挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6章 ガゼンランの塔再び

709/1220

(20)周辺調査その3

 神殿周辺に地脈と水脈があることを教えてくれたエセナは、シェリルに何か二言三言を話していったあと、すぐにその場からいなくなった。
 世界樹の影響力は、結合した階層中に広がっている。
 さらに、それ以外の階層にも手を伸ばしているらしいので、見た目以上に忙しいのだ。
 本体が巨木なので、見た目がほとんど動かないのは当然なのだが。
 エセナがいなくなったあとは、シェリルが先ほど彼女から聞いた話を元に、地図上に地脈と水脈を記していくことになった。
 ただし、すぐにその場というわけにはいかず、やはり周りの調査は必要になる。
 というのも、エセナがシェリルに言ったことはかなり簡素化されて、独特の言葉で伝えられていたのだ。
 そのため、きちんとシェリル自身が現地で確かめなくてはならない。
 こうして、これからの数日間は、それらの調査をするためシェリルを入れて、再びこの辺りの周辺の散策をすることになった。

 シェリルが調査をしている間に、本命のシルヴィアの作業は着々と進んでいた。
「あれ? これって、カツラの皮の抽出液?」
「ええ。そうですよ」
「へー。こうやってやるんだ」
 使っているのが同じ素材でも、当然ながら用途が違えばその加工の方法も違っている。
 考助が知っているのは、あくまでも魔道具に必要な材料を得る方法なので、シルヴィアがやっている方法とは全く違っていた。
 それもそのはずで、魔道具で使うのは繊維であり、化粧品や薬品で必要なのは成分になる。
 処理方法が全く変わってくるのは当然なのだ。

 考助は、上からしたたり落ちてくる滴を見つめながら重ねて聞いた。
「この抽出液を合わせて使うの?」
「それも色々ですわ。今は普通の水を使っていますが、別の抽出液を使う場合もありますし」
「なるほどねえ・・・・・・。ん? 普通の水?」
 シルヴィアの言葉を聞いた考助が、ふと何かに引っかかったような顔になった。
 そして、その考助の反応を見たシルヴィアが、いぶかし気な顔で見て来た。

「水・・・・・・水・・・・・・。んー? なんだろ? なにか思いついたんだけどなあ・・・・・・?」
 そんなことを呟いて首をひねっていた考助だったが、やがて何かを思い出してポンと手を打った。
「ああ、そうだ! 思い出した! 神水だ!」
「神水?」
「そう! 抽出用の水の代わりに、神水を使ったらどうなるかなって、思ってね」
 その考助の提案を聞いて、シルヴィアはハッとした表情になった。
「それは、確かに! ・・・・・・けれど、大丈夫でしょうか?」
「えっと、それは、どういった意味で?」
 首を傾げる考助に、シルヴィアがおずおずといった感じで言って来た。
「確かに上手くいきそうな気もしますが、逆に上手く行き過ぎるような気がしますわ」
 物が物だけに、どんな効果が出るかも分からない。
 もしそうなった場合、変な意味で注目を集めそうな気がして、シルヴィアは眉を顰めた。
「・・・・・・確かに、それはあるなあ。うーん・・・・・・」

 腕を組んでしばらく考えていた考助だったが、やがてすっきりとした表情になった。
「うん。それはいいや!」
「理由を聞いても?」
 いつもの考助であれば、余り目立つような行動は自ら取ろうとしてない。
 勿論、トラブルが向こうからやってくる場合は別だ。
 今回のように明らかに目立つと分かっているようなことは、なるべく控えようとしているのが普段の考助である。
 もっとも、シュミット辺りが聞けば、今更何を言っている、と突っ込んできそうなことなのだが。
「一番の理由は、そもそもあまり多く出回る物じゃないからかな?」
 今回シルヴィアが作ろうとしている化粧品は、あくまで狐のお宿で出そうとしている目玉商品である。
 限られた客層しか来ない宿の上に、一日でもてなすお客の数も少ない。
 そのため、噂はともかく、実際に物を手に入れられる人数はそこまで多くはない。
 限られた数しか手に入らないというのが、プレミアム感に更に拍車を欠けそうな気もするが、それは狐のお宿で商品を出す以上同じである。
 その程度であれば、特に問題ないだろうというのが考助の考えだった。

 考助の説明を聞いたシルヴィアも、同意するように頷いた。
「確かに、そうですわね。では、そのようにしましょう。その前に、本当に上手くいくかどうかは分からないのですが」
「そりゃあね。相性とかもあるだろうし」
 単純に神水を使うといっても、それが化粧品として使えるかどうかは分からない。
 まずは試してみるしかないのである。
「それで? 神水は、すぐに欲しい?」
「もし手に入るのであれば、すぐにでも取り掛かりますが?」
「そう。だったら今から採りに行ってくるよ」
 考助は、傍にいたコウヒにちらりと視線を向けて、彼女が頷くのを見てからあっさりとそう言った。
 考助とコウヒ二人だけならば、半日もせずに行って帰ってこれる。
 本当であれば双子のところにも顔を出していきたいが、シェリルのときに一度合わせているので、今回は涙を飲んで諦めた。

 シルヴィアに確認をして、取りあえず一樽分ほどの量があれば十分ということだったので、管理層にあった空の樽に神水を詰め込んで持ち帰って来た。
 それを作業場に置いておけば、あとはシルヴィアが好きなタイミングで使うことができる。
 すぐに結果が出てくるわけではないが、これで色々な作業の選択肢が増えたのである。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 一方、シュレインたちは、地道に周辺調査を進めていた。
 シェリルが加わったことにより、シュレインたちでは分からないような細かいことまで地図上に書きだしされるようになっていた。
 そんなある日、食事の席でシェリルが弾むような声で報告して来た。
「やはり調べれば調べるほどこの辺りの植生、というよりも生物の営みは凄いですね」
 シェリルが言った「生物の営み」というのは、食物連鎖のことだ。
 シェリルの目からすれば、神殿周辺は絶妙なバランスで辺りの植物にとって理想的な環境が保たれているそうだ。
 文字通り、神の手によってつくられた環境であるので、それも当然といえば当然である。
「あれ? ということは、僕らがここに入って狩りをしたり、採取をしたりするのはまずいってこと?」
 微妙なバランスで保たれている環境であるならば、そうしたちょっとした変化で崩れてしまうのも自然である。
 だが、その考助の疑問にシェリルは首を左右に振った。
「いいえ。多少私たちが魔物を狩ったり、採取をしたりする程度ではすぐに回復します。ですから(・・・・)、凄いのです」
「なるほど。そういうことね」
 多少の傷がついたとしても、すぐに同じような状態に回復ができる。
 森をむやみやたらに傷つけないようにすると、中で火事が起こったりする可能性もある。
 そうした状態が起こらずに、同じ状態を維持できるようにするのが、エルフたちにとっての理想の環境といえる。

 シェリルを加えての周辺調査は、まだまだこれからといえる。
 本来の目的である泉の生成方法が分かるまで続けられるかどうかは分からないが、今のシェリルの話を聞く限りでは、今後の塔の運営にも参考になりそうだった。
 これが生かせる階層作りができるかどうかは分からないが、見るべきところはまだまだありそうだと感じる考助であった。
エルフの理想の環境を作り上げたのが、アスラの塔の管理者としての手腕でした。
考助の場合は、メインは一応街づくりですからね。
モンスターの進化は両方とも同じように行っています。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