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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6章 ガゼンランの塔再び

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(28)敗北(いつもの)

「これは・・・・・・凄いな」
 テーブルの上に広げられた地図を見て、考助はそう呟いた。
 そこには、何日もかけて神殿周辺を調べ上げた成果が事細かく書かれている。
 流石に階層全てを調べるにはまだまだ時間が足りないが、それでも半分以上は詳細が書かれており、残りの部分も大まかな調査はできていた。
 神殿周辺は特に事細かく書かれているが、それを見ていた考助は眉をひそめて言った。
「確かに凄いんだけれど、なんでまたモンスターどころか昆虫の分布まで書かれているの?」
 余りに色々と書かれていて、なにをそんなに書いているのかと注視してみれば、小さな昆虫の名前まで書かれていた。
 若干呆れたような表情を浮かべる考助に、フローリアが肩をすくめながら返した。
「一言で言えば、興が乗ったといったとこところか。まあ、単に暇つぶしというのもあるが」
 基本的にこの調査は、シェリルが中心となって行っている。
 さらに、植物に対して詳細を調べるとなると、どうしても他の二人では専門外のことになるため、シェリルに任せ切りになってしまう。
 そのため、手持無沙汰になっていたシュレインとフローリアが、見覚えのあるものに関して書きこんでいった結果がこれ、というわけである。

 何となく気まずく感じたのかシュレインとフローリアは、ふたり揃って考助から視線を外していたが、その考助はそれには気付かずにジッと地図を見つめていた。
「いや、ほんとにすごいね。これは」
 改めて地図を見て、考助は感心した声を上げた。
 建物などが書かれた地図は、それこそ以前いた世界で幾らでも見て来たが、こうした自然物を事細かく調べ上げたものは、一度も見たことが無い。
 そんな物を何に使うのか、と言われれば確かにその通りだが、塔の管理をしている考助からすれば、十分に利用価値がある。
「これは、いっそのことここの階層全部を調べてもらった方が良いかな?」
 折角だし、と続けた考助を見て、シュレインとフローリアは、何とも複雑な表情を浮かべた。
 褒められて嬉しいという気もあるが、単に暇つぶしで行ったことで、何となく気まずいというのもある。

 そんな二人を見なかったことにした考助は、視線をシェリルへと向けた。
「これって、ひょっとしなくてもエルフたちも欲しがったりしない?」
 シェリルがこの階層に来たときの第一声は、ここは理想的な環境だった。
 その詳細な情報が書かれた地図であれば、エルフたちは欲しがるだろうと考えての問いかけである。
 そして、その予想通り、シェリルはコクリと頷いた。
「ええ。間違いなく欲しがるでしょう。私の記憶だけで再現するのは無理ですから」
 例えば、森にある木々に関しては、群生している分だけではなく、その中にポツリと生えている物まで書かれているのだ。
 幾らシェリルでも、そんなに細かいことまで覚えていられない。
 こうして地図という形で見るからこそ、その時の情景を思い出すことができるのである。
 シェリルが中心になって作り上げたこの地図は、エルフたちにとってはお宝にも等しい価値がある。

 それに、この地図を欲しがるのは、何もエルフたちだけではない。
 気まずさから復活したフローリアが、考助とシェリルの会話に加わって来た。
「何も欲しがるのはエルフだけではないだろう? 冒険者ギルドから研究機関、果ては国家まで、もし存在が知れたらこぞって取引に来ると思うぞ?」
 この地図の価値は、書かれている内容だけではない。
 書かれている方法も今までにない手法がとられている。
 もっとも、手法といってもそんなに難しいことではない。
 この世界の地図といえば、どこに川があり山がありモンスターが出てくるといった大雑把なものでしかない。
 クラウンとラゼクアマミヤがかろうじて考助がポツリと漏らしたのを聞いて、それではだめだと奮起して作っているくらいだ。
 第五層に町を作り始めたばかりの頃、生産部門の者たちが詳細な地図を作り上げたこともあるが、あれは特殊な例だった。

 別に考助としては、地図の作り方くらいいくらでも広めて構わないだろうと考えているが、やはり戦争に直結する以上、中々広まらないのが現実だった。
 一度に大軍を送り込むことが出来ない塔の階層が、唯一の例外といって良い。
 そんな中でこの地図を公表すれば、どんなことになるか分かったものではない。
 そんなフローリアの言葉に、考助は首を左右に振った。
「この地図を表に出すつもりはないよ?」
「そうなのか?」
 考助のことだから、また堂々と表に出すのかと思っていたフローリアは、意外そうな顔になった。
「うん。エルフたちには出しても良いかもしれないけれど、他にはね」
「なぜだ?」
「だって、そもそもどこの地図だって話になるじゃない?」
 今の段階でガゼンランの塔の第七十層に到達しているなんてことは、情報として流すつもりはない。
 さらに言えば、ここにある神殿の存在を秘匿するということは、以前と変わっていない。
 それらの理由から地図の存在を表に出すわけにはいかないのである。
 もっともなその理由に、フローリアも大きく頷いた。
「確かにな」
「何とも面倒な話しじゃのう」
 考助とフローリアの会話を聞いていたシュレインが、顔をしかめながらそういって来た。
 もっとも、そんなことを言いながらシュレインもこの地図を秘匿する意味は十分に分かっている。

 そんな彼らの会話を聞いていたシェリルが、おずおずと問いかけて来た。
「あの、それでは、私たちに貸していただくのは・・・・・・」
 シェリルとしては、是非とも里にいるエルフたちにもこの環境のすばらしさを知ってほしかった。
 現地に来ることはほぼ不可能なので、それであれば、せめて地図くらいはと考えていたのである。
 そんなシェリルに対して、考助は首を傾げた。
「うーん。エルフにだったら別にいいと思うけれど?」
「えっ!?」
 塔で管理しているエルフの里は、基本的には外部との接続はされていない。
 それに加えて、唯一の接続先も同じエルフで他の種族との接点はほとんどないと言っていい。
 それであれば、塔のある里から外に出さないと約束さえしてもらえれば、貸し出すくらいはしてもいいと考助は考えていた。
 さらにフローリアが付け加えるように言った。
「あそこのエルフたちであれば、コウスケからの神託だと言えば、いくらでも秘匿するだろう? それなら表に出ることもないからな」
 フローリアの台詞を聞いて、考助が頬を引き攣らせた。
 だが、その考助が何かを言うよりも早くシュレインが続けた。
「ついでにいえば、これそのものを持っていくのではなく、シェリルが必要な部分だけを書き写した物を持って行けばいい。例えば、神殿はあえて書かない、じゃな」
「そうだな。都合の悪い部分は隠して、後は口頭で伝承していくことなどよくあるからな」
 考助に口を挟む隙を与えず、シュレインとフローリアが頷き合っていた。

 二人の会話を聞いて、シェリルも顔を輝かせた。
「ほ、本当ですか!?」
「あー、うん。まあ、それでいいんじゃないかな?」
 何となくそんな流れになってしまって、否定することも出来ずに考助は頷くしかなかった。
 出来れば考助としては、神託云々は止めてほしかったが、今更止めることも出来なさそうだ。
 シュレインとフローリアを見れば、どことなく楽しそうな表情になっており、コウヒとミツキは当然とばかりに頷いているのだ。
 どこにも考助の味方はいなかたった。
 唯一こういう場面で味方をしてくれそうなシルヴィアは、ワンリと共に作業中だ。
 今回は(も?)、考助の完全敗北で幕を閉じることになるのであった。
完全敗北な考助でした。
あ、いつものことですね。ソウデスネ。

考「ひ、ひどい」
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