挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6章 ガゼンランの塔再び

714/1176

(25)クラウンの素材

「ミズヒカリゴケ?」
 素材の名前を聞いて首を傾げた考助を見て、ドノバンは詳細の説明を始めた。
「ああ。洞窟の中にある水たまりの傍に生えることが多いらしいんだが、苔の一種だな。名前の通り光ったりすることがあるらしい」
 そう説明してくれたドノバンだったが、考助が首を傾げたのは素材のことを知らなかったわけではない。
 むしろ同じ名前の素材を知っていた。
 さらに説明を加えようとするドノバンを止めて、考助はシュレインを見た。
「同じ名前の素材ってあるの?」
「さて、少なくとも吾は知らんが? ないとも言い切れないから何とも言えんの」
 シュレインも考助と同じように、首を傾げながらそう返して来た。

 その二人の会話を聞いて、ドノバンも考助たちが何を言おうとしているのか理解したのだろう。
 わずかに驚いたような顔になって聞いてきた。
「おいおい。もしかして・・・・・・?」
「ええ。同じ名前の素材だったら聞いたことがありますよ? クラウンが扱っている物の中に」
 考助がなぜ膨大な数がある素材の中でこの素材を知っているかといえば、単純に魔道具に使われる高級素材として有名だからだ。
 何しろこの苔が存在している場所がほとんどない上に、増やすことも難しい。
 そのために値段はうなぎ登りで上がって行っている素材だった。

 考助の答えに、ドノバンは右手の掌を額にピタンと当てた。
「かー。まじかよ!? そいつは盲点だったな」
 いくらドノバンやアデールが優秀とはいえ、クラウンが扱っている素材の全てを知っているわけではない。
 流石に支部で扱うことのある素材は把握しているが、それでもかなりの種類が存在している。
 そのため、クラウンでミズヒカリゴケを扱っているとは知らなかったのである。
 ちなみに、同じように希少価値の高い素材は、クラウンでいくつも扱っている。
「まあ、希少素材は身内で回す分だけで融通して、他には情報が出ませんからね。仕方ないかもしれません」
「そいつはそうだろうがな。・・・・・・ん? 待てよ? てことは、多少でも融通してもらうのは難しいのか?」
「流石にそれはなんとも。きちんと知りたいのであれば、部門長に聞いていただくのが良いと思いますよ?」
「そりゃそうだな」
 そのもっともな考助の返事に、ドノバンは納得したように頷いた。
「それにしても、バトル商会はクラウンが扱っていることを知らなかったのでしょうか」
「どうだろうな? 俺はともかく、アデールが知らなかったくらいだからな。向こうも知らなかったんじゃないのか?」
 考えてみれば、考助はクラウンがどのくらい表に出しているのか知らなかった。
 自分が使う分は、人の活動領域外(階層)から採取しているので、わざわざ流通させている量までは把握していないのである。
 考助は、アマミヤの塔以外の塔でも採取できることを知っているが、今のところそこまで教えるつもりはない。

「それよりも、その苔だが、何に使うんじゃ? 自信満々に持って来たくらいだ。よほどの物なのじゃろう?」
 シュレインが、疑問に思っていたことを聞いてきた。
 町中で噂になるほどの素材だったのだ。
 当然かなりの価値があると考えるのが自然だろう。
 そして、その予想通りドノバンは大きく頷いた。
「ああ、それがな。実は、お前さんたちも関係があることだ」
「はい?」
 思ってもいなかった言葉に、考助は首を傾げた。
 関係があると言われても、素材を探すために特に何か協力した記憶はない。
「ああ、いや。直接関係があるわけではなくてな。お前さんたちが、この支部を作るときに見つけた素材に<ラスピカの水>があっただろう?」
「まさか・・・・・・」
「ああ、恐らくその予想通りだ。その水と今回見つけた苔を使って、薬効の高い薬が作れるらしいな。勿論、使うのはその二つだけじゃないみたいだが」
 そのドノバンの答えに、考助は何とも言えない表情になった。

