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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 塔のあれこれ(その12)

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(8)師匠からの課題

 学園の机の上に一枚の紙を置いて難しい顔をして腕を組んでいるルカに、友人の一人であるオイゲンが話しかけて来た。
「おーい、ルカ。何を難しい顔をしているんだ? ・・・・・・って、うげっ、何だよ、これは?!」
 机に上にある紙を見て顔を顰めたオイゲンに、ルカは不思議そうな顔を向けた。
「何って、魔法陣だけど?」
「あほか! 魔法陣は見ればわかるって! 問題なのは、このごちゃごちゃした文様だっての!」
 オイゲンとて学園の生徒である。
 魔法陣についても基礎はしっかりと学んでいる。
 ある程度の魔法陣であれば、何の効果をもたらすものか見抜くこともできるが、その紙に書かれた魔法陣は、そんなレベルを突き抜けていた。
 ざっと見た感じでは、使われている記号自体はそれこそ授業で習うような基礎的なものしか使われていないが、余りの細かさと複雑さにどういったものか読み解くのが容易ではない。
 魔法陣を読み解くには、記号の意味だけを知っていればいいのではなく、複雑に絡み合った記号同士の繋がりを考える必要があるため、センスが必要になるといわれている。

 ルカがその魔法陣を簡単に読み解いてしまうということは、既にクラスメートたちに知られている。
 だからこそ、次のルカの言葉にも脱力するだけで済んだ。
「ごちゃごちゃって、確かに記号の数は多いけれど、これはそんなに難しいものじゃないよ?」
「あのなあ。教師たちに教えることができるお前と、俺らを同じにするなっての。これは、どう考えても難しいレベルだって!」
 二人の会話を聞いていた他の者たちが、オイゲンのその言葉にうんうんと頷いている。
 それを見たルカは、一度だけ首を左右に振った。
「いや。本当なんだけれど。そもそもこの魔法陣自体は、みんな知っているものだよ?」
「はっ・・・・・・? いや、嘘だろ? そんなの見たことないぞ?」
 ルカの言葉に、オイゲンやクラスメートたちが驚きの表情になった。
 ルカは朝からその魔法陣を睨み続けていたので、オイゲン以外の者たちも気になって魔法陣を見ていたのである。
 もっとも、ちらりと見ただけですぐに自分の手には負えないとさっさと考えるのを止めてしまっていたのだが。
 周囲のその反応を見たルカは、再度首を左右に振る。
「いや、本当だって。だってこれ、簡略文字を習ったあとに習う<結界>の魔法陣だよ?」
「「「「「「えっ!!!!!?」」」」」」
 ルカのその言葉に、周囲にいた全員が驚いた声を上げて、その魔法陣に視線が集まった。

 <結界>の魔法陣は、夜間のモンスターからの襲撃を守るために広く使われているものである。
 その魔法陣は、作った術者のレベルによって強度が変わり、よほどのレベルの者が作ったものでなければ気休め程度の効果しかない。
 それでも低ランクモンスターのちょっとした不意打ち程度は防ぐことができるので、主に行商の荷物を守るために利用されていたりする。
 一般的に知られている魔法陣のため、学園では応用編の最初の頃に習う魔法陣の一つとなっていた。
「いやいや、ありえねーだろ!? なんであんな簡単な魔法陣がこんな複雑怪奇になっているんだよ!」
 ルカの言葉に、机の上にあった紙がクラスメートに回されて、オイゲンはあり得ないと吠えた。
 紙に書かれた魔法陣を確認しているクラスメートもオイゲンと同じような顔になっている。
「いや。あり得るから。<結界>の魔法陣の簡易文字とか簡略文字を全部基本文字に変えたらそうなるんだよ」
「嘘だろ・・・・・・?」
「本当だって」
 疑うオイゲンに、ルカは首を左右に振って否定した。

