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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第5章 塔のあれこれ(その13)

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(12)兵陸棋

「暇~」
 珍しいことに、くつろぎスペースにあるテーブルに顎を乗せながら、ピーチがそう呟いていた。
 それを聞きとがめたシルヴィアが、苦笑しながら視線を向けた。
「気持ちはわかりますが、激しい運動は駄目ですわよ?」
「分かっています~」
 口調と見た目からは想像が出来ないが、幼少の頃より影として訓練を受けてきたピーチは、基本的に訓練と称して激しい運動をしたりしている。
 それが、妊娠が発覚してからは、周囲からその訓練を止められている。
 ピーチがいう「暇」というのには、時間的なこともあるが、それ以上に体を動かせないというものも含んでいるのである。
 ピーチ程に体を動かすことをしていないシルヴィアでも、妊娠中の行動制限はかなり精神的にきつかった。
 他のメンバーに比べて近接戦闘はしないシルヴィアでも、そんな状態だったのだ。
 ピーチからすれば、かなりきついものがあるだろう。

 それが分かっていてもシルヴィアにもどうすることも出来ない。
 勿論、妊娠しているからといって、全く体が動かせないわけではない。
 ごく普通の生活を送る分には、むしろ動いた方が良い。
 この世界で出てくるモンスターを倒すための訓練が出来ない、というだけのことだ。
 もっとも、それを日常にしている者にとっては、急に制限されると苦痛のように感じるのである。
「そうですわね。そういうときの私は、生まれてくる子供のことを考えて、気を紛らわせていました」
「・・・・・・それは、フローリアにも既に言われました~」
 実は先ほどもピーチは同じようなことをして、フローリアからシルヴィアと同じようなことを言われた。
 ただ、その方法だとあくまでも対症療法的な効果しかなく、数時間たつと元の木阿弥に戻ってしまったのである。

 相変わらずテーブルに顎を乗せたままのピーチに、シルヴィアは悩ましい表情になった。
 似たような経験はしてきているので、出来る限り協力はしたい。
「いっそのこと、気を紛らわせるような作業が出来ればいいのですが・・・・・・」
「気を紛らわす作業ですか~?」
 ピーチが興味を持ったように、頭を上げた。
「ええ、そうですわ。私なんかは、手編みとかレース編みなんかをやっていましたよ?」
「なるほど~」
 シルヴィアの言葉に、ピーチがフムフムと頷いた。
 その様子を見て、シルヴィアが小さく笑った。
「何か思い当たるものでも?」
「ここに来る前はよくやっていた遊びがあったのを思い出しました~」
「あら。それは楽しみですわね」
 ピーチが何をするつもりなのか、シルヴィアも興味を持ったのか、ニコリとほほ笑んだ。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

「ほう。兵陸棋ではないか。どうしたんだ、突然?」
 フローリアが、くつろぎスペースに入るなり、いきなりそんなことを言い出した。
「兵陸棋? なにそれ? ・・・・・・ああ、これか」
 ピーチとシルヴィアが対面して座りながら間に挟むように置いてある物を見て、考助が頷いた。
「なんだ。知っていたのか?」
「前に冒険者が酒場でやってるのを見たことがあるからね。でも詳しくは知らないな」
 以前に見たとは、やっぱり世界が違っても似たようなゲームがあるんだ、と思っただけで素通りをしてしまっていた。
 そのあとに、コウヒやミツキに聞くこともしなかったので、ルールどころか名前すら知らなかった。

 ゲームをしている二人の邪魔をしないように、考助がフローリアから軽くルールを聞いた感想は、
「なんだ。それこそ将棋みたいなものか」
 というものだった。
 というのも、兵陸棋には、相手から奪った駒をそのまま自分の駒として使えるルールがあったのだ。
 あと大きな違いとしては、魔法の概念があるところだろう。
「なんだ。知っているのか?」
「いや。全く同じようなものは知らないよ。ただ、似たようなゲームは知っている」
「そうか」

