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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 塔のあれこれ(その12)

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(5)体質

 夜の空に大きな満月が一つ浮かんでいた。
 塔の階層にいるのも関わらず、太陽や月が見えるのは不思議でしかないはずなのだが、フローリアやその子供たちにとってはごく当たり前の光景だ。
 むしろ「なぜ塔の中で月が浮かんでいるんだ」と問われれば、「なぜ浮かばないと思うんだ?」と逆に問いかけるだろう。
 塔の中で生活をする者たちにとっては、それが当然という認識になっている。

 フローリアたちが今いる場所は、狐たちが運営している宿の一室にある縁側だ。
 考助はおらず、フローリアを筆頭に彼女の子供たち三人全員が揃っている。
 縁側に用意されたテーブルの上には、お酒が用意されていた。
「ふむ。相変わらずこのワインは旨いな」
「そうですね。フルーティで私にも飲みやすいです」
 ミアもフローリアの言葉に同意してから頷いた。
 四人が今口にしているのは、ヴァンパイアが作っているワインである。
「ヴァンパイアのところでも生産体制が整って来たのか、ようやく私のところにも手に入るようになってきましたよ」
「ほう。それは上々。出来れば特産品に出来ればいいのだが、流石にそれは無茶か」
 ヴァンパイアが作っているワインは、ほぼ趣味に近いような状態で生産されている。
 それだけ手間暇をかけて作っているからこその味なのだろうが、数はどうしても増やせないのだ。
 とてもではないが、国外に輸出できるほどの量は作れない。
「まあ、無理でしょうね。それよりも、こうして私たちの口に入るだけでもありがたいと思いましょう」
「そうだな」
 味を楽しむような表情になってそう言ったトワに、フローリアは口元に笑みを浮かべて頷いた。

 その後は、トワやリクの近況や管理層で起こったちょっとした雑談をしていたのだが、リクが唐突にこんなことを言い出した。
「そういえば、母上はもう子供は産まないのか?」
「ブフォッ・・・・・・!?」
 タイミングが悪いことに(良いことに?)、丁度フローリアはグラスに残った最後のワインを口に含んだところだった。
 かろうじて吹き出すことは免れたが、気管にワインが入り込んでしまったのは、ある意味仕方のないことだった。
 しばらくケホケホと咳込んでいたフローリアは、何とか落ち着いてからリクを睨み付けた。
「何なんだ、突然?!」
「いや・・・・・すまない。まさか、そこまで反応するとは思っていなかった」
 リクにとってもフローリアの反応は予想外で、ばつの悪そうな表情になっている。
 何となく不思議に思ったから口にしただけで、普段から泰然としているフローリアが、このくらいの事で取り乱すとは思っていなかったのだ。
 同じことはトワも考えたのか、不思議そうな顔をフローリアに向けた。
「そこまで慌てるようなことですか? 私が生まれるまでは、色々な方面から散々言われたでしょうに」
 現在進行形で結婚と子供を望まれているトワは、フローリアの状況は実感としてよくわかっている。
 だが、そのはずのフローリアは、非常に珍しいことに少しだけ顔を赤くして息子二人を見た。
「・・・・・・確かにそうなんだが、何だ。息子二人に聞かれると、なにかむず痒いものがあるな」
 照れるフローリアなどほとんど見たことが無いトワとリクは、なんとも目をぱちくりとさせていたが、ミアはその二人とは反応が違っていた。
 何度も似たような顔で惚気るところを見てきているため、若干呆れたような顔になっている。

 このままでは話が進まないと思ったミアが、ため息を吐いていてからフローリアを見た。
「母上。惚気るのも結構ですが、話が進まないので答えてもらえませんか?」
 そのミアの言葉に、トワとリクは「えっ!?」という表情になった。
 まさか今のフローリアの顔で惚気だったとは思っていなかったのである。
 逆に言われたフローリアは、少しだけむっとした表情になった。
「別に惚気たつもりはないが・・・・・・」
「その顔が惚気だと言っています。いいですから、子供を作るおつもりはあるのですか? 別に産めないというわけではないのでしょう?」
 少しだけミアを睨んだフローリアだったが、諦めたようにため息を吐いてから答えた。
「確かにそうなんだが、なかなか難しいものがあるな」
「何故です?」
「他の者たちとの兼ね合いもあるからだ」
 スパッと言い切ったフローリアに、息子二人は納得したように頷いた。
 最近コレットが妊娠したことは皆が知っているが、シュレインとピーチに関しては、まだ子供がいないことも知っている。
 フローリアの気持ち的に、その二人を差し置いてさらに子供を欲しがるのは難しいだろうと察したのだ。

