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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4章 サキュバス

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(1)逃亡

 大通りから数本奥に入った路地で、その人物は身を隠すように建物の影に潜んでいた。
 一時間ほど前に日は完全に沈んで、辺りは夜の闇に包まれている。
「やれやれ、まいったね。まさか、奴らがここまで浸透しているとは」
 そう呟いた言葉は男のものだったが、周囲には誰もおらずその音を拾う者は誰もいなかった。
 勿論、男も誰もいないのを確認しているからこそ、言葉を口に出している。
 聞く相手もいないのにわざわざ音に出しているのは、落ち着いて考えるために冷静になるためだ。
「・・・・・・そろそろここがばれるのも時間の問題、か。さて、どうするか」
 男は決断に迫られていた。
 そもそもこんな時間にこんな場所に隠れているのは、とある集団から身を隠すためだ。
 自分がその集団に捕まってしまえば、集団に関する情報を届ける者が誰もいなくなってしまう。
 男としては、それだけは何としても避けたい事態だ。
 とはいえ、男は自分が所属する集団の中での戦闘能力は、中程度しかない。
 とてもではないが、今追われている集団から戦闘をしながら逃げ切れるとは思えなかった。
 自身の戦闘能力を客観的に分析した男は、ついに最後の手段を使うことを決断した。
「・・・・・・出来れば使いたくなかったが、まあ、仕方ないか。そんな贅沢を言っていられる状況でもない・・・・・・っと。やっぱり早いな。とっとと逃げるか」
 呟きながら周囲の状況を確認していると、確実に自分を探す足音が増えてきていた。
 ごそごそと懐を探り出した男は、手のひら大の一枚の紙を取り出して、ぶつぶつと呪文を唱えだした。
 男が呪文を唱え終わると、そこにいたはずの男は完全に姿を消して、夜の闇だけが残されるのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 その報告に、男は激昂した。
「あれだけの人数を動かしておいて、何をやっているんだ! 馬鹿が!」
 そう言って目の前にあった机を激しく蹴りつけた。
 木製とはいえかなり重量のあるその机は、男のその蹴りでほんの少しだけ浮き上がる。
 蹴ったときと、机が床にたたきつけられたときに、かなりの大きさの音が鳴り、男の前にいた三人の報告者はびくりと震えた。
 常人であれば浮かすどころか、まともに蹴ることすらできないその木製の机を蹴って平然としている男に対して、三人は内心で冷汗を浮かべていた。
「も、申し訳ありません。しかし、相手は最後に隠ぺいの魔法を使ったようで、担い手がいなかったこちらには、手の打ちようがありませんでした」
「・・・・・・何だと?」
 その報告に、激昂していた男は興味を示したような表情になった。
 隠ぺいの魔法は、その筋の者たちには多く知られているにもかかわらず、中々使い手がいないことで知られている。
 理由は単純で、覚えるのに時間がかかるのにも関わらず、大した効果が得られないために効率が悪いと評判なのだ。
 そんな魔法をわざわざ覚えるのは、自身を隠ぺいすべき機会が多い仕事に付いている者というのが業界での常識だった。
「奴が魔法を使えるという報告などあったか?」
「い、いえ。以前確認してもらったときは、使えたとしても大したことはないということでした」
「こっちでも確認したが、恐らく魔道具か何かを使ったんじゃないかって話だったぜ」
 何とか怒りの矛先をそらそうと、男が興味を持ったらしい情報を提供する。
「・・・・・・なるほどな」
 そう言った男は、腕を組んみながら目をつぶって考え事を始めた。

