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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4章 サキュバス

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(8)制圧

 集団が謎の襲撃を受ける一時間ほど前。
 計画を指揮していたピーチは、報告を受けて頷いた。
「そうですか~。上手くいったのですね」
「はい。『釣り師』は既に街を出ています。きちんと尾行も付いていました」
 男の元に手紙を届けた女性は、ピーチたちの仲間の者だった。
 なぜ簡単に男が引っかかったかといえば、元になっている手紙からやり取りまで、全てスミット王国の影たちの尽力によるものだ。
 ずっとやり込められているように見せかけて、いざというときの為の情報収集は欠かしていなかったのである。
 何よりも、反撃の時を伺って、各地に散っていた能力の高い者たちが集まっていたのも大きい。
 結果として、特に疑われることもなく、もぐりこむことが出来ていた。
「あちらの準備はどうなってますか~?」
 ピーチはそう言って、報告をした者とは別の人物を見た。
 その人物は、別の場所で計画を進めている王国の影の仲間である。
「問題なく進めております」
「そう。じゃあ、こっちも予定通り進めますね~」
「はい。問題ありません。・・・・・・しかし、本当に大丈夫なのですか?」
 その問いかけに、ピーチは首を傾げた。
「そちらから頂いた報告書に誤りが無ければ、問題はないと思いますよ~? 何かミスでもありましたか?」
「いえ。そういうわけではありませんが」
「ですよね~。あれだけ綿密に調べていたからこそ、簡単に入り込むことが出来たんでしょうし」
 王都の影たちが行っていた情報収集は、ピーチから見ても素晴らしいの一言だった。
 だからこそ、今回の計画が立てられたのだ。
 当然、これからも十分に役立ってもらうつもりでいる。

 一方で、王国側として補佐しているアイリス(偽名)は、表情を変えずピーチの言葉を聞いている。
 疑問を口にしたのは、上から言われていたのと、自分の中でも疑問に思っていたからだ。
 今回の計画では、王都の二か所にごろつきたちが集まることになっている。
 その二か所に人員を配置して、両方とも制圧をしなければならない。
 上手くいかせるためには、それなりの人数が必要になるはずなのだが、ピーチはスミット王国側には支援を要求してこなかった。
 要するに、全てラゼクアマミヤ側の手の者で片づけると言っているのだが、本当に大丈夫なのか陰の上層部も半信半疑になっているのだろう。
 だからこそ、もう一つの計画は、半日ずらして行われることになっていた。
 王都側の計画が失敗した時には、そちらの計画は止めることになっているのだ。
 そんなことを考えていたアイリスを見て、ピーチがニコリと笑った。
「ん~、心配ですか?」
 内心を見透かしたようなピーチのその表情に、アイリスは咄嗟に反応できなかった。
 それを見抜いてなのか、単に偶然なのか、ピーチはアイリスの返事を待たずに言葉を続けた。
「まあ、大丈夫ですよ。タブン」
 そういったピーチは、相変わらず笑顔を浮かべており、最後までアイリスに何を考えているのかを読ませなかったのである。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 相手の礫(?)を冷静に対処したと思った集団だったが、そのあとの対処はほとんど何もできずに終わった。
 礫の攻撃を回避するために防御を固くした途端に、なにかが投げ込まれて、次の瞬間には煙幕が広まった。
 それと同時に、その煙をまともに吸い込んだ者たちが、せき込み始めたのだ。
「ゲホッゲホッ! く、くそ! 何なんだよ、これは!」
「め、目が!」
 あちらこちらで悲鳴のような声が上がるが、そんな特殊な攻撃を予想していなかった集団は、何の手の打ちようが無かった。
 一部で冷静に布で鼻と口を覆うような者はいたが、それはほんの一割程度だった。