 だが、そんな二人に対して、ミアは首を傾げている。
「それだけですか?」
「何?」
「シュレインお母さまやピーチお母様に遠慮をしている以外にも何かあるのではないですか?」
 首を傾げたままそう言ったミアを、フローリアはジッと見た。
「・・・・・・何故そう思う?」
「いえ。特に何か根拠があるわけではなく、何となくそんな気がしただけです」
 何故と聞かれてもミアにも答えられない。
 ただ、何故か確信に近いような思いがあったので口にしただけだ。

 しばらくミアを見ていたフローリアだったが、やがてフッと表情を緩めた。
「やはりお前は、コウスケの子供だな。妙な所で鋭い」
「・・・・・・というと?」
 フローリアの言葉に首を傾げたのはトワだった。
 トワ自身は全く気付いていなかった何かがあるのかと、二人の会話を聞いて思ったのだ。
「そんなに大したことじゃない。することはしているが、お前たちを産んでからは単に授かっていないというだけだ」
「・・・・・・え!?」
 流石にその答えは予想外だったのか、ミアも驚いたような表情になった。トワもリクも似たような表情になっている。
 フローリアはさらりと言ったが、それはかなりの問題なのではないだろうか、と顔に出ている。
「だから、そんなに大したことではないと言っているだろう? 子供が出来なくなったとかではないから心配するな」
 そういったフローリアだったが、子供たち三人の表情は変わらなかった。
 それを見たフローリアは、やれやれとばかりに首を左右に振った。

 三人の様子を見て隠しておくことは出来ないと判断したフローリアは、「これはシルヴィアとも話し合って結論を出したのだがな」と前置きをしてから話し出した。
 簡単に言えば、ハイヒューマンとなったフローリアとシルヴィアは、普通のヒューマンとは体質が変わっている。
 早い話が、二人には既に子供が出来ているので、多産にならないように無意識のうちにセーブをしているのではないか、ということだ。
 フローリアやシルヴィアにとっては、何とも都合の良い話だが、実際に出来ていない以上、そう考えるのが自然なのである。
 トワたちを筆頭に、今いる考助の子供たちは、新しい種族として女神たちからも認められている。
 それがどういう種族であるかはまだまだわかっていないが、それでも普通のヒューマンよりも長い寿命を持つことは分かっている。
 そのため、フローリアやシルヴィアは、普通のヒューマンのように、常に子供が出来るような状態になっているわけではないと考えたほうがいいと結論づけたのだ。

「これは恐らくの話になるのだが、シュレイン殿やピーチ殿も似たような感じになっていると考えている」
 フローリアは、最後にそう締めくくったが、その話を聞いた三人は何とも言えない表情になった。
「強い種が生まれすぎないように、自ら調整しているというわけですか」
「はっきりいえばそういうことになるな。推論だらけで、本当かどうかはよくわからないが」
「なるほど・・・・・・」
 あくまでも今の自分たちの状態を鑑みた上での結論なので、実際に合っているかどうかは分からない。
 だが、シルヴィアの反応を見る限りでは、フローリアは先ほどの推論が正しいと確信していた。
 別にシルヴィアがエリサミール神に確認を取ったというわけではない。
 シルヴィアは巫女として突き抜けた位置にいる。
 その彼女が立てた推論が大幅にずれていることはないだろうという確信だった。
「まあ、とにかく、お前たちが最初に考えていたようなことではないと思うから、不必要に不安になる必要はないぞ」
 最後にフローリアがそう締めて、子供たち三人も頷くのであった。
フローリアとシルヴィアの体質についてでした。
あとはさらりと触れていますが、シュレインとピーチについても。
これぞご都合主義! という感じですが、長命な種族の場合はそういう事があってもおかしくはないだろうと考えた末にこうなりました。
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