?」
 思ってもみなかった方向に説明が進んで、考助とシュレインとフローリアとシェリルが同時に首を傾げた。
 それに構わず、シルヴィアが続ける。
「すると、あら不思議! モンスターが近寄ってこなくなります!」
 いつもと違ったシルヴィアのテンションに、考助、シュレイン、フローリアの視線が突き刺さった。

 三人を代表して、考助がシルヴィアに向かって言った。
「ええと? 化粧品を作っていたはずだよね?」
「勿論ですわ! きちんと化粧品としての役目も果たしています!」
 シルヴィア本人も何となく後ろめたい気持ちがあるのか、普段と違って早めな口調になっていた。
 流石にこれ以上は責めても仕方ないと考えた考助は、そもそも目の前にある物の効果を確認することにした。
「はあ、まあそれはいいや。それで? 魔除けみたいなものだと思うけれど、どれくらいの効果なの?」
「そうですね。先ほど言った通りの使い方をすれば、中級以下のモンスターは近寄ってこなくなります」
 あっさりとそういったシルヴィアに、ワンリを除いた四人が目を剥いた。
「「「「はいっ!?」」」」
 あり得ないその効果に、四人の視線が陶器に入った液体に集まるのであった。
少しばかり目的の物からは外れてしまいましたが、何とか化粧品(?)を完成させることが出来ました。
某CMのようにぽたりぽたりと落ちてくるのを待ちながら作っているので、量産などは不可能です。材料的にも。
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