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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4章 サキュバス

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(3)協力関係

 無事に王都に戻り、情報を持ち帰ることが出来た男だったが、すぐに次の指令が下った。
 多少の休みを貰えると思っていたのだが、残念ながらそんな余裕は今の組織には無いらしい。
 男も状況が分かっているだけに、すぐに「是」を伝えた。
 指令の内容が、預けられた手紙をとある組織の人物に渡すというもので、単純だったからというのもある。
 もっとも、単純な内容だからといっても、油断はできないのは変わらない。
 今はまだ王都は、組織の手が十分にあるとはいえ、別の組織や個人から例の闇ギルドに情報が伝わっては元も子もない。
 出来る限り他には知られないように、というのが今回一番気を使わなければならないところなのだ。
 ただし、いくら気を使っても王都の全ての住人の目を避けるなんてことは不可能である。
 仕方ないので、男は王都の外で問題の人物と接触することにした。

 件の人物は、今日は冒険者として近くの狩場に向かっている。
 その情報は、組織の他の者から聞いた。
 男は単にその場所に向かえばいいだけである。
 その任務に男が選ばれたのは、単純に単独行動してもその場に向かう事が出来るという理由からだった。
 本来戦闘がメインでない男に、そうした役割が回されることからも、組織の手が足りなくなっていることがわかる。
 幸いにして、目的の人物はすぐに見つけることが出来た。
 広いフィールド上でたった一人の人物をすぐに見つけることが出来たのは、僥倖と言って良いだろう。
 相手が此方を警戒しているのを分かっていながら、男はゆっくりと近づいて行った。
 そして、ぎりぎり相手の攻撃範囲外の場所から話しかけた。
「よう。調子はどうだい?」
「・・・・・・ああ、ぼちぼちだな」
「偶々通りがかりに見つけたから寄ってみたが、邪魔したか?」
「いや、襲撃にあって、一息ついていたところだ」
 そういった男の周囲には、数体のモンスターが横たわっている。
 いづれも低ランクのモンスターで、ほとんど一撃で倒しているのがわかった。
「そうか。いや、解体の邪魔して悪かったな。トイッテ神の巡り合わせに感謝を」
 男がそう言うと、相手はピクリと反応した。
 最後に言ったことは、サキュバスの間に伝わる符丁の一つである。
 トイッテ神とは、特にサキュバスに信仰されている神の一柱で、慈愛と予見を司っている神とされている。
「・・・・・・ああ。神の気まぐれに」
 相手がいったその台詞も符丁の一つになる。
 それを聞いた男は、懐に手を忍ばせて一通の封筒を取り出し、そのまま近くの地面に置いた。
 風で飛ばされないように小石をその上に置いて、すぐに踵を返した。
 あとは、相手がこの手紙を拾う所を確認するだけで任務は終わりとなる。
 不用意に相手に近づかないのは、お互い暗黙の了解のもとに行われていることだ。
 男が十分に距離を置いたのを待ってから、その相手は封筒を地面から取り上げた。
 すぐに封筒を開けて中身を読み始めるのを確認した男は、そのまま近くにある村へと向かうのであった。

 男が行ったようないくつかのやり取りを経て、両者の会談が設定された。
 時間がないのは承知の上だが、それでも警戒はしないといけない。
 そもそも今回の会談は、他者に知られてしまっては意味が無くなってしまうものだ。
 いずれ敵対している相手にばれるとはいっても、二つの別のグループと相対していると思わせるのと、同じグルーブだと思っているのでは、対応方法も変わってくる。
 出来るだけ別のグループだと思わせておきたい。
 もともと手紙でのやり取りで、ある程度のすり合わせは行われている。
 あくまでも直接対面しているのは、お互いの合意が間違いないことを確認するためである。
 会談自体は、一時間も掛からずに終わった。
 これにより、両者の協力関係が無事に合意されたのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 考助は、珍しいメンバーと管理層の会議室で会っていた。
 一人はトワで、当然ながらラゼクアマミヤ王国の代表として出席している。
 二人目は、クラウン統括のワーヒドだ。
 こうした席にワーヒドが直接出張ってくるのは勿論、彼が一人だけ出てくるというのも珍しい。
 さらに珍しいのが三人目の出席者で、サキュバスの長のジゼルだった。
 彼らの組み合わせ自体もそうだが、更に珍しいのが、今回の集まりの主体となっているのが、ジゼルというのだからほとんど初めての事態といって良いだろう。
 塔側の出席者は、考助の傍にいるコウヒと最初から指名されていたピーチだ。