 指揮を取っていた者が指示を出そうとしたときには、既に新しく事態が動き始めていた。
 半ばパニックになっている集団に向かって、数人の人影が襲って来たのである。
 その数は全部で五つ。
 その内の一つは、真っ直ぐにリーダーの元へと向かった。
「ちっ! お前ら、防げ!! ・・・・・・っと」
 すぐにそのことに気付いたリーダーは、一度舌打ちをしつつも短く指示を出して、襲撃者の攻撃を防いだ。
 五つの人影は、全員が黒装束で身を纏っている。
 この姿で街中を歩けば目立ってしょうがないが、身バレすることを目的としているので、この場合は有効になる。
 第一撃を防がれた襲撃者は、一旦攻撃を止めて身構えた。
 その姿を目で確認したリーダーは、一瞬目を見開いた。
 黒装束で身を覆っているが、相手が女性だとすぐに気が付いたためである。
「・・・・・・もったいねえなあ」
 リーダーはそういいながら、顔に獰猛な表情を浮かべた。
 顔は全部見ることはできないが、体つきは男好きするのが見て取れた。

 このリーダーに相対しているのは、勿論ピーチである。
 他の四人もサキュバスになるのだが、里の中でも上位に位置する腕の持ち主だった。
 ピーチがリーダー一人を相手していられるのは、彼らが他の者たちを引きつけているためである。
 もっとも、ピーチもリーダー一人に時間をかけるつもりはない。
 まだまだ人数が多く残っているため、出来る限り早く彼らを片づけなければならない。
 ただ、それとは別に、ピーチは妙な違和感に内心で首を傾げていた。
 勿論、相手に気付かれないように、声にも態度にも出すようなことはしない。
 ピーチは、その違和感を無視するようなことはせずに、むしろ違和感がなんであるかを確認する為に、すぐにリーダーへの攻撃を始めた。
 今ピーチが相手をしているリーダーは、Cランクの冒険者崩れの男だった。
 ついでにいえば、Bランクまであと一歩、という所まで上り詰めていた程の実力者である。
 流石のピーチでも一撃で倒す、というわけにはいかなかったが、先ほどの煙幕を吸い込んでいた影響か、男の攻撃も本調子というわけではなさそうだった。

「がっ・・・・・・!?」
 信じられないといった表情を浮かべて、リーダーはピーチの前で崩れ落ちた。
 いくら強者といえども、急所に強い攻撃を食らっては、まともに立つことなど出来ない。
 ピーチの攻撃は、力だけではなく神力の上乗せもあるのだ。
 見た目からはあり得ないほどの一撃を受けて、リーダーは気を失った。
 それを確認したピーチは、仲間の手助けをしようと辺りを見回した。
 既に半数以上が倒れ込んでいるが、流石に人数が多いため処理に手間がかかっている。
 集団から逃げ出して他の町に情報を持ち帰るられるのを防ぐためにも、全滅させることを基本の作戦としていた。
 もっとも、全てを一度に倒すことなどは不可能なので、こぼれた者たちはスミット王国の影たちに対処してもらうようにしている。

 仲間の手助けをしようと足を踏み出したピーチだったが、突然後ろからグイと腕を掴まれた。
「ちょっと待ちなさい」
 ピーチにほとんど気配を悟らせずに腕をつかんだのは、勿論考助から護衛につけられていたミツキだった。
 ちなみに、ミツキも目立たないように黒装束で身を包んでいる。
「ここからは私が出るわ。貴方はここで指揮を執っていなさい」
 ミツキはそれだけを言って、乱戦が起こっている場所へと向かった。
 それを見ていたピーチは、ため息を吐きながら呟いた。
「流石、というべきでしょうか。たったあれだけで気づかれてしまうのですね」
 若干呆れたような色を含んだその声は、誰のも聞かれずに夜の闇へと消えた。

 ミツキが参戦した襲撃は、あっという間に終わりを迎えることになった。
 そもそもピーチがリーダーの相手をしている間に、目ぼしい実力者は他の者たちによって倒されている。
 残りは、煙幕をもろに食らっていた戦闘力にならないような者たちだったのも大きいだろう。
 サクサクと残りの者たちを片づけて行き、時間にして全体で二十分程度で集団を全滅させたのである。
 勿論、何人かは逃げ出しているが、当初の予定通りスミット王国の影が対処していた。
 別の個所でおこなれていた襲撃は、もともと此方よりも規模が小さかったため、難なく予定通りことが進んでいた。
 こうして王都での計画は無事に終了することとなった。
あっさりと終わらせましたが、これは相手側の油断と混乱に付け込んだためです。
ついでに夜の間に起こったためで、まともに対処ができなかったということもあります。
ちなみに、ピーチの仲間は、一人一人がBランク程度の実力を持っています。
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