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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6章 ガゼンランの塔再び

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(26)クラウンの実力

 コウから聞いた情報をきちんと確認するため、ドノバンはすぐに本部へと確認を取った。
 勿論、その相手はシュミットである。
 今回は直接面会するのではなく、通信具を使ってのやり取りだったので、事前に時間を調整してからの話し合いだった。
 その結果、コウが言っていたことは事実であり、クラウンがきちんとミズヒカリゴケを取り扱っていることが確認できた。
 話し合いの最中に、シュミットがどこからその話を聞いたのかと確認して来たが、コウの名前を出した瞬間、納得していたのがドノバンにとっては非常に印象的だった。
 そして、その話し合いで、別の新たな事実も判明した。
 その情報に関しては、ドノバンの判断で表に出してもいいという許可をもらっている。
 何とも準備の良いことだが、これが今でもクラウンが急成長を続けている理由の一端だろうと、ドノバンは納得するのであった。

 シュミットとの話し合いから数日も経たずに、再びバトル商会のセイチュン支部長が訪ねて来た。
「いやいや。お時間を取って頂いてありがとうございます」
 口調と態度は下手に出ている支部長だったが、それとは裏腹にこちらの要求を聞いていただきますよ、という内心がはっきりと出ている。
 先日訪ねて来たときではなく、数日時間を置いてから来たのは、クラウン本部とのすり合わせの時間が必要だろうと考えてのことだ。
 一方で、対面しているドノバンは、その支部長の態度には特に反応を示さずにいた。
 折角なので、相手の出方を見極めるつもりなのだ。
「気にするな。忙しいのはお互い様だからな」
 ドノバンは、そんなことを言いながら頷いた。
 言外には、さっさとけりを付けようぜ、という意味を込めている。

 そんな前哨戦を繰り広げたあとは、早速支部長が本題に入った。
「早速ですが、例の件についての話し合いに来ました」
「例の件とは?」
 あえてとぼけてそう返答をしたドノバンに、支部長の眉がピクリと動いた。
 だが、ドノバンの挑発には乗らずに、そのまま平静を装って話を続ける。
「<アエリスの水>の権益について、ですね」
「ああ、あれか。それについては、既に返事をしてあったはずだが?」
「・・・・・・では、どうあっても今の状況を変更するつもりはない、と?」
「ああ、お陰さんで時間ももらえたからな。一応本部にも確認したが、やはり変えるつもりはないそうだ」
 あっさりとそう言ったドノバンに、支部長はわざとらしくため息を吐いた。
「そうですか。残念ですね」
 残念といいつつさっぱりそうは見えない支部長に、ドノバンはニヤリとした表情を浮かべた。

 そんなドノバンに対して、自分の優位を信じて疑わない支部長は、ここぞとばかりに切り札を出して来た。
「ということは、クラウンは例のアイテムの交渉権に関しては一切を放棄するということでよろしいですね?」
 支部長はクラウンがミズヒカリゴケを取り扱っていることなど一切知らないため、これで相手が引くだろうと考えてそう言ってきている。
 コウから情報を貰っていなければ、ドノバンも多少は心が動いただろう。
 今後の切り札になり兼ねない素材に関して、一切手出しができなくなるということは、それだけ不利になるということを意味している。
 勿論、たった一つの素材だけでセイチュンにおける影響力が落ちるわけではない。
 だが、ことミズヒカリゴケに関しては、下手をすればその可能性もあり得るということをドノバンも既に把握していた。

