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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4章 サキュバス

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(14)発動!

 支部に戻ったハイノは、すぐに職員の一人に出迎えられた。
 待っていたのは、ハイノが片腕だと考えている側近のひとりだった。
 転移門を通るときは、常に相手側とやり取りとしているので、ハイノが帰ってくることは既に連絡がいっていたのだろう。
 ハイノは、顔を見るなり話を始めようとした側近を止めて、自ら先に話はじめた。
「ある程度の話は聞いている。今はどうなっている?」
 ハイノの言葉に目を丸くした側近は、すぐに気を取り直した。
 既にハイノが状況を掴んでいるとは思っていなかったのだ。
「人数も多くなっていて、未だに収まる気配を見せません。どうやら扇動もあるようです」
「・・・・・・そうか」
 考助たちが懸念していたことは、既に支部側でもつかんでいた。
 最初は気づいていなかったのだが、どう見ても明らかに誘導しているような雰囲気が感じられたため、探りを入れたら案の定の結果が出たのである。
「戦闘行為は?」
「かろうじて、まだ起こっていませんが、いつ起こってもおかしくはありません」
 その報告を聞いたハイノは、すぐに決断をした。

 本来であればクラウンや冒険者ギルドは、冒険者同士の争いには不干渉が原則となっている。
 だが、さすがにこの状況になってしまえばそんなことも言っていられない。
 そもそも考助が確認していたときでも、普通であれば王国の騎士が介入してくるようなレベルなのだ。
 それが今になっても騎士団が介入してこないのは、支部があるのが城壁の外側だということと、実害がまだ出ていないためである。
 さらにいえば、騎士団が介入してくるような事態になれば、下手をすれば支部の運営に口を出してくる可能性もある。
 今回起こっている冒険者同士の争いが、扇動されているとはいえ、転移門の扱いに関してなのだ。
 幾らクラウンが不介入を貫いていても、街で騒ぎが起こるのは困るということを口実に介入してくることは、普通にあり得るだろう。
 クラウンとしては、騎士団の介入は何としても避けたい事態なのである。

 側近から話を聞いたハイノは、現場には向かわずに自分の執務室へと向かった。
 用があるのは、さらにその先にある支部長しか入ることの出来ない個室だ。
「あ、あの、支部長どちらへ?」
 執務室に向かっているのを察した側近がそう聞いてきた。
「執務室だ。そこでやることがある。お前は、クラウンの冒険者たちに争いをやめて建物の中に入るように伝えておけ」
「は? はっ!」
 既にお互いの状態はかなり緊迫したものになっている。
 一方が建物の中に入っただけで収まるわけがないと側近は思ったのだが、ハイノに何か手があるのだろうと素直に指示に従った。
 それを確認したハイノは、歩みを速めて執務室からさらに奥の部屋に入り、目的のものを起動した。
 城壁の外にある支部が、いざという時のために用意されている機能だ。
 本来はモンスターの襲撃などがあった時のために使われるのだが、こうした暴動などでも利用すること自体は可能である。
 その権限は支部長に一任されているのだ。
 とはいえ、ハイノが支部長に就任してからこれを使うのは初めてのことだった。

 ハイノは窓のない部屋で起動したため見ることができなかったが、それを起動した瞬間支部の建物全体が青っぽい膜に覆われた。
 初めて見ることになったその光景に、職員の声を無視して騒ぎを起こしていた者たちもそれに注目することになった。
 ハイノが起動したのは、どの支部にも用意されている部外者が立ち入れないようにするための魔道具だ。
 基本的には、クラウンカードを持っていない者が建物の中に立ち入れないようになる。
 その膜に建物全体が覆われるのとほぼ同時に、拡声器の魔道具を使った声が辺りに響いた。

『私は、クラウンスミット支部長のハイノだ。そちらで騒ぎを起こしている者たちに告ぐ。転移門の扱いに関しては以前から申し上げている通りだ。いかに騒ぎを起こそうが、内容を変える余地は全くない。
 利用料に不満があればクラウンのメンバーになればいいだけのことだ。それを踏まえた上で、これ以上の騒ぎを起こすのであれば、クラウンへの集団攻撃の意思ありとして、騎士団への通報も考える。
 それから、騒ぎに参加しているクラウンメンバーは、至急建物の中に入るように。もしこれ以降騒ぎを続ける者がいれば、支部長権限で強制退会の措置を取る可能性もあるとだけ申し伝えておく』

