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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4章 サキュバス

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(5)指名依頼

 スミット王国のクラウン支部は、最初の頃に比べて規模がかなり大きくなっている。
 最初のころは、物や人の移動もかなり制限されていたのだが、その有用性が認められてからはその制限も少しずつ解除されて行った。
 その結果として、セントラル大陸の各町と繋がっている転移門とほとんど変わらない扱いになってる。
 勿論、繋がっている先がお互いにとって国外になるために、検問や関税などの厳重なルールが設けられていた。
 転移門が繋がってから今までの間の長い時間をかけて、少しずつ実績化した結果、今のような形に落ち着いている。
 ただし、現在でも細かいルールは変わっていて、今後も状況に応じて変化していくのは間違いない。
 いろんな意味で初めての事なので、試行錯誤は続くというのが、大方の予想だった。
 それだけの手間をかけても、お互いにとっての利益を得ることがわかってるので、支部の閉鎖という話はまったく出ておらず、むしろ門の数を増やそうという話さえ出ている。
 それだけ、スミット王国にとってもアマミヤの塔からの恩恵は大きくなっているのだ。

 そんなクラウン支部に、一人の貴人が訪ねてきていた。
 大勢の護衛を引き連れてやってきたのは、この国の王子であるクリストフだった。
 普通は、事前にすり合わせをしたうえで訪ねてくるのだが、この日は唐突にやってきて支部の職員たちを混乱させた。
 本来であれば、混乱を避けるためにそのようなことをしないクリストフだったが、今回に限ってはどうしても急ぎでやっておきたいことがあったのだ。
 その目的のために強引に立場を利用して、とある冒険者を呼び出してもらった。
 勿論、その冒険者とは、考助改めコウのことである。

 泊まっている宿屋に支部の職員が訪ねて来て、コウヒと共に慌てて駆けつけた考助は、部屋に入って関係者以外がいないことを確認したクリストフ王子にいきなり頭を下げられた。
「急に呼び出したりして、申し訳ありません!」
 その姿に、少しだけ文句を言おうとしていた考助は、気勢をそがれてしまった。
「えっ!? あ、いや、うん。まあいいんですが、何かありました?」
 本来であれば、もっと強く出れる立場なのだが、どうにも一国の王子とかに下手に出られると気まずい思いをしてしまう。
 相も変わらすその辺りの感覚は、まだ変わっていないのだ。
 考助の返答にホッとしたような表情を見せたクリストフ王子は、まずは席に座るように勧めて来た。
「まずお伝えいたしますが、ここにいる者たちは私の側近で、コウ様のことを知っております」
 クリストフ王子は、傍に立つ数人の護衛を指しながらそういった。
 来たときはさらに多くの者たちで囲まれていたが、流石に全員が入れるほどの広さはない。
 それを理由にクリストフ王子本人が追い払ったのだ。
 ちなみに、その残っている護衛は、以前の騒ぎの時にも考助のことを確認している。

 そもそも「コウ」として活動することは、前の話し合いの時に伝えてあるので、その心配はしていなかったが、クリストフ王子はきちんとその辺のことも配慮してくれたらしい。
 だが、それはそれで、なぜこのような呼び出し方をしたのかが分からない。
「そうでしたか。それで、ご用件は何でしょうか?」
「実はですね。冒険者として高名な『コウ様』に、指名依頼をさせて頂きたいのです」
「はい?」
 クリストフ王子の言葉に、考助は思わず素っ頓狂な声を上げた。
 いくらなんでも王子自ら出向いてきて頼むような内容ではない。
 そんな思いが顔に出てしまっているのに気付いたのか、クリストフ王子も何とも言えない顔になって続けた。
「本来であれば、私自ら頼むようなことではないのは分かっているのですが、事情がありまして・・・・・・」
「何でしょう?」
「実は我が王家には、自らの手で薬を作れるようになること、という家訓があります」
 何の薬かはいうまでもないだろう。
 フリエ草を使った薬のことである。

 スミット王国にとっては、フリエ草を使った薬は重要なものだというのは知っていたが、まさか王族自ら作っていたとは思っていなかった考助は驚いた。
「と、いうことは、フリエ草を取ってくる依頼でしょうか?」
 この場にいる者は全員が考助の正体を知っているとはいえ、あくまでも今の立場は冒険者のコウである。
 考助は、出来るだけ言葉を崩さないように、注意をしながら話をしている。
「いいえ。フリエ草自体は、王家の手元に直接来るようになっていますが、問題は他の薬草類です」
「ああ、なるほど」
 一つの薬を作り出すのに、一つの薬草だけを使っているとは限らない。
 考助は、別の薬草が必要になるのだろうと考えて、頷いた。
 だが、そのような重要な薬の材料を一冒険者に頼むのはいいのだろうかと考助は続けて首を傾げた。
「ですが、私ひとりで採取するのは難しいのでは?」
 そもそも今回はピーチの付き添いで来ているので、そうそう遠くに行くことは出来ない。
 先日の話し合いで、王子もそうした考助の事情は分かっているはずなのだが、という思いを込めて見ると、しっかりと王子もそのことを察したようだった。
「恐らく勘違いされていると思いますが、私が必要としている薬の材料は、この国の特産品のものではないです」
「えっ?」
「今私が必要なのは、この近場で取れるものばかりです」
「そうなんですか?」
「ええ。本来であれば、別の者が取っていたのですが、色々と事情が重なりましてその人物に依頼するのが難しくなってしまったのです」
 クリストフ王子のその説明を聞いて、考助は事情を察した。
 要するに今までは、サキュバスに採取を頼んでいたのだろうが、今回の件でその依頼が難しくなってしまったということだ。
 まさかサキュバスにそんな仕事をさせていたとは思わなかったが、それこそ内容を考えれば低レベルの者を鍛えるのに丁度いい依頼といえる。
 そうした者たちの実戦訓練となっていたのだが、今回の騒ぎでそれが出来なくなってしまったのだ。

 クリストフ王子から話を聞いて、何となく事情を察した考助は、快く了承することにした。
 そもそも考助はピーチと一緒にいるということだけを決めていて、その間は適当にクラウンの依頼をするつもりでいたのだ。
 話を聞く限りでは、近場での採取でも済みそうなので、大きな問題はない。
 あるとすれば、王族からの直接依頼ということが問題になりそうだが、既に「コウ」の名前もある程度クラウン組織内では広まっているので、大丈夫だろう。
 冒険者同士では、指名依頼を受けているという事は分かっても、誰から受けているかまでは分からない。
 依頼主の事を秘匿するのは、クラウンやギルドの義務でもある。
 ましてや相手が王族となると、依頼主を公言しないのは当然の事だった。
「そういう事ならお引き受けしますが、受け渡しはどうされるのですか?」
「それは通常通りクラウンの窓口で大丈夫なようにしておきます」
 別に素材の受け渡しは、王子本人が来る必要はないのだ。
 それなら最初から、部下なりを使って採取に行かせればいいのだろうが、それが出来ない理由でもあるのだろう。
 王族は王族なりに、外から見ればくだらないものに縛られていたりするものだ。
「そうですか。いつから開始しますか?」
「きちんと手続きを取ってからになりますので、数日後からになるのではないでしょうか」
 クリストフ王子としても、直接指名依頼など出したことはないので、詳しい日程などは分からない。
 今回は、緊急扱いもされないはずなので、余計に時間がかかるはずだ。
 その辺りのことは、きちんと職員をよんで確認することになったのである。
王族からの指名依頼です。
サキュバスが自由に使えなくなって、微妙に影響が出ているというお話でした。
考助の暇つぶしにもなります。
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