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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第5章 塔のあれこれ(その13)

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(9)教え(リクの冒険の時間3)

 妙な緊張感を持って進むパーティを見ながら、シュレインはため息を吐いた。
「はあ。お主ら、本気で大丈夫かの?」
 リクのパーティメンバーはびくりとして、シュレインを見た。
「あのな。さっきも言ったじゃろう? おしゃべりするのは構わんと。今までのお主らもそうしていたのじゃろう? 先ほどの問題は、適度な緊張感を完全に忘れてしまっていたことじゃ」
 今のパーティは、緊張感を持ちすぎていて体が硬くなりすぎている。
 そうすると、今度は逆の意味でモンスターが現れた時に、咄嗟の動きが出来なくなる。
 唯一の救いは、リーダーであるリクがいつも通りと言うことだろう。
 これならば指示が遅れることはない。
 そんなリクに、シュレインが呆れ半分、不安半分の視線を投げかけた。
「あ~。まあ、不安になる気持ちはわかるけれど、もう少し大目に見てやってくれないか、シュレイン母さん。こいつら、ここまで他人に怒られることってないから、がらでもなく緊張しているんだよ」
 苦笑しながらそう言ったリクに、シュレインは今度こそ呆れの色を濃くしてため息を吐いた。
「ということは、なにか? 若手トップと周りからいわれて、自分たちの何が駄目かも認識していなかったと?」
「まあ、端的に言うとそういうことかな?」
 率直すぎるシュレインの言葉に、リクは明後日の方を見ながら答えた。

 リクたちのパーティは、実力のある若手が集められて作られている。
 メンバーは意図的に集められたのだが、実力が拮抗していたのが良かったのか、特にお互いに反発することもなくきちんと連携も取れるようになっていった。
 お互いがお互いを高め合うことにもなったので、めきめきと実力を伸ばして行った。
 その結果、期待通りに若手トップの働きをすることができるようになっていた。
 だが、それが逆に良くなかったのである。
 というのも、自分たちだけで全てをこなしていたため、自分たちよりも上の実力のあるパーティと組んでの仕事をしたことが無かったのである。
 ついでにいえば、学生もいることから長期間の輸送の依頼を受けたこともない。
 以前、ランクを上げるときに、ガゼランたちの戦いぶりを見たことはあるが、余りに実力が突き抜けすぎていてすごいという感想しか持てなかった。
 本来であれば、先輩たちにどやされながら現地で色々なことを覚えていくのだが、そうしたことがすっぽりと抜けているのである。
 早い話がリクのパーティメンバーは、怒られ慣れしていないのだ。
 リクは、管理層に行けば、考助を始めとして女性陣にも色々と言われまくっているので慣れている。
 だが、パーティメンバーたちは、本格的に注意されるというのが、何気に初めてだったりするのだった。