 支部長が繰り出して来た切り札に対して、ここらが潮時だろうと判断したドノバンは、隣に座っていたアデールを見て、彼女が頷くのを見てからこちら側の切り札を出すことにした。
「ああ、そのことについてだがな」
「?」
「ミズヒカリゴケな。本部の方で既に取り扱いがあるらしい」
 そう言ったドノバンを見ながら、支部長は一瞬何を言われたのか分からないといった表情になり、すぐそのあとに驚きの声を上げた。
「なっ・・・・・・!?」
 ドノバンとしては支部長のその顔を見ることができただけで満足である。
 あとはどうやって話を進めて行くかだが、クラウンの立場として、現地の既存の勢力を下手に追いつめるつもりはない。
 わざとらしく、大袈裟に頷いたドノバンは、その顔を見なかったことにして話を続けた。
「なんでもアマミヤの塔の冒険者の活動域にもとれる箇所があるらしくってな。俺にしてみても盲点だったんだが、そういうことらしい」
 支部長は、そんなことを言って来たドノバンを見ながら口をパクパクとさせていた。

 それはそうだろう。
 自分たちが有利になるために持ち出して来た切り札が、既に相手が取り扱っていたというのだ。
 相手が持っていないと考えていたからこそ切り札としてなり得るのだが、それが一切意味をなさなくなってしまった。
 支部長の態度を見ながら、むしろドノバンは感心していた。
 その辺の一商人であれば、卒倒してもおかしくはない状況なのだ。
 なんとか平静を保とうと努力をしている支部長は、さすがというべきだった。

「・・・・・・落ち着いたかい?」
 どうにか落ち着きを取り戻したらしい支部長を見て、ドノバンはそう問いかけた。
 そのドノバンを恨みがましい視線で見た支部長は、ようやくと言った感じで声を絞り出した。
「ええ、まあ。おかげさまで」
 ドノバンも支部長も、互いに自分たちがボールを握っているわけではなく、裏に何者かがいることを分かっていて交渉している。
 ドノバンはクラウン本部、支部長はドミニント帝国だ。
 だからこそ譲れない一線というのもあるのだが、それを分かっているからこそ、ドノバンは次の提案をした。
「お前さんも立場というものがあるだろう? どうだい、さっきの話は無かったことにして、もう一度仕切り直しにするってのは?」
 事実上、クラウン側からの手打ち宣言だったが、今の支部長にはそれに対抗するだけの手札を持っていなかった。
「・・・・・・そうですね。そうしたほうがよろしいでしょう」
 支部長は、この話し合いを始めたときとは打って変わって、すすけたような顔になりながら頷くのであった。

 
 支部長によっては悪夢に近い状態になってしまったが、話はこれだけでは終わらなかった。
 気の毒そうに支部長を見たドノバンが、更にシュミットから聞いた話を付け加えたのだ。
「それでだがな。折角だから、もう一つ情報を提供しておきたいんだが、いいか?」
「情報、ですか?」
 これ以上いったい何があるのか、といった表情になる支部長に、ドノバンは一つ頷いてから続けた。
「どうやら本部の方ではな。既に<ラスピカの水>を使った例のアイテムの作成に成功しているらしい」
 そのドノバンのささやきに、支部長は目を見開いた。
「ま、まさか・・・・・・!?」
「ああ。俺もまさかと思ったんだがな。しっかりと効果も確認できているらしい。もっとも、とても量産は出来ないから、表だって売りに出すことはないらしいが」
 その特大級の情報に、支部長は今度こそ卒倒しそうな表情になっていた。
 それでも何とか声を絞り出して言った。
「貴方は・・・・・・いえ、クラウンはどこまで我々を驚かせるのですか?」
「さてな。こればっかりは俺に言われてもな。俺だって、そのことを知ったのはつい先日だ。この件が無かったら知ることも無かっただろうぜ」
 もうとっくにふたりはお互いに交渉しているという立場を忘れて、素の状態になっている。
 ドノバンは、気の毒そうに支部長を見ながら、ため息を吐きだした。
 そして、それを見ていた支部長も、同じようにため息を吐いて疲れたような表情になるのであった。
というわけで、真っ白になる支部長でした。
相手が持っていないだろうと意気揚々と交渉にテーブルについたら、実は持っているだけではなく、更に先を進んでいたという事実。
だれでもそうなると思います。
使いっ走りはどの世界でも辛いですね。合掌。
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