 考助とフローリアが話をしているうちに、決着がついた。
「負けましたか。強いですわね」
「ありがとうございます~」
 負けたシルヴィアがピーチをほめると、フローリアが興味を示したようにピーチを見た。
「ほう? シルヴィアに勝てるほどの強さか。どれ。私も相手をしてもらおうかな?」
「勿論です~」
 実は、シルヴィアとフローリアの二人は、身重のときに稀に兵陸棋を打っていた。
 だから、フローリアにはシルヴィアの力がよくわかっている。
 フローリアからすれば、決してシルヴィアは弱くはない。
 そのシルヴィアに勝てるピーチに、フローリアが興味を持った。

 今度はシルヴィアとフローリアが交代して戦うことになった。
 そして、なん手か進めるうちに、フローリアが腕を組んで唸りだした。
「うーむ・・・・・・」
 首をひねっている所からも、戦況が芳しくないことはわかる。
 多少将棋は分かっている考助だが、魔法という概念が加わっているだけでまるでルールが変わってくる。
 そのため、盤面を見てもコウスケにはさっぱり戦況は分からない。
 考助がチロリと視線をシルヴィアに向けると、シルヴィアはコクリと頷いた。

 そのシルヴィアの予想通り、戦況が十数手先に進むとペコリとフローリアが頭を下げた。
「負けました。いや、予想以上に強いな」
「ありがとうございます~。私の場合、子供頃の遊びはこれくらいしかなかったですからね」
 魅了の力のおかげで同世代の子供と遊べなかったピーチは、訓練以外の時間は大人を相手に兵陸棋をして遊んでいたのだ。
 そのため里の中では強い相手と打つことになり、結果として強くなっていった。
 ちなみに、大人たちは魅了に対してある程度の抵抗力を持っているので、子供の頃のピーチであれば影響を受けることは無かったのである。

 再びフローリアとシルヴィアが交代した。
 負けた方が余っているものと交代することになったのだ。
 フローリアもシルヴィアも、ピーチの気分転換になるのであればと付き合うことにしたようだった。
 順番待ちをしているフローリアに、考助もピーチとシルヴィアの戦いを見ながら聞いた。
「そういえば、こういうゲームの大会とかってないの?」
「大会? どういうことだ?」
 意味が分からず首を傾げるフローリアに、考助が更に説明を加えた。
「例えば、国が主催して優勝者には賞金を出すとか、貴族とか金持ちが強い人を雇って代表して戦わせるのを一般大衆に見せるとか」
「ふむ・・・・・・いや、そういうのは無いな」
 考助にそう答えたフローリアは、考え込むようにぶつぶつと呟きだした。
 一応視線は盤面に向いているが、思考は別の方に向いているのは丸わかりである。

「おーい。フローリア、おーい」
 考助が目の前で右手をパタパタさせて、フローリアはようやくハッと顔を上げた。
「なんだ? 折角面白いことを聞いたのに」
「いや、一応言っておくけれど、前のはともかく、後ろのはちゃんと監視しないと、ひどい使い捨てとか出るからね?」
「それはそうだろう?」
 何を当然のことを、と言わんばかりのフローリアに、考助は苦笑した。
 闘技場が盛んな街では、貴族が冒険者を雇って戦わせることも珍しくない。
 そして、勝てない者は簡単に切り捨てられるのが、ごく当たり前のことなのだ。
 問題なのは、そのことではなくその時の雇われた者の扱いだ。
「いや、単に首を切られるとかならまだしも、名誉を傷つけられたとかいって、無茶なことを言い出す輩も出そうだからね」
「! ああ! ・・・・・・それはありそうだな。なるほど。よくよく考えよう」
 フローリアの中では、既に何らかの大会が開かれるのは決定のようだった。
 考助としてはちょっとした疑問で聞いたのだが、開くだけの価値があるとフローリアは判断したようだった。
 確かに娯楽が少ないこの世界では、そうした大会を開いて注目を集めるのも良いことなのだろう。
 フローリアが考えていることが、どう実現されることになるのか、楽しみになる考助なのであった。
頑張って考えた名前が「兵陸棋」でしたw
ちなみに「船海棋(?)」というのもあります。
単純に、船バージョンですw
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