 そうした事情をリクの顔から察したシュレインは、再びため息を吐いた。
「・・・・・・久しぶりの冒険を楽しみにしておったのじゃが、なにやら上手く利用されてしまったようじゃの」
「ははは。いや、そんなことはないって。まさか、初っ端からあんなことになるとは思っていなかったし」
 仲間たちがココロの様子に気を取られていたのも、それについて話込み過ぎていたのも、リクにとっては予想外だったのだ。
 そのお陰で、シュレインの前でパーティの弱点(?)が露呈されたのだから、最初からシュレインを利用しようと思っていたわけではない。
「まあ、いいがの。・・・・・・ココロ、お主は気にせず今まで通り行動していいからの」
「えっ!? あ、はい!」
 自分のせいでパーティが乱されていたことがわかっていたココロは、少し自重しようかと考えていたのだが、それをシュレインはあっさりと見破った。
 その上で、先ほどまでと同じく行動するように言われたのだから、ココロとしても反論のしようが無かった。
 ついでに、シュレインとしては別の思惑もある。
「言っておくが、ココロの修業も兼ねておるんじゃからの? シルヴィアによろしく頼むと言われておるし」
「そ、そうでした!」
 すっかりそのことを忘れていたココロは、ようやくそのことを思い出した。
「敢えて意地悪くいうが、こんな空気の中でいつも通りの力が発揮できるのか、ちゃんとシルヴィアには伝えるからの」
「は、はい!」
「・・・・・・それはいいんじゃが、なんというか、ただの意地悪婆になったような気分だの」
 そうぼやくように言ったシュレインに、リクの言わなくてもいい一言がさく裂した。
「ような、じゃなく、十分・・・・・・あ、いてっ!!」
 拳という肉体言語で言葉を止めらせられたリクを見て、ようやく一同の間に笑顔が生まれるのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 シュレインとリクのやり取りで、いつも通りの雰囲気を取り戻した一行は、本来の目的である討伐依頼のモンスターを探し始めた。
 勿論、その途中ではココロの特殊能力が発揮されている。
 そのほとんどがココロが使える薬草の類だったりするのは、持っている知識のせいだろう。
 例え見つけたものがレアアイテムだったとして、分からないものはスルーしてしまうためだ。
「おっ! 見つけたぞ!」
 そんな中で、アンセルが目標のモンスターを見つけた。
 実はその前からシュレインは気が付いていたが、敢えて何も言っていなかった。
 ここで自分が言うのは簡単だが、それだと彼らの為にならないというのが分かっていたからだ。
「よし! それじゃあ、いつも通り行くぞ!」
「「「「「おう(ハイ)!」」」」」
 リクの呼びかけに、一同が気合を入れた。
 それを見たリクは、シュレインを見て言った。
「あ、シュレイン母さんは、見学しててくださいね」
「分かっておるわ。ココロの護衛もあるしの」
 もとからそのつもりだったシュレインは、不安そうな表情になっているココロの傍で頷いた。
 ココロも初めてのモンスター討伐というわけではないが、常にモンスターとの戦闘を繰り返している冒険者からすれば心もとない経験なのだ。

 そうして始まったパーティの戦闘だったが、それを見ていたシュレインがポツリと呟いた。
「・・・・・・いかんのう。ついつい口出しをしたくなってくる」
「あの・・・・・・戦闘中は」
「分かっておる。吾とて、新兵を鍛えることもあるからの」
 シュレインは、こうして冒険者を鍛えたことこそないが、ヴァンパイアの仲間を鍛えるために、戦闘中に指示を出したことは何度もある。
 不用意に指示を出せば大事故が起こりかねないことも、ちゃんとわかっている。
「それに、戦闘に関しては、特に不足はないようだしの」
 シュレインの目から見ても彼らの動きは、少なくともこの階層で戦う分には問題ない。
 時折連携に穴が出来たりはしているが、その後にきちんとカバーも出来ている。
 問題は、それを彼らがきちんと認識できているかどうかだが、今言うべきことではないといことも分かっていた。
「それよりも、ココロはもう少し戦闘に慣れないと駄目だの」
「えっ! あ、うっ・・・・・・」
 自分に矛先が向いてくるとは思っていなかったのか、ココロが驚き、すぐに暗い表情になった。
 戦闘に不慣れで体が硬くなっていることは、ココロもよくわかっている。
「こうした戦闘の場合、其方のような神官や巫女はけがをした仲間を助けるのが仕事じゃ。それが動けなくなるとどうなるか、実戦に出てみるとよくわかるじゃろう?」
「・・・・・・はい」
「まあ、あれじゃの。恐らくシルヴィアも、ココロがこうなるだろうと分かっていたのだろうさ」
 その言葉を聞いたココロは、俯いていた視線をパッと上げてシュレインを見た。
「何を驚いておる? 吾でも気づいていたくらいだぞ? 母親のシルヴィアが気づいていないはずがなかろう?」
「そう、ですか」
「ハハ。何も落ち込む必要はない。何事にも初めてはある。これからちゃんと慣れて行けばいいだけの話じゃ」
 そう言ってポンと自身の頭の上に手を置いたシュレインを、ココロは少しだけ頬を赤くして頷くのであった。
何の失敗もなく成長して来たリクのパーティと、母親の教えの下のびのびと成長して来たココロの話でした。
それぞれに挫折(?)とまは行かないまでも、問題点を見つけてこれからさらに成長していくはずです。
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