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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6章 ガゼンランの塔再び

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(27)ボールの行方

「な、なにっ!?」
 バトル商会セイチュン支部長の報告を聞いたアメディーオは、驚きのあまり椅子から立ち上がった。
「ば、馬鹿な・・・・・・、そんなことがありえるのか?」
「疑われるのはもっともです。ですが、私にはこれ以上の確認のしようがございません」
 疑念の視線を向けられた支部長は、淡々と返事を返すしかなかった。
 証拠を出せと言われても、そんなものは持っているはずもない。
 自らの言葉だけで、自分がクラウンとの交渉の席で感じたことを伝えなくてはならない。
「少なくとも交渉の席に出ていたドノバンが、嘘をついていたという気配は全くありませんでした。むしろ、彼自身も驚いているといった態度でした」
 支部で行った交渉では、支部長は随分と取り乱した態度を見せていたが、それでも見るべきところはしっかりと見ていた。
 あとは、自分が感じたことを目の前にいる相手に伝えるだけだった。
 アメディーオもまた支部長を同じような感じで観察している。
 そして、少なくとも支部長が本気で先ほどの情報を正しいものだと信じていることはわかった。
「・・・・・・なるほど。確かにその情報がブラフではなく、本当のことであれば、これ以上この場で詮索を行うことは無理であろうな」
「はい」
 アメディーオの言葉は、支部長の能力を軽んじているわけではない。
 むしろ信用しているからこその言葉だった。

 アメディーオが、というよりも帝国が切り札として出したミズヒカリゴケは、<ラスピカの水>と合わせて特殊な調合を行うと、高い回復力を持つ回復薬を作ることができるのである。
 勿論それは、通常出回っている回復薬とは段違いの効果を持ち、部位欠損の修復さえ行われるといわれていた。
 そんな効果の高い薬が実際にあるかどうかは、アメディーオには分からない。
 ただ、少なくとも王家に伝わる文献を漁ると、その薬の存在が実在していた証拠はいくつも上がっていた。
 そのためその薬を再現するためにミズヒカリゴケの探索に力を費やしていたのである。
 それがまさか、既にクラウンがその薬の再現に成功していたとは考えてもいなかった。
 そもそもその薬が本当にあるのでは、と頭をよぎったのは、クラウンがセイチュンに支部を作るきっかけになった二つ(・・)の水の発見の報だったのだ。
 それを考えれば、クラウンが先に再現してしまったという話は、アメディーオにとっては、何とも皮肉的な話であった。

 現段階でその話が本当のことか、確認には至っていないが、少なくとも完成させているという前提で話を進めなくてはならない。
 扱う物が物だけに、一商会の支部とクラウンの支部では交渉を行うには荷が勝ちすぎている。
 それゆえのアメディーオの支部長に対する言葉だったが、支部長にとってもそれは同感だった。
「・・・・・・場合によっては、わが商会でも扱いきれない話の可能性でもあります」
 だからこそ、支部長自身の正直な考えを王子にそのまま伝えた。
 これほどの重要な道具の話だ。
 本来であれば、支部長クラスの人間が勝手に判断するのは越権行為とみられかねないが、支部長はあえてそれを行った。
 そして、その支部長の言葉を聞いたアメディーオは、その真意を見極めるようにスッと目を細めた。
「ほう? その理由は?」
「これまで薬の作成の成功どころか、必要素材の採取の情報さえも他の商会には掴ませていなかったのです。交渉しようとしても門前払いになるかと。・・・・・・勿論、これは私の一個人としての見解ですが」
 最後に付け加えられた支部長の言葉に、アメディーオはフッと表情を緩ませた。

