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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6章 ガゼンランの塔再び

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(13)闘技戦前日

 闘技場ランク一位との対戦を翌日に控えた日の夕方。
 いつものように女遊びに耽っていたイーザクだったが、それを切り上げてとある場所に向かっていた。
「・・・・・・ん?」
 目的の屋敷に向かう途中ですれ違った女を見て、イーザクはなにかに引っかかったような気持になった。
 思わず振り返ってその後姿を見たが、その女は角を折れ曲がって姿を消した。
 少しの間その女のことを考えていたが、なにかの約束をしていたというわけでもない。
 それどころか、見覚えさえほとんどない女だったのだ。
「気のせいか・・・・・・」
 頭を振ってそう呟いたイーザクは、今までのことなどなかったかのように、屋敷に向かって再び歩き始めるのであった。

 イーザクが向かったのは、バトル商会のギルドマスターの屋敷だった。
 正確にはギルドマスターはドミニント帝国の国都に本家があるので、セイチュンの町にある屋敷は別宅でしかない。
 だが、そんなことはイーザクにとってはどうでもいいことである。
 その屋敷にイーザクが来たのは、とある物を受け取ためである。
 家人に名前を告げるとすぐに屋敷にある部屋に通された。
「ふん」
 部屋の中にある家具や調度品を見て、イーザクは鼻を鳴らした。
 置かれている物がそれぞれ一流品だというのは分かるが、イーザクにとってみればそんなものに金をかける理由が全くわからない。
 そんなものに金を使うくらいであれば、女に使った方がましだというのがイーザクの考えだった。
 イーザクは、そんな高級品のソファーにどっかりと腰を下ろしたて、明日の戦いのために必要な物を待った。

 イーザクが腰を落ち着けてから数分後。
 部屋のドアとノックしてから一人の男が入って来た。
「いやいや、お待たせしました」
 表面上は穏やかな笑みを浮かべて部屋に入って来たのは、セイチュンのバトル商会支部の支部長だった。
 名義上はギルドマスターの屋敷であっても、実質的にここを使っているのは支部長なのである。
「貴様が遅く来るのはいつものことだろう?」
「おや、ハハハ。これは一本取られましたな」
 イーザクの嫌味に、支部長は相変わらずの笑みを浮かべたまま軽く受け流してしまった。

 若干の不快感を覚えながらも、イーザクは用件を切り出すことにした。
 受け取る物さえ受け取ってしまえば、こんな所には用はない。
「ふん。そんな事よりも、ちゃんと用意は出来ているんだろうな?」
「ハハハ、勿論ですとも! 我が商会のモットーは、迅速丁寧に・・・・・・」
「御託は良い。さっさと出せ」
 イーザクは、支部長を睨み付けていつもの口上を述べようとした支部長を止めた。
「これは失礼をしました。では、こちらになります」
 イーザクから睨まれながらも笑顔を消さずに、支部長は懐から布に包まれた物を取り出した。
「ふん」
 鼻を鳴らしながらそれを受け取ったイーザクは、布の包みを開けて中の物を確認する。

 包みに入っていたのは、ゴルフボール大の球状のものが五つ。
 それを一つ一つ上に翳しながら何かを確認していたイーザクだったが、全てを確認し終えてから頷いた。
「・・・・・・いいだろう」
「ハハ。満足いただけたようでよかったです」
「ふん」
 もう一度鼻を鳴らしたイーザクは、懐に手を入れて小さな包みを取り出した。
 そして、その包みを横に置いてあった小さなテーブルの上に置いた。
 その包みがテーブルの上に乗ると同時に、ガシャリと金属同士がぶつかる音が聞こえて来た。
「これで足りるだろう?」
 イーザクが出したのは、支部長に支払うためのお金だった。

 金の音を聞いた支部長は、更にその笑みを深めてその包みを手に取った。
「ハイハイ。勿論、こちらで確認させていただきますよ」
 大量の金貨を数えるときは、基本的に商人が行うことになっている。
 商人がそこで不正をしたとばれると、商人たちの間からつまはじきになってしまって、取引が何も行なえなくなってしまうからだ。
 それは、ギルドに属する者でも個人で行商を行なっている者でも変わらないことだ。
 慣れた手つきで金貨を捌いて行った支部長は、満面の笑みを浮かべて頷いた。
「はい。きっちり揃っております」
「フン」
 ペコリと頭を下げた支部長に、イーザクは小さく鼻を鳴らすだけで答えた。
「この後はいかがいたしますか? よろしければ、食事の席などご用意いたしますが?」
「いらん。なぜ男なんぞと一緒に酒を飲まなければならないんだ。俺はもう行く」
「そうですか」
 席を立ち上がったイーザクに、支部長も止めることはせずに頷いた。
 それを見ていたイーザクは、最後のもう一度鼻を鳴らしてその場を去った。

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 イーザクを見送った支部長は、そのまま次の部屋へと向かった。
「お待たせ致しました」
 イーザクと会ったときと同じ言葉だというのに、聞こえてきた声の色は全然違っていた。
 明らかにイーザクのときよりも今の方が緊張感が漂っている。
「いや、いい。奴に物を渡す方が先だからな」
「恐れ入ります」
「うむ」
 丁寧に頭を避ける支部長に、その相手は鷹揚に返事を返した。
 そして、おもむろに懐に手を入れて、金が入った袋を取り出した。
「確かに」
 支部長は、それだけを言って受け取った袋を中身の確認もせずにしまい込んだ。
 先ほどのイーザクとは明らかに信用度が違っていることがわかる態度だった。

 支部長はその相手に対して、ふと疑問の表情を浮かべた。
「いつものことですが、本当によろしいのですか?」
「なに、気にするな。必要なことだからな」
「しかし、実際に品物を渡している相手でもないのに、お金を頂くというのは、どうにも慣れません」
 その支部長の言葉に相手は、笑みをこぼした。
「いかにも商人らしい言葉だな。だが、こちらとしても必要だからこそやっているのだ。お前は気にせず受け取ればいい」
「こちらも商売ですから、頂きますが・・・・・・」
「なんだ?」
 言葉を切って窺うように見て来た支部長に、その人物は問いかけるのを許した。
「いつまでも続けるわけではないのですよね?」
「ええ」
 支部長の言葉にはっきりと頷いたその相手は、さらに続けた。
「まあ、しばらくの間は夢を見ていただきましょう。あとは、彼の好きにすればいいかと」
「そうですか」
 支部長にとっては、どちらも大事な客ではあるが、どちらを取ると言われれば断然目の前にいる相手だ。
 それだけは間違ってはならないと、支部長は心の中で誓いを立てていた。

 目の前にいる相手が、どのような思惑を持っているのか、支部長は全てを知る立場にはいない。
 ただ、上からの指示に従っているだけなのだが、支部長にしてみれば、それだけで十分だった。
 もし目の前にいる相手を怒らせれば、間違いなく自分の首は上下に分かれてしまう。
 それは、仕事的にも物理的にも、である。
 もともと盾突くつもりなどないが、気持ちの問題だ。
 イーザクを取るか、目の前にいる相手を取るか、どちらかを選べと言われれば、考えることなく目の前の相手を選ぶだろう。
 支部長にとって、いま目の前にいる相手はそれほどの相手なのだ。
 目の前の相手と会話をしながら、相手の思惑がどうであれ、今は自分の仕事を全うするだけだと支部長は思いを新たにするのであった。
イーザクが何やら受け取っていました。
そして、裏では何かが動いています。

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唐突にご挨拶です。
これで、今年の更新は終わりになります。
本年中は大変お世話になりました。
また来年もよろしくお願いいたします。
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