挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 塔のあれこれ(その12)

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

648/1270

(1)管理層のメンバー

 二人の人物が剣を持って相対していた。
 流れるような美しい黒髪を持つ一人は女性で、もし意図して流し目でも送ろうものなら、送られた相手は一瞬にして虜にされるほどの美貌の持ち主だ。
 だが、もう一人の男性は、そんな相手の美しさを楽しむわけでもなく、逆に厳しい表情になっている。
 事実、男性の方は、完全に女性に追いつめられていた。
 男性は剣を持ったままどのようにして攻めるか考えるが、どうすればいいのか分からない。
 自分の頭で思いつく限りの攻撃は繰り出していたが、全て完全に防がれていた。
 ついでにいえば、男性は既に息が上がっているが、女性は息を乱すどころか、涼しい顔で立っている。
 地力でも完全に負けている証拠だった。

 いつまでもにらみ合っているわけにはいかない。
 既に考え付く限りの手段は尽していた。
 もはや頭で考えることを放棄して、息の上がった身体に鞭を打って相手に向かって剣を振りかぶった。
 息が上がっているとはいえ、攻撃している時に剣の先が鈍るようなことはない。
 剣が鈍ったときは自分が死ぬとき、そういう訓練をしてきたからだ。
 だが、最後の一撃とばかりに放った攻撃は、これまで同様相手にあっさりと受け流されてしまった。
 リクにはどうやって受け流されているかすら分からない。
 これまでの訓練と実戦でそれなりに実力を付けて来たと自負していたが、そんな自信はこの模擬戦であっという間に木っ端みじんにされてしまった。
 それでも相手がやる気になっている以上、自分から諦めるという選択肢はリクには無かった。
 そのあとは、ただただひたすらにがむしゃらに相手に向かっていった。
 ここまで何も考えずに相手に攻撃を繰り出したのは、剣を習ったばかりの頃以来だった。
 ただただ思いのままに手を出すが、それでも相手は全ての攻撃を防いでいる。
 手を止めることすら相手は許さなかった。
 リクが止まろうとすれば、攻撃を出してきて、防ぐことを強要されるのだ。
 防戦一方になるわけにはいかないため、リクから攻撃をするしかない状態にされていた。
 相手の思惑に乗っているのは分かっているが、リクとしてもそうするしかないため攻撃を続ける。
 だが、当然そんな無茶はいつまでも続くはずがない。
 完全に息が上がってしまったリクは、ガクリとその場に倒れ込んでしまった。
「ん~。下手に考え込むよりも、最後の攻撃の方がよかったですよ~」
 そんな女性・・・・・・ピーチの声を聞きながら、リクは意識を失うのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 リクが目を覚ましたときに視界に入ってきた天井は、見覚えのあるものだった。
「お。目を覚ましたか」
 リクが声がした方を見ると、そこには自分の母親であるフローリアがいた。
「母上。・・・・・・俺は、いや。僕は弱いのですね」
 先ほどまでの模擬戦を思い出していたリクは、ため息をはきながらそんなことを言った。
 その息子の言葉を聞いたフローリアは、これ以上ない程に目を見開いた。
 そしてそのあと、左手の人差し指でこめかみを押えた。
「・・・・・・なんというか、まあ。そんなところまで親に似なくてもいいのにな」
「母上?」
 意味が分からず首を傾げたリクに、フローリアは再びため息をはいた。
「何のためにと思っていたが、なるほど。やはりこちらの方面に関しては、助言に従って正しかったな」
 一人で納得しているフローリアを、リクはベッドに横たわったまま見上げている。
「お前が弱いか、だと? 何を当たり前のことを言っている。お前よりも強い者など、この世界にはまだまだごまんといるわ」
「そうですか・・・・・・」
 沈んだ声でそう言ったリクの頭を、フローリアは笑みを浮かべながらぐしゃぐしゃにした。
「ちょっ!? 母上?」
 小さい時はよくやられた仕草だったが、流石に学園に入ってからはほとんどされたことはない。
 恥ずかしさと懐かしさを感じながら、リクは慌てた様子を見せた。
 それでもリクは、フローリアのその行動を止めようとはしなかった。
「ここで腐って成長を止めるか、それともまだまだと奮起するかはお前次第だ。好きにするといい」
「・・・・・・厳しいですね」
 聞きようによっては放置するような言葉だったが、フローリアは本気でどちらでも構わないと思って言っている。
 そもそも剣の道に進むことを選んだのはリクだ。
 親の言葉で無理やりに剣を取らせるつもりもない。
 別にリクが冒険者の道を諦めたからといって、親として見捨てるつもりは毛頭ないのである。
 そして、リクとしてもそれが分かっているからこその返事だった。
「当たり前だろう? 私はお前の母親だぞ?」
 どうせ諦める気はないんだろう、そういう意味を込めて言った母親に、リクは苦笑を返すことしかできなかった。