 その宣言が辺りに響いたのち、クラウンに所属する冒険者たちはお互いに顔を見合わせて、すぐに支部の建物に向かった。
 流石に強制退会の言葉が効いたのか、それに逆らおうとする者はいなかった。
 今まで反発していた冒険者たちが攻撃してこないように牽制しながら、恐る恐る青い膜を通っていく。
 クラウンに所属する冒険者たちが通るときは、何も起きなかった。
 ただし、クラウンに所属していない者、もっといえば、クラウンカードを持っていない者がその膜を通ろうとしたときにそれは起こった。
「痛っ!?」
 パチリという音がして、同時に静電気が貯まって金属に触れた時のような現象が起きたのだ。
「畜生! 何なんだよ、これは!」
 膜の外側でそうわめくのを見て、クラウンに所属する冒険者たちも目を丸くしていた。
 その中にはセントラル大陸から来ていた冒険者もいたが、彼らにしてもこのような物を見るのは初めてだったのだ。
 そんな彼らの思いを見越してか、更にハイノの言葉が続けられた。

『たった今、この建物を守る魔道具を動かした。これ以降しばらくの間、この建物に入れるのはクラウンメンバーだけになる。ああ、クラウンに新規に所属希望する者は、外側で待つように。
 先ほども言った通り、無理に通ろうとする者は、クラウンへの攻撃意思ありとみなすことを忘れないように願う』

 それを最後にハイノの言葉は聞こえなくなった。
 膜の内側に入っていたクラウン所属の冒険者たちも、相手が何もできなくなったと理解できたのか、次々と建物の中に入っていく。
 先ほどまで高ぶっていた気持ちも、クラウンの予想外の対応に沈まっていた。
 加えて、無理に騒ぎを起こせば折角のクラウンの権利を手放すことになり兼ねない。
 わざわざ自分からそんな真似をするような輩は、幸いにして(?)一人もいなかった。
 そして、梯子を外された形になったクラウンに属していない冒険者たちは、しばらくの間怒りの矛先を青い膜に向けていたが、やがてそれも静まっていった。
 無理やりに通ろうとする者もいたのだが、結局は何もできなかったのだ。
 付け加えると、魔法などを使って攻撃しようとする者はいなかった。
 それをしてしまうと、先ほどハイノが言った通り、騎士団のお世話になってしまうからだ。
 クラウンのメンバーがいて同じように騒ぎを起こしていたのであれば、ハイノが懸念した通り騎士団が介入してきて、利用料に関してもいくらか変化が起こる可能性もある。
 ただし、今の状況だと単に器物損壊などで一方的に捕われてしまうだけになってしまうのだ。
 騒いでいた冒険者にそこまで頭を働かせていたのがどれほどいたのかは微妙だが、流石に建物を攻撃するとまずいという事は理解できたようである。
 結局、最終的には自然消滅する形で、集まっていた冒険者たちも散って行くことになった。

 散り散りに去っていく冒険者の中に、先ほどまで騒ぎを扇動していた者も混ざっていた。
 途中まではうまくいっていたと思っていたのだが、全く考えていなかった方法で梯子を外されてしまった。
 これ以上は残って騒いでも無意味だと考えて、他の冒険者と同じように戻ることにしたのだ。
 クラウン側が自分たちが陽動していたと察していると考えた上で、尾行には気を付けて自分たちの拠点へと戻った。
 ただし、残念ながらその尾行は完全に撒いたとはいえなかった。
 まさか彼らもただの犬に見えるその存在が、自分たちを尾行していたとは全く気付かなかったのであった。
ハイノが起動した魔道具は、以前にセイチュンの支部で使っていたものを改良したものです。
色が付いて見えたのはわざとです。
示威行為も兼ねてますからw

最後の犬は一体何なのでしょうか!(棒
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