 支部長が、あくまでも商会の代表として話を続けたならば、アメディーオは今後の付き合いを見限っただろう。
 せいぜいが、商品のやり取りをするだけの交渉相手といったところになっていたはずだ。
 だが、その最後の言葉で、自分は越権行為をするつもりはないと宣言したのだ。
 大抵の者は、王族を前にすると、自分自身を大きく見せようとして、そうした失敗を行う。
 しかし、支部長はしっかりと線引きを行った上で、王子であるアメディーオにその言葉をあえて伝えて来たのだ。
 アメディーオにとっては、そうした人物は信用が置ける者として判断される。
 そして今の会話で、支部長はそちら側に属することになった、というわけである。

「そうか。確かに、そうかもしれぬな。其方の忠言、しっかりと心に留め置いておこう」
「ありがとうございます」
 アメディーオのその言葉に、支部長はホッとした表情を浮かべた。
 自分の言葉が王子にどう受け止められるか、彼にとっても賭けだったのだ。
「それでは、今後はいかがいたしましょうか?」
 クラウンが、これまで彼らが動いてきた行動の全てを打ち消すような情報を出して来た。
 そのため、これから先の見通しが全く立たなくなっている。
 これからの行動の全てをアメディーオの決断を握っているため、支部長としてもどう動くかは指示を仰ぐしかない。

 支部長に問われたアメディーオは、腕を組んで首を振った。
「・・・・・・流石にここまで話が進んでしまった以上、私でもこれ以上の判断は出来ないな。一度本国に持ち帰って判断するしかなかろう」
「で、では・・・・・・?」
 アメディーオの言葉に、支部長はごくりと喉を鳴らした。
 そんな支部長に対して、アメディーオは首を縦に振った。
「ああ。父上に話を通すことになる」
 このアメディーオの判断により、セイチュンで起こっていた勢力争いは、それぞれの組織の支部同士の争いではなくなり、更に上でのやり取りが行われることになったのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 アメディーオが支部長と会話を行っていた丁度その頃。
 ドノバンは、本部との通信を終えて通話を打ち切った。
「これで、俺たちの役目は終わり、か?」
 先ほど行われたバトル商会との交渉内容は、全て本部のシュミットに伝えてある。
 バトル商会の後ろにいる者が既に判明している以上、そして扱う物の影響力の大きさから、既に自分たちの出番ではなくなっていることも既にドノバンも分かっている。
 そうした理由でそう呟いたのだが、横にいてその呟きを聞きとがめたアデールが首を左右に振った。
「いいえ。むしろこれからが本番になるのではないでしょうか?」
 それこそ物が物だけに、出来る限り周囲には知られないようにしなくてはならない。
 交渉を行うのが帝国そのものだったり、クラウンの上層部だったりしたとしても、両者が直接やり取りすれば、必ず勘繰りが入ってくる。
 それよりは、このセイチュンで今まで通り交渉を行っていった方がましだろう。

 そのアデールの考えは、言葉にしなくてもしっかりとドノバンに伝わったのか、何とも嫌そうな表情になった。
「ググッ! それはそうだがよう。今回の件は、どう考えても俺の手にはあまっているぜ?」
 本来は、頭脳派ではなく肉体派のドノバンである。
 交渉などは、決して得意とは言えなかった。
 縋りつくようにして自分を見てくる視線をついと躱したアデールは、そんなドノバンに対して無慈悲な一言を放った。
「そうですか。是非とも頑張ってください」
「おい! せめて、私が手伝いますとか言えないのか!?」
 悲鳴のような声を上げたドノバンに、アデールはしれっとした表情で言葉を返す。
「そうですね。お給料が上がればそれも考えても良いかもしれません」
「・・・・・・そんなことができるのか?」
 そもそも支部の財政を握っているのはアデールだ。
 もしできるのならと色気を出したドノバンに、アデールはさっくりと首を左右に振った。
「無理ですね」
「何だよ! 希望を持たせるなよ!」
 漫才のようなその二人のやり取りを聞いていた者は、残念ながらただのひとりもいないのであった。
交渉のボールは上の方へ。
ただし、これから先も苦労するのは現場です、という話でした。
ドノバン、生きろ。
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