 その後、クラスメートたちによって、魔法陣が検証されてそれが本当に<結界>の魔法陣であることがわかった。
 元が分かっていれば、そこから基本文字に戻すのは比較的簡単に出来る。
 勿論やり方を知っていれば、という前提条件は付くが、学園ではきちんとそのやり方を習っている。
 例えて言うなら漢字で書かれている文を全部平仮名に直すような物なので、さほど難しいことではない。
 もっとも、先ほどからの反応でわかる通り、全部平仮名にしても読める文章とは違って、魔法陣の場合は一目で見抜くことは出来ない。
「・・・・・・まさか本当だったとは・・・・・・」
「だから本当だって言ったじゃないか」
 ジト目になったルカに、オイゲンがぱちんと両手を合わせた。
「いや、すまんすまん」
「まあ、いいんだけれどね」
 別にルカとしてもそのことで責めるつもりはなかったので、あっさりとジト目を止めた。

「それで? 何だってこんな魔法陣を見ていたんだ?」
 せっかく簡単に書かれている魔法陣を、わざわざ全て基本文字に直して何をしようとしていたのか、オイゲンにはさっぱり分からなかった。
 改めて紙に書かれた魔法陣を眺めながら、オイゲンはルカにそう聞いた。
「・・・・・・師匠からの課題でね」
 ルカがいう師匠というのは、考助の事だ。
 以前からルカは、考助から魔法陣に関して、直接教えてもらっているのである。
 クラスメートには、師匠が誰であるかは具体的には言っていない。
 言えば、自分も弟子にしてくれと押し掛けて来る者が殺到するのは目に見えているためだ。
「課題? ・・・・・・これが?」
「うん。この形から一般に知られている物と違った簡略化をしないといけないんだ」
「なるほどなあ。・・・・・・出来るのか? そんなこと」
 ルカの言葉に一瞬納得しかかったオイゲンは、疑わし気に魔法陣を見た。
「僕もそれを師匠に言ったら、『出来ないことは言わない』と答えが返って来たよ」
「何者だよ、その師匠・・・・・・」
 呆れ気味にそう返したオイゲンに、ルカは苦笑を返すことしかできなかった。

 そもそも魔法陣というのは、元ある複雑な物を簡単にするのが主流で、わざわざ簡単になっているのを戻して再度組み直すなんてことはしない。
 ましてや、<結界>のような一般にさえ知られている魔法陣は、それ自体が究極(?)のものといわれている。
 そのために、新しく作り直そうなんてことをする者は、まずいないのである。
 もっとも、魔法陣の作成やそれを研究している者が増えれば、そうした試みも増えることはあるかも知れない。
 ただ、今のところはそうした流れはほとんど起きていないのが現状だ。
 だからこそ、ルカが受けた指示を不思議に思うのは当然なのである。
「うん。まあ、普通の人ではないことだけは確かだと思うよ」
「まあ、それはそうだろうな」
 ルカとしては、本当に人ではないと言う意味で言ったが、オイゲンは抽象的な意味でとらえている。
 まさか現人神から直接指導を受けているなんてことは、言う気が無いので、ルカも曖昧に笑って誤魔化した。

「それで?」
「うん?」
「その変わり者の師匠の課題は、出来そうなのか?」
 そのオイゲンの問いかけに、ルカはため息を吐いて答えた。
「そんな簡単に出来るんだったら、学園まで持ってこないよ」
「ハハハ。だろうな」
 ルカがこうして学園の教室で悩む姿を見せるときは、大体が難問に当たっているときだった。
 今回もルカにとっては難問だということだ。
「元からある簡易魔法陣よりも簡略化するのが難しいんだよねえ・・・・・・」
 ルカはそういって再び魔法陣を見だした。
 それを確認したオイゲンは、肩を竦めてこう言った。
「まあ、あんまり根を詰めるなよ。お前の場合、その紙を見たまま歩いて、壁にぶつかるとかやりそうだから」
「はーい」
 そのあまりにも身の入っていない返答に、これは駄目だと確信したオイゲンは、また別の友人がいるところへ歩き出すのであった。
ルカの話でした。
考助からの課題に真剣に取り組んでいます。
・・・・・・いささか、真剣に取り組み過ぎているかもしれませんが、それは考助の息子だからということにしてくださいw
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