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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4章 サキュバス

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閑話 振り回された王

 一連の騒ぎが終わり落ち着きを取り戻していたスミット王国の王都で、とある騒ぎが起きていた。
 ある建物に王国軍の強制捜査が入ったのだ。
「王より強制捜査の命が下った。大人しくしない場合は、王への反逆罪とみなす!」
 王を頂点とする国家では、王への反逆罪は一番の重い罪となる。
 それを盾に出されてしまっては、何もできなくなる。下手に動けば、即頭と胴が別れ別れになっても文句は言えない。
 出来ることがあるとすれば、大声で文句を言うだけだ。
「畜生! 突然何なんだ!」
 もっとも、そんなことを喚いても、王命で動いている騎士たちにとっては、何の痛痒も感じない。
 むしろ早くやるべきことを終わらせないと上司にどやされてしまう。
 騎士たちはこの騒ぎを終わらせるべく、速やかに行動するのであった。

 建物の中心部に向かった騎士のひとりは、そこで目的の人物を見つけた。
「お前がリーダーか。私と一緒に来てもらおうか」
「なんだ、一体何の権利があって・・・・・・!?」
 目を剥くリーダーに、騎士は呆れたような視線を向けた。
「何を言っている。叩けば出てくる埃はたくさんあるんじゃないか?」
「・・・・・・」
 思い当たりがありすぎる騎士の言葉に、リーダーは沈黙した。
 今まで闇ギルドの一つとして生きながらえてこれたのは、それなりに強いパイプがあったからだ。
 だが、騎士たちが入って来た時点で、王命で動いていることは宣言している。
 そのパイプも全く役に立たないどころか、足切りさえ行われている可能性もある。
「・・・・・・一体、どこで間違ったんだ?」
 がっくりと膝をついたリーダーがそう呟いたが、その問いの答えを持っている者は、この場にはいなかった。

 その日、王命により一つの闇ギルドが消滅することとなった。
 ただ、そんなことは王都に住む一般市民にとってはよくあることであり、日常の一幕としてすぐに忘れ去られることとなった。
 この強制捜査が、スミット王国にとってかなり重要な一件だったことを知るのは、ごく一部の者だけに限られていたのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 軍部の人間から報告を受けたアッサール国王は、小さく頷いて労いの言葉を掛けた。
「そうか。ご苦労だった。後の処置は任せる」
「はっ!」
 王からの言葉に短く返答したその騎士は、すぐにその部屋から出て行った。
 アッサール王が今いるのは私室で、公務の合間を縫って休みを取っていたところだった。
 そんな中騎士が報告しに来たのは、王自身がそうするように伝えていたためだ。
 王都にある闇ギルドの一つに騎士団が捜査に入ったくらいで、逐一王にまで結果報告が行くことなどほとんどない。
 捜査の際には、王命であることを建前にすることは多いのだが、それは闇ギルドの多くが大商人なり貴族なりと大なり小なり繋がっていることがあるためだ。
 だが、今回に限っては、本当に王の勅命で捜査が行われていた。
 そのために、わざわざ騎士が結果を報告しに来た、というわけである。

 騎士が出て行ったあと、部屋で一人になった王は安堵のため息を吐いた。
 その場には誰も見ていないからこそ、そのため息は感情そのままに出したものだった。
 そんな王の耳に、扉の前で警護をしている騎士の声が聞こえてきた。
「王。クリストフ王子がいらっしゃいました」
「通せ」
 王太子が何をしに来たのかは、王も予想が付いている。
 もともと王家の人間としては仲がいい親子の為、警戒する必要はないのだが、それでもわざわざ騎士を一度間に挟むのは、国の頂点に立つ者として義務に近い儀式のようなものだ。
 その騎士に扉を開けられて、クリストフが部屋に入って来た。
「どうやら上手く捕らえられたようですね」
 自分と同じように安堵の感情が見えるその息子の顔に、アッサール国王は小さく頷いた。
「ああ、そうだな」
「? 何かあったのですか?」
 間違いなくアッサール王の表情には安堵が見えているのだが、それ以外にも何か苦い物が混じっているのを感じたクリストフは首を傾げた。