 そもそもなぜリクとピーチが模擬戦を行うことになったかというと、最近リクの様子がおかしいと考助が気付いたからだった。
 別に何か傲慢な態度を取っていたわけでも、自分たちの強さを周囲に誇らしげに喧伝していたわけでもない。
 ただ、それでも考助の目を欺くことはできなかった。
 リクの中に小さく芽生えていたその感情に気付いた考助が、管理層に来ていたリクに不意に言ったのだ。
 最近リクの腕を見ていないからピーチと模擬戦でもしてみないか、と。
 リクもピーチの事はよく知っているので勝てるとは思っていなかったが、それでもいい勝負は出来るだろうと考えてその申し出を受けた。
 けれども結果は先ほどの通りだった。
 いい勝負どころか、どれほどの差があるのかも分からなかったのだ。
 完敗と言って良いだろう。

 苦笑していたリクは、ふとあることに気が付いてこの際だからと、フローリアに聞いてみることにした。
 以前から疑問に思っていたのだが、なんとなく聞く機会が無かったのだ。
「そういえば、ピーチ母様はどれくらいの強さなのでしょうか?」
 そのリクの問いに、フローリアは首を傾げた。
「さてな? いや、そんな顔をするな。別に隠しているわけではない。私も本当に知らないのだ」
「そうなんですか?」
「ああ。そもそもピーチの得意武器は、剣ではなく、短剣だということは聞いたことがあるな」
 そもそも管理層にいる限り、そうそう戦闘など起きない。
 だからといって怠けるようなメンバーではないため、ピーチに限らず他の面々もそれぞれの種族の下で継続して訓練したり技術を磨いたりしている。
 そのため、ほぼ管理層に入り浸っているフローリアには、他のメンバーがどれくらいの実力があるかは把握していない。
 ある程度分かっているのは、管理層で修行をしているシルヴィアくらいだろう。
 それにしても、巫女の実力を測る基準が不明なため、大まかなことしか分からないのだ。

 フローリアのその説明を聞いたリクは、目を瞬いた。
「よくそれで、何事もなく過ごせてきましたね」
 相手の実力、特に武力に関して全く気にせずに普段の生活をしていることが、リクにとっては信じがたい。
 ごく一般の戦闘経験を持たない人間同士であれば不思議ではないのだが、ある程度力があれば相手との距離を測るのは当然のことだ。
 勿論、一部にはバカみたいな突っかかり方をする輩もいるが、管理層にいるメンバーは間違ってもそんな愚かなことはしない。
 それ故に、リクの疑問も当然といえば当然なのだが、これには単純な理由がある。
「何をいっておる。管理層には、コウヒやミツキがいるのに、実力も何もないだろう?」
「・・・・・・あっ」
 今更ながらに思い出したような顔になったリクに、フローリアは呆れたような視線を向けた。
 圧倒的な実力を持つコウヒやミツキがいる以上、管理層で変な争いは起こらない。
 勿論、小さな喧嘩や小競り合いのようなことは起こるが、深刻な事態にはならない。
 今までコウヒやミツキが実力を示すような事態に発展したことは一度もないのだが、それでも最後には二人が控えているということが、管理層で暴力的な事態が起こることを防いでいるのは事実だった。

 フローリアから示されて、そのことを認識したリクは、改めて管理層にいるメンバーの異常さを理解した。
 フローリアもそうだが、メンバーのそれぞれがどこかでトップに立っていてもおかしくはない実力の持ち主たち。
 それが、管理層にいる女性メンバーなのである。
 そのことを再度認識したリクは、その出来過ぎた女性陣に囲まれている父親に対して、いろんな意味で尊敬の念を持つのであった。
リクも既に冒険者の中では一角の人物となっています。
当然のように若手のリーダー的存在になっています。
別に増長していたわけではありませんが、考助は微妙にその変化に気付いたというわけです。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