 そもそも<ラスピカの水>は、長い間失われた素材として知られていた。
 そのため、どういった活用方法があるのか、よくわかっていないと言われていたのである。
 クラウンでもその方法を求めて、色々と実験を重ねていたはずだ。
「活用方法を見つけたというわけか?」
 首を傾げるシュレインに、ドノバンは首を左右に振った。
「いや、分からん。ただ、本気で帝国が関わっているのなら、製法が伝わっていてもおかしくはないだろうな」
 <ラスピカの水>も<アエリスの水>と同じように、この西大陸で使われてきた素材である。
 古い国家であれば、素材そのものは失っていたとしても、製法は残っていてもおかしくはないとドノバンは考えていた。

 そして、それは考助も同じ考えだった。
「確かに、それはそうでしょうね」
 古い国家ほど、そうした記録は残ってある可能性がある。
 過去の政権や国家を否定して、古くから伝わる書物や書面を無かったことにしてしまうということもあるが、残念ながらドミニント帝国はそうした考えとは無縁だった。
 国が興った頃の初期の頃はともかく、長い間安定した政権が続いてきたからこそ、そうした余裕も生まれる。
 そんなことを考えていた考助は、ふと別の疑問を口にした。
「そういえば、帝国が関与していることは、確定で良いのですよね?」
「確実な証拠は、流石に見つかっていないがな。まあ、確定と言って良いだろうさ。それがどうかしたのか?」
「ああ、いえ。もし確定しているなら、他の二カ国がなぜ動いていないのか、不思議ではないですか?」
 セイチュンと領土が触れている三カ国は、昔から所有権をめぐって争って来た。
 それが、今回に限っては妙に静かに見えるのが不思議だったのである。

 そんな考助に対して、ドノバンは首を左右に振る。
「いんや。動いていないわけじゃないだろうな。奴らはそれこそ、何年もセイチュンを巡って争いを繰り返して来たんだ。その手の交渉はお手の物だろうぜ」
 表だって動きが出ていないだけで、裏で交渉なり何なりは進めている可能性が十分にある。
 というよりも、これだけの騒ぎが起きているのに未だに何も動きを見せていないのは、とっくに何らかのやり取りがされていると見た方が確実だった。
「と、いうことは、クラウンの狙い撃ちですか」
 直接的な考助の物言いに、ドノバンは苦笑をしながら頷いた。
「まあ、はっきり言えばそういうことだな。奴らにとっては、突然現れた俺たちは、異物なんだろうさ」
「何ともまあ、奇妙な関係ですねえ」
 考助は、感心していいやら、呆れていいやら、何とも複雑な気持ちになった。
「まあ、そんなもんじゃろう」
 その考助の横では、シュレインがそんなことを言って頷いていた。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 コウたちが去ったあと、ドノバンは自分の執務室でふと先ほどのやり取りを思い出していた。
 コウからの情報のおかげで、当初の予定よりも楽にことが進めそうになった。
「アデールさえも知らないクラウンの取引を知る冒険者、か」
 もう既にドノバンの中では、冒険者コウの正体については確信しているが、その名前を口にすることはない。
 見た目は、こういってはなんだが、ごく普通のそこらにいる者たちと同じようにしか見えない。
 だが、コリーのみならず、他にも何やら色々とありそうな仲間たちを従えるその姿は、ドノバンから見れば異色そのものだった。
 さらにいえば、見た目では分からないコウ自身の能力もある。
「・・・・・・一体どこであんな知識を蓄えているのやら・・・・・・」
 ドノバンにしてみれば、冒険者コウは不思議な存在そのものとなっていた。
「まあ、そんなことを考えていてもしゃーないか。仕事するか」
 他に誰もいない執務室で、ドノバンのそんな呟きが洩れるのであった。
既にクラウンでは取り扱っている素材でした。
といっても、流通量は非常に少ないです。
下手にとると全滅してしまう可能性が高い植物の為ですね。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