 そもそも隠ぺいの魔法は、先ほどの理由で使える者が少ない。
 そのため、その魔法がこもった魔道具となると、更に数が少ない。
 そのため需要があるにもかかわらず、市場に出回る数が少なくなり、必然的に値段も高くなる。
 簡単に言えば、中堅クラスの冒険者ではまず手に入るような値段では買えない。
 その手の魔道具は、作っている所も少ないため、出所を絞るのはそう難しいことではない。
 例え流通している品を使ったわけではない場合でも、それはそれで相手を絞ることができる。
 隠ぺいの魔法陣は、そういった魔道具なのだ。
「・・・・・・おい。出所は探っているんだろうな?」
「当然だ。まだ結果は出ていないが、そう時間はかからないはずだぜ」
「ふん。・・・・・・まあいい。今回の失敗は大目に見てやる。・・・・・・次は許さんぞ?」
 最後にそう釘を刺して来た男に、三人は頷きを返した。
 その言葉で男が部屋を出て行けと察した三人は、逃げるようにしてその場を去って行った。

 その姿を見送った男は、しばらくしてから自身の執務机へ移動した。
 その机に備えついている引き出しを開けて、とある魔道具を取り出した。
 見る者が見れば、それが通信用の道具だということはすぐに分かるだろう。
 男はその魔道具を操作して、通信を行い始めた。
「お忙しい所、申し訳ございません」
 男は、先ほどまでとは全く違った態度をして話始めた。
「・・・・・・ええ。勿論です。・・・・・・はっ! はい!」
 その部屋には男以外の誰もいなかったため、通信具を使っての会話は誰にも聞かれることは無かった。
 そして、その会話はしばらく続くことになったのである。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 包囲網から無事逃げ出した男は、数日後には別の村にたどりつき、そこからスミット王国の首都へと向かった。
 既に自分が所属する組織のメンバーを通して、先日手に入れた情報を送ってある。
 今後どうするかは、組織の上の方で決めることになるだろう。
 末端の一人でしかない男は、取りあえず組織に合流して今後の任務を割り当てられるのを待つことになる。
 そのために首都を目指しているのだが、男は到着した首都で自分の常識が崩壊するような出来事に巻き込まれるとは、このときは欠片も考えていなかった。

 一方、男の報告を受け取った組織では、対策会議が開かれていた。
「さて、皆。集まってもらったのはほかでもない、例の件についてじゃ」
 代表たちの中でも一番の年長である初老の男性がそう切り出すと、それまで騒めいていた部屋が静まり返った。
 それを確認した初老の男性は、さらに続けて話した。
「儂が話すまでもないと思うが、奴らはかなり強引に勢力を広げておって、瀬戸際に近くなっておる。今取れる対策としては、迎合するか迎え撃つかの二つに一つしかない」
 そう言い切った男性に、一部がざわめいた。
 中には、他にはないのか、と言っている者もいる。
「・・・・・・他の手があるのであれば、是非とも意見を聞きたいものじゃ。落ち着いて議論が出来るのは今の内じゃから、思いつく限りの事を言っておいてくれ」
 その言葉を受けて、各方面から様々な意見が飛び出し、更にその意見に反論がされ、様々な角度で色々な方策が検証される。
 だが、話をしている全員が感じているのは、どの意見も一長一短があり、そう簡単には決められないということだった。
 この場に集まっているのは、色々な場所に飛び交っている部下たちの情報を集めている者たちだ。
 担当している場所によって、情報に開きと温度差があるのは仕方のないことだった。
 ただし、どの担当者も一筋縄ではいかないという事は共通している。

 この場で飛び交う意見を聞いていた初老の男性は、内心で中々厳しいことになったとため息を吐いていた。
 この問題が持ちあがったとき、今後の一族の行く末を決めることになるのでは、と密かに思っていたのだが、見事にその懸念は当たってしまった。
 集まっている者たちも既にそのことは分かっているのか、真面目に議論がされていた。
 すぐに方針が決められるような問題ではないが、長い時間をかけている暇はない。
 結局この時の議論は、長い時間をかけて精査され、更に別の場所へと判断がゆだねられることになるのであった。
新章スタートです。
一話目からいきなりメインメンバーが出てきませんでしたが、次は出てくる・・・・・・ハズデス。
今章は誰がメインになるかは、今回の話で分かるでしょうか?w
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