 その言葉に、今度こそはっきりとアッサール国王は、苦虫を噛み潰したような顔になった。
「・・・・・・まだ調査の最中だがな。どうやら例の一件は、完全に彼奴の暴走だったようだ」
 その王の言葉に、今度はクリストフがキョトンとした表情になった。
 その顔には、どう見ても「え、まさか」と文字が書いているように見えた。
「・・・・・・それは、何というか・・・・・・。運が悪かったというべきか、間が悪かったというべきか・・・・・・とにかく、ツキが無かったんですね」
「・・・・・・悪人に同情してどうする」
 かろうじてそうクリストフに返したアッサール国王の顔も完全に王子と同じような表情を浮かべていた。

 そもそも今回の強制捜査は、闇ギルドのクラウンへの扇動に関することが発端となっている。
 王も王太子も考助から直接その話を聞くことは無かったが、しっかりと影の長から事の顛末は聞いていた。
 そんな話は寝耳に水だった王は、すぐさま詳細の調査を軍に命じたのである。
 それにより強制捜査が行われたわけだが、王としては予想外の結果となった。
 当初は、というよりも間違いなく商人なり貴族なりの後押しがあってあの騒動を起こしたと思っていたのだが、そうした繋がりが一切認められなかったのだ。
 勿論、リーダーからの直接の聴取はこれからなので、あるいは何か出てくる可能性はある。
 だが、少なくとも件のリーダーと繋がりのあった商人や貴族に聴取したところ、その彼らにしても寝耳に水といった状態だったのである。
 闇ギルドのリーダーは、自らの考えでクラウンに対する騒動を起こしたというわけだ。
 その報告を聞いたアッサール国王は、そのリーダーに対して思いつく限りの罵詈雑言を並び立てることとなった。

 呆れ混じりの王からその話を聞いたクリストフ王子は、ため息をはきながら言った。
「何というか・・・・・・。あの方は、歩けばトラブルに巻き込まれる体質なのでしょうか」
 クリストフ王子が言う「あの方」というのは、勿論考助のことだ。
「それ以上は言うな。それに、そもそも今回に限っては、元はこちらが原因だろう」
 そもそも考助が今回スミット王国に来ることになったのは、一連の闇ギルドの騒動があったからだ。
 あの騒動があったからこそ、隙をついてクラウンに対して余計な騒ぎが起こったといえるが、それはあくまでも間接的な理由だ。
 そんな騒ぎに巻き込まれた考助に対して、王も王子も思うところが出るのは致し方ないことだろう。
 ついでにいえば、考助が関わったという事で王が直接動くことになり、本当の意味での王命で連行されることになったリーダーに関しては、運が悪かったとしか言いようがない。
 そもそも考助が関わっていなければ、王も王子も動くことは無かった。
 元が元だけにそのリーダーに同情をするつもりは一切ない二人だったが、そろって恨み言を思い浮かべたのは仕方のないことだった。
 よりにもよってどうしてこんな時に仕掛けた、と。
 勿論、王や王子が小さな闇ギルドのリーダーと直接の対面を果たすことなどあり得ないので、そんな機会は一度も来ることはなかった。

 結局このあともリーダーに対しての聴取が何日も行われたが、王が王子に言った通りにリーダーがクラウンに起こした騒動は、完全に彼の単独で思いついた行動だった。
 そもそもの発端が王命だったために例外的に長期間の聴取が行われたが、それ以上は何も出てこないと判断されて、リーダーはスミット王国の刑罰によってしっかりと裁かれることになるのであった。
クラウン支部騒動の顛末でした。
結局アッサール国王が振り回されて終わりとなりましたw
(こんな内容だったので、わざわざ本編では書かずにおいたのですが、あれで終わってはもやもやとしてしまうと考えて、閑話という形で終結させることにしました)
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