「それで? 要件とは何でしょうか?」
 珍しい三者が揃っていることで、なにか大きなことが起こっているのはわかる。
 雑談を始めるよりも先に用件を済ませた方が良いだろうと、挨拶もそこそこに考助から先にそう切り出した。
 一瞬だけ視線を交わした三人だったが、すぐにジゼルが話し出した。
 そもそも裏で活動しているはずのサキュバスの代表が先に話し始めることも珍しいのだが、この三人が集まっている時点で何となく予想できたため、考助はそれに対してどうこういうつもりはない。
「大まかに二つあります。一つは、コウスケ様の許可を頂きたいというのと、もう一つはピーチをしばらく借りたいということです」
 前者はともかく、後者はわざわざこの場で言うことなのかと、考助は首を傾げた。
 ごく稀にだが、ピーチは何度かジゼルの要請で、サキュバスの仕事に出向いている。
 どちらかといえば、ピーチの腕が鈍らないようにするという側面もあるため、特に今回のようにわざわざ考助の許可を求めるようなことはしていなかった。

 そうした考助の考えが分かったのか、さらにジゼルが詳細を話し出した。
 事の起こりは、スミット王国内で起こっている裏組織同士の権力争いだった。
 一言で言えば、新しい闇ギルドが一気に広まって、元々ある王家直属の組織の活動が難しくなっているのだ。
 早い話がラゼクアマミヤにおけるサキュバスたちのような立ち位置にいる組織だった。
 そうした裏の組織は、新しい組織と古い組織の入れ替えなど頻繁に起こっている。
 今回の問題は、新しくできた闇ギルドが、一切の他組織を認めないことにある。
 このままでは、塔のサキュバスたちの活動も阻害されかねない。
 それは、スミット王国と強いつながりがあるラゼクアマミヤ王国にとっても、支部が存在しているクラウンにとってもあまりよろしくない事態だ。
 だからこそ、それぞれのトップがこうして話し合いの席に参加していた。

 ジゼルの話を頷きながら聞いていた考助は、何となく状況を理解して問いかけた。
「なるほどね。それで許可というのは?」
「スミット王国直属の代表から共闘を持ちかけられております。その許可を頂きたいのです」
 細かい協定内容は勿論あるが、そうしたことを一切省いてジゼルがそう言った。
 この場合、お互いの協定内容はあまり意味がない。
 何より、トワとワーヒドにはきちんと詳細を話してあり、塔にとっては不利益がないと判断されている。
 勿論、後で細かい内容は話すことになるが、それよりも、この場にいる三者が良しと判断したことの方が、考助にとっては重要なのだ。
「なるほどね。ピーチの事もそれに関係しているというわけだ」
「そうなります。どう考えても戦闘は発生すると思われます。ピーチの手があるとないとでは、こちら側の安全に雲泥の差がありますから」
「そういう事ね」
 既に一族の中でも実力的にトップの立ち位置にいるピーチは、その場にいるだけでも一段動きが違って来る。
 いつもそうだが、今回は特に成功させたいので、どうしてもピーチの力を借りたいというのがジゼルの希望だった。

 今回の話の流れを理解した考助だったが、ふと思いついたことがあってそれを提案することにした。
「僕としてはピーチを貸し出すことには問題はないよ」
「おお!」
 考助の答えにホッとした表情を見せた三人だったが、次の考助の言葉に顔を引き攣らせることになった。
「ただ、今回の件は、僕も直接出張ることにしていい?」
 こうして、スミット王国内での裏の騒動は、考助が直接出張るという事態に発展することになるのであった。
考助の出陣決定!
・・・・・・さらに事態をややこしくすることになったような気がするのは作者だけでしょうか?
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