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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 塔のあれこれ(その12)

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(7)挨拶

 ココロは人生で初めてミクセンの三神殿を訪ねていた。
 セントラル大陸で生活している巫女にも関わらず、一度も三神殿を訪ねていないというのはあり得ないことなのだが、ココロに関してはその非常識がまかり通る。
 修行で必要になる知識に関しては、母親であるシルヴィアからで事足りる。
 何より、いつでも現人神に対面できるうえに、加護を得て神託も存分に女神から得ているのでこれまで困ることが無かったのだ。
 正確に言えば、今でも巫女としての修業に困ったことは一度もないのである。
 修行のためには一度は訪ねるはずの神殿に一度も入ったことが無いのに、最高の環境で修行を進めて独り立ちまでしていた。
 普通で考えれば、ココロは巫女としては異色すぎる経歴の持ち主なのだ。

 そのココロが何のために三神殿に来ているかというと、シルヴィアの後任として城に詰めていたときに、三神殿からお誘いを受けたからだ。
 シルヴィアがいたときは、必要最低限の交流しか持っていなかった神殿側が、ココロに交代を機にお近づきになろうと画策したのである。
 その辺のことはココロもリリカから聞いていたが、折角の機会なのでということで、その話を受けることにした。
 三神殿とどういう対応をすればいいのかという事もココロはシルヴィアから聞いたことがあるが、「好きにするといいですわ」という一言で終わった。
 勿論突き放したわけではなく、そのあとには困ったときは頼ればいいと言っていたが、シルヴィアは完全にココロに権限(?)を委任していた。
 フローリアと同じように、親世代はフォローだけすればいいというつもりになっているのである。
 そんなシルヴィアのバックアップを受けたココロは、今後の自身の対応を決めるべく、相手の本拠地に乗り込んだというわけだった。

「・・・・・・随分と派手ですね」
 一番最初にミクセンにあるエリサミール神殿に入ったココロは、ポツリとそんなことを漏らした。
 思わず出てしまった言葉で、ほとんど小声だったためさほど周囲には広がらなかったが、すぐ傍に付いていたリリカにはしっかりと聞こえて来た。
 そのココロの呟きを聞き取ったリリカは、こちらも思わずといった感じで小さく吹き出した。
 第五層にある神殿と管理層にある祈りの部屋しか知らないココロにとっては、エリサミール神殿は相当に派手に見える。
「此方の神殿は、多くの信者から得たお布施がありますからね。こういう見える形で返さないと駄目な面もあります」
「そういうことですか」
 リリカのフォローになっていないフォローは、きちんとココロにも伝わり大きく頷いた。
 リリカが言ったことは、何とも世俗的な感じがするが、多くの信者を抱えてさらに多くの寄付を貰っている神殿にとっては必要なことだというのはココロにも分かる。
 むしろ貰うだけもらって、こうして目に見えない形で示さないほうが問題になる。
 こうしたことは、第五層の神殿と違って積極的にお布施を取っているからこそ発生する問題だった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 神殿に入って所属の神官に話をすると、すぐに奥に通された。
 一応身分証は確認されたが、クラウンカードで事足りたので、証明自体はあっさりと終わっていた。
 既に神殿でもクラウンカードが信頼を得ていることが分かる一幕だった。
 それを見たリリカが逆に驚いていたほどだった。
 最初からココロたちが来ることは伝えられていたのか、特に人員が交代するわけでもなく、真っ直ぐに神殿長室まで通された。
 その対応で、神殿側がどれほど今回の件を重視しているかがよくわかる。
 もっとも、生まれてから考助の娘として城の中で育って来たココロとしては、それだけで有頂天になるような育ち方をしていない。
 ココロの性格からして、そうした扱いを受けて得意になるようなことはないが、だからといって卑屈になるようなこともないのである。

 神殿長室には、ローレルがココロたちを待ち構えていた。
 他には誰もいなかったことから、本当に最初の挨拶のつもりだったことがわかる。
「ようこそいらっしゃいました」
「こちらこそ。お招きありがとうございます」
「ありがとうございます」
 無難に挨拶を交わしたココロとリリカの二人は、ローレルに勧められてソファーへと腰を下ろした。
 二人が腰を下ろすのを確認したローレルは、早速とばかりに話し始める。
「此方こそ、招待に応えていただきありがとうございます」
 そう言って一度頭を下げたローレルは、穏やかな表情でココロを見た。
 リリカとは既にシルヴィアと一緒に何度か顔を合わせているが、ココロと対面するのは初めてのことになる。
 そのため、どういった人物なのか見極める目的もあった。
 ローレルとしては、こちらの招待に応えてくれたというだけでも十分すぎるほどの成果を得ているのだ。

 そんなローレルの視線を感じながらも、ココロは表情を変えずに勧められた飲み物を口にしていた。
 穏やかな表情を浮かべながらも、その目の奥で自身の値踏みをされていることはちゃんと察している。
 伊達に城の中でトワたちと一緒に、大人たちからそうした視線を浴びせられ続けられてきたわけではない。
 王族ではないココロだが、それでも考助の娘として、そうした事情を知っている一部の者たちからは見られ続けられていた。
 何よりも学園では常にトワたちの異母妹として注目されていたのだ。
 学園に上がったばかりの頃は鈍いところもあるココロではあったが、今ではちゃんと見抜けるようになっている。
 とくにシルヴィアの後継を指名されてからは、同じような視線を向けられ続けて来たのだから、気付かないはずがないのである。

「いえいえ、折角の機会ですから。噂に名高いローレル神殿長を間近に見れる機会などありませんし」
「そうですか」
 ココロは特に何も考えずに言ったが、ローレルはそうは受け取らなかった。
 何しろココロは、考助とシルヴィアの娘なのだ。
 ココロがいう噂のもとが、その二人のことであると考えるのはごく当然のことだった。
 当然神殿側と二人のやり取りも耳に入っていることも理解できる。
 ココロの表情を見た限りでは、皮肉なのか素直な感想なのかが分からなかったローレルは、頷くだけにとどめておいた。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 軽い挨拶を交わしたあとは、当り障りのない会話をしてその日の面会を終えた。
 神殿長室を出て、礼拝堂に戻ったココロが祈りを捧げる一般の信者たちを目にして興味を示したのはそのときだった。
 リリカに「少し祈っていいですか」と許可をもらったあとに、用意していた布を地面にひいて座禅を組んだ。
 その様子を見ていたローレルが、過去に同じ場所で考助が行ったことを思い出したのは、ある意味で当然だった。
 ココロも考助も別にお互いにチェックはしたわけではないが、しっかりと座禅のやり方も引き継いでいる。
 十年以上も前に一度だけ見た光景と全く同じ光景を見ることのなるとは考えていなかったローレルが、ココロの座禅を見て「やはり血は争えない」とポツリとこぼしたのを傍にいたリリカはしっかりと聞き取った。
 意味ありげにローレルへと視線を向けたリリカだったが、なにかを言う事は無かった。
 座禅を組んでいるココロの邪魔になると思ったためである。

 結局、特に何かを意識したわけではないが、しっかりとローレルに強い印象を残してココロは神殿への訪問を終えたのであった。
書き終えてから座禅の方をメインにすれば良かったかと思いましたが、それはそれで繰り返しなるかと思って止めました。
ココロには、ミクセンの神殿は派手に見えています。
どちらかというと、祈りを捧げる場というよりも、美術品を見るような感じでしょうか。
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