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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6章 ガゼンランの塔再び

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(23)狐の作業

 考助たちが今回ガゼンランの塔に来たのは、狐のお宿で出すための化粧品を作るためである。
 肝心の作業はシルヴィアが行っているが、現在の進捗状況はというと・・・・・・。
「一応の目安ですが、八割がたは出来ています」
 ということだった。
 勿論、八割まで進んでいるとはいえ、場合によっては失敗することや最後の最後になって思い通りに作れないこともあり得る。
 そんなことは、考助も重々承知しているうえで、シルヴィアに確認を取ってある。
 ちょっとした片付けや軽作業程度はシルヴィアの手伝いもできるが、基本的には彼女一人での作業になるため、他の者たちは別の作業をそれぞれ進めている。
 特にシェリルは、神殿の周辺調査を順調に進めていた。
 既に、神殿を中心にして半径十キロ程度の範囲は、調査が終わっている。
 シュレインたちが手掛けた地図には、地脈や水脈を含めた詳細な情報が書き込まれていた。
 ここまで詳しい地図は、アマミヤの塔の階層でも作ったことが無いほどだ。
 シュレインたちは、事細かく書かれた薬草や野草の分布図を見て、シルヴィアが指定してきたものを採取に行ったりしている。

 そんなある日の午後。
 珍しく外出組に加わらなかったワンリが、シルヴィアが成分を抽出している最中のものをじっと見ていた。
「どうしたの、ワンリ?」
「ううん。なんか見ていて楽しかったから・・・・・・」
 シルヴィアの問いかけにも目の前にあるものから視線を外さずに、ワンリが答えた。
「そう。いっそのこと、作業とか覚えてみる?」
「えっ!?」
 思ってもみなかったことを言われたといった表情になったワンリに、シルヴィアが小さく笑った。
「そんなに驚くようなこと? 別にあなたに教えたら駄目なんてことは誰も言わないわよ?」
 ワンリが変なところで遠慮する癖があるのは、周囲にいる者たちであれば皆知っている。
 今もなぜか引いてしまっているワンリに対して、シルヴィアは少し強引に押してみた。

 その甲斐があったのか、それともシルヴィアの作業を見ていて興味が膨らんでいたのか、ワンリは頬を少し上気させてコクリと頷いた。
「・・・・・・やってみたい、です」
「そう。それじゃあ、道具を用意するからこっちに来て」
 ワンリの答えに、シルヴィアはちょっと笑ってから、初心者でも出来る簡単な作業ができる道具のある場所に移動した。

 シルヴィアに付いて行ったワンリは、言われるままに椅子に座った。
 そして、目の前にあるテーブルの上には、小さな器と棒が置かれていた。
 見る人が見ればすぐにわかるが、乳鉢と乳棒である。
 対面の席には、シルヴィアが同じ道具を揃えて座っている。
「はい。これが、これから使う物です」
 シルヴィアはそう言いながら、二つの道具を持ちあげて説明を始めた。
 簡単にいえば、目の前に別に用意してある薬草を入れてある程度まですりつぶして、そのあとに水を入れたり神水を使ったりしてさらにすりつぶすのを繰り返すのである。
 乳鉢が小さいので、入れる水はそこまで多くはない。
 薬草をすりつぶすのにもコツがあったりするが、その辺は口で言っても分からないので、繰り返し作業を行うことで覚えていくしかない。

 説明を受けながら慎重に作業を進めるワンリをシルヴィアは、微笑みながら見ていた。
 狐の姿のときのワンリは、大胆にモンスターに襲い掛かっていくのだが、こうして人の姿になっているときは、慎重に物事を進めて行くことが多い。
 もっともシルヴィアからは、姿が変わるから性格が変わるのではなく、魔物を相手にしている時だけは攻撃性が前面に出ているように見える。
 ワンリは考助に召喚された存在なので、二親から生まれて来たわけではない。
 いったい誰に似てそんな性格になったんだろうと、シルヴィアは一心不乱に作業をしているワンリを見つめながらとりとめもないことを考えていた。

 ワンリが夢中になって作業しているところに、素材の処置を終えた考助がやって来た。
「ん? 珍しいね、ワンリが作業しているんだ。ああ、ゴメン。そのまま続けていていいよ」
 考助が来たことに気付いていなかったのか、脇から話しかけると作業中のワンリがビクリと体を揺らした。
 それを見た考助が慌てて付け加えるのを聞いて、ワンリは安心したように作業に戻った。
 初めて行う作業の為か、まだ話しかけると集中を切らしてしまうらしい。

 ワンリの様子を見てそのことに気付いた考助は、彼女から視線を外してシルヴィアに視線を向けた。
「予備在庫に青熊担があるけれど、使っていいの? あれって、薬の材料になったはずだけれど?」
「青熊担・・・・・・ですか?」
 いくらシルヴィアが薬学や調剤に精通しているといっても、全ての材料を知っているわけではない。
 知らないまま要らないものとして素材が分けられてしまうこともあるので、たまにこうして考助が確認しに来ている。
 神の力(左目)をそんなことに使って良いのかという意見も無くはないが、今更過ぎる問題である。
「何でも滋養強壮に良いらしいけれど?」
「滋養強壮・・・・・・一応確認しておきますわ」
「分かった。こっちに持ってくる?」
 チラリと作業を続けているワンリに視線を向けながら考助が聞いたが、シルヴィアは首を左右に振った。
「いいえ。私が行きます。ワンリ、そのまま作業を続けていてください。やりすぎるのも駄目ですからね」
「はい」
 乳鉢から視線を外さずに作業を続けるワンリに頷いたシルヴィアは、今度は考助へと視線を向けた。
 そして、考助とシルヴィアは、ワンリをそのまま残して、予備在庫が置いてある部屋へと向かうのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 ワンリがすっかり作業にはまっている間に時間は過ぎていき、外の調査に出ていたシュレインたちが戻って来た。
「お帰り。どうだった?」
「む? いや、いつも通り順調に進んだが・・・・・・それより、ワンリが作業をしておるのか?」
 シルヴィアに言われるままに作業を進めていたワンリは、シュレインたちが帰って来たことにも気づかずに作業を行っている。
 その集中力たるや考助やシルヴィアが驚くほどだった。
 ついでにいうと、飲み込みも早いので既にシルヴィアの教えは次の段階に入っていた。
「うん。なんか、興味を持ったみたいでね。もうずっと張り付いてやってるよ」
「なんと。まさか、ワンリがなあ」
 考助の言葉を聞いて、後ろにいたフローリアも驚いた顔をした。
 シュレインやフローリアの反応はまだましな方で、更に二人の後ろにいたシェリルは、完全に固まっていた。
 シェリルは、ワンリの元の姿が九尾の狐だということを知っている。
 その狐がまさか調合の作業を行うなんて、と考えていることは、傍から見ている考助にも一目瞭然だった。

 外出組として一緒に外に出ていたミツキが、固まったままのシェリルの肩をポンとたたいた。
「いつまでそうしているつもり?」
 そのミツキの言葉で、シェリルがようやく動き出した。
 そして、その様子を見ていたシュレインとフローリアは、顔を見合わせて同時に苦笑した。
「どうにも吾らは、こうした状況に慣れ過ぎておるようじゃの」
「同感だ。といっても、もはや今更という気もするが」
「まあ、それも仕方あるまい」
 シュレインとフローリアの二人は、そんな会話をして同時に重々しく頷くのであった。
ワンリ大活躍!
ではなく、調合作業に興味を持ったワンリでした。
このままシルヴィアの助手でも務められるようになればいいですね。
先は長いですが。
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