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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6章 ガゼンランの塔再び

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(7)夜の出来事

 宿の大部屋でセイチュンの町であったことをフローリアたちから聞いた考助の感想は、「ふーん」であった。
 ミツキがいる以上、具体的に何かができるとは思っていないゆえの反応だった。
「それで? そのあとは」
「特に何もないな。こっちからわざわざ面倒事に首を突っ込む必要もないだろう?」
 フローリアの説明に、考助も同意するように頷く。
「全くだね。それに、万が一・・・・・・」
「待て」
 唐突にフローリアが考助の言葉を遮った。
「それ以上は言わなくてもいい。コウスケが口にすると、本当に余計なことが起きかねん」
「はっはっは。いや、まさか、そんな・・・・・・?」
 フローリアの言葉を笑い飛ばそうとした考助だったが、首を振っているシルヴィアを見てその口を閉じた。
「いえ。言霊というものもあります。コウスケ様の場合、気を付け過ぎるということはないでしょう」
「うぐっ!」
 できれば否定したい考助だったが、今までの行いを見る限り否定することはできない。
 一応、これでも現人神として少しずつは成長している。
 ・・・・・・はずである。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 考助たちが借りている部屋は、いわゆる大部屋で複数人が泊まれる作りになっている。
 こうした部屋は珍しくはなく、むしろどの宿にも当たり前に備え付けられている。
 というのも、冒険者たちがパーティ単位で部屋を借りることも普通にあるためだ。
 流石に七人部屋八人部屋になると、パーティメンバー以外の者との雑魚寝ということになるのだが、六人部屋だと一パーティにつき一部屋という借り方ができる。
 ただ、勿論そうした六人部屋を借りるのは、冒険者に成り立ての初心者パーティがほとんどである。
 ある程度稼げるようになれば、一人一部屋を借りるのが普通になるため、考助たちのようなランクが上のパーティがこうした大部屋を借りるのは珍しい。
 考助たちがこの六人部屋を借りているのは、宿泊費をケチったわけではなく、単にその方が便利だからだ。
 どういう意味で便利かというと、勿論防衛という観点からである。

 夜中。
 既に部屋の明かりも消えて皆が寝静まっている頃。
 複数人の男たちがドアの前にいた。
 それ自体は別に珍しいことではない。
 冒険者たちが、夜更けまで飲んで深夜遅くに帰って来ることなど日常茶飯事だからである。
 もしこの場を他の誰かが通ったとしてもさほど注意を引きつけたりはしないはずだった。
 その部屋を借りているのが、男たちとは全く関係のない考助たちだと知らなければ。

 ドアの前で鍵を開けるような仕草をしていた男だったが、やがてカチリという小さな音が響いてその口元をニヤリとゆがめた。
 同時に後ろにいたふたりの男も緊張で身を固めた。
 だが、そんな彼らの努力もむなしく、ノブを回して開くはずのドアは全く動かなかった。
 間違いなく鍵は開いている。
 だが、ドアを押しても引いてもピクリとも動かないのだ。
 どうにかドアを開けようとしていた男ではない別の男が、やがてその理由に気付いた。
 そして同時に、自分たちではそのドアを開けることは出来ないと悟った。
 そのことに気付いた男は、他の二人の男に指示を促して、すぐにその場を去ることにしたのである。

 宿から出た男たちは、つけられていないことを十分に確認してから依頼主の下へ行った。
「・・・・・・何がありましたか?」
 本来であれば人を抱えてきているはずの男たちが、手ぶらで帰って来たのを見て、依頼主は眉を顰める。
 そんな相手に、男たちのひとりが肩を竦めながら言った。
「ありゃあ駄目だ。少なくとも俺たちの手に負えん」
「敗北宣言ですか? あれだけ自信満々で引き受けたというのに?」
「好きに言えばいい。だが、あんたの情報不足も指摘させてもらおうか」
 その言い草に、依頼主は不快そうな表情になった。
「どういうことでしょうか?」
「どうもこうもねえ。何が『相手はごく普通の冒険者だ』だ。宮廷魔術師クラスの奴がいるなんて、こっちの命がいくらあっても足りねえ」
 その言葉には、仲間の男二人も驚いていた。
 指示に従って帰って来たのはいいが、理由までは聞いていなかったのだ。
 そして、その言葉の意味を理解して、依頼主を睨み付けた。
 それが事実であれば、仲間の男の言う通りいくら命があっても足りないというのは、本当の事だからだ。

 だが、男の言葉を聞いた依頼主は首を傾げて、不思議そうな顔になるだけだった。
「何を言っているのですか? あの者たちは、ただの冒険者ですよ? それが、宮廷魔術師?」
 ふざけたことを言うなと言わんばかりの依頼主に、男は肩を竦めた。
「そうか。あんたも知らないんだな。・・・・・・折角知り合ったよしみだから教えておくが、あいつらには下手に手を出さんほうが良い。それこそ宮廷魔術師クラスを用意できるのなら別だが」
 そう言われても表情を変えなかった依頼主に、男はこれ以上は無意味と悟った。
「まあ、いいさ。とにかく、俺たちはこれ以上はあいつらには手を出さん。あんたらがこの先どうするかは、好きにすればいいさ」
 それだけを言って、男は懐に手を入れて中から小さな包みを取り出して、ぽいと投げた。
 依頼主は、反射的にそれを受け取ったが、手に収まると同時にガシャリという音がした。
 中に金が入っていることは、その音と感触ですぐに分かった。
「違約金だ。これで俺たちはもう何の関係もない。その金で他の奴らを探すなり好きにするがいいさ。とにかく、俺たちはこれで降りる」
 それだけ言って男はくるりと依頼主に背を向けた。
 それと同時に、成り行きを見守っていた仲間の二人もその男に付いて行った。

 半ば呆然と男たちの行動を見守っていた依頼主は、手にある袋を見つめながら呟いた。
「まさか、そんな馬鹿な・・・・・・」
 その言葉を聞く者が、他に誰もいなかったのが依頼主にとって幸運だったのか不運だったのか、それはまだ誰にも分からないのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 翌朝。
 考助たちは、扉の外で強盗まがいのことが行われていたなんてことは分からずに、すっきりとした目覚めを迎えた。
 コウヒやミツキであれば、気付こうと思えば気付けただろうが、考助作の魔道具を完全に信頼してきっちりと寝入っていたのだ。
 そして、これが考助たちがわざわざ大部屋を借りている理由の一つだった。
 今更一つの部屋で寝泊まりすることには何のためらいもないうえに、魔道具は一つしか用意しなくて済むのだ。
 それならわざわざ二部屋借りるなんていう面倒はかける必要はないのである。

「・・・・・・おはよう。今日の朝食は何かな?」
「フフフ。駄目ですよ、コウスケさん。ちゃんと目を覚ましてから食べてください」
 並べている朝食を考助が少しだけ摘まもうとしたのをシルヴィアが笑いながら止めた。
「ふあい。・・・・・・顔洗って来る」
「はい。そうしてください」
 まだぼーっとしたまま、水桶が置かれている部屋の片隅に向かった考助に、シルヴィアは笑顔のまま頷いた。
 他のベッドでは、まだシュレインとワンリが寝ている。
 何事もなかったかのように、いつも通りの朝を迎える考助達なのであった。
すっかり寝入っていた考助たちでしたw
ちなみに、最初の魔道具を破られても内側にはさらにもう一つ魔道具が仕掛けられています。
一つ目の魔道具を破られた時点でコウヒやミツキは必ず気付くので、その時点で詰みになります。
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