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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 エルフの里

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(9)小さな奇跡

 セウリの森にある世界樹の麓で、考助は最後のチェックを行っていた。
 肝心の魔法陣が間違っていると、折角森の中に仕掛けたものが全て無駄になってしまう。
 考助が複雑に書かれた文様や置いてある素材の確認をしている中で、シオマラが不安そうな顔でそれを見ていた。
「本当に・・・・・・大丈夫なのでしょうか?」
 考助は作業に集中しているためその呟きには気付かなかったが、同じように作業を見守っていたシュレインにはきちんと届いた。
「不安かの?」
「・・・・・・これだけ複雑で巨大な魔法陣が本当に動くのか、貴方は心配ではないのですか?」
 シオマラの視線は、先ほどから魔法陣を捕らえて動かない。
 単純な大きさでもそうだが、様々な要素を詰め込んでいるように見えるその魔法陣は、普通に考えれば動くはずがない。
 それが常識なのだが、シュレインはその常識を吹き飛ばすように笑った。
「まあ、その心配は分からなくはないがの」
 シュレインとてヴァンパイアとして、魔法陣にはそれなりの自信があった。
 だが、そのシュレインでも考助の持つ知識や、それを起動する力、そしてなによりきちんと使える魔法陣を作れる発想力、全てにおいて敵わない。
 それは、考助が現人神になる前からそうだったのだ。
 シュレインにしてみれば、考助がその分野において神として認められたのは、大いに納得できることだったのである。
「まあ、きちんと見ておれ。コウスケが、なぜ現人神になれたのか。その一端がこの作業で見ることができるじゃろ」
 シュレインはそう言いながら、作業を続ける考助を目を細めて見つめるのであった。

 一通りの作業を終えた考助は、ひとつ頷いてからユッタに呼びかけた。
「ユッタ、ちょっといいでしょうか?」
「はいはい。どうしましたか?」
 あっさりと目の前に姿を現したユッタに驚くことなく、考助は魔法陣のとある一か所を指さした。
「あちらに立っていてもらってもいいですか?」
「構わないですが、私は本体ではないですよ?」
 考助のやりたいことを察して、ユッタはそういった。
 ユッタは力のある妖精であるが、あくまでも力の本体は世界樹そのものなのだ。
 今回、考助は世界樹の力を魔法陣に組み込もうと考えている。
 その場合、普通であれば、世界樹そのものを魔法陣の中に組み込まなければならないはずなのだ。
 そう思ってのユッタの言葉だったが、考助はあっさりと首を左右に振った。
「そうなんですが、ユッタは世界樹と繋がっている枝葉の一つのようなものでもあります。それならそれでやりようがあるんですよ」
「そうなんですか?」
 思わず、といった感じで驚きの表情を浮かべたユッタに、考助はひとつ頷いた。
「まあ、エセナがいたからこそ気付いたんですがね」
 もしいなければ気づけなかった、と続けた考助に、ユッタは呆れたようなため息を吐いた。
「普通は、それがわかっていてもやれるとは思えないんですが・・・・・・。取りあえず、魔法陣の神としての実力の一端を見せてもらいましょう」
「うわ。プレッシャー」
 からかうように言ったユッタに対して、考助も笑みを浮かべた。

 全ての作業を終えた考助は、一度魔法陣から離れて全体の確認を行った。
 そこで今一度間違いがないことを確認してから、ユッタへと視線を向けた。
「それじゃあ始めますが、いいでしょうか?」
「私はここに立っているだけで大丈夫ですか?」
「はい。特に何かしてもらう必要はありません。あっ、魔法陣が発動した際に、力が奪われますが、さほど多くはないはずです」
 考助の説明に、ユッタが頷いた。
「わかりました」
「それじゃあ、始めます」
 考助はそう宣言すると、ぶつぶつと呪文を唱え始めた。
 何度も使っている魔法陣であれば、呪文を唱えなくてもいいのだが、今回は初めてなのに加えて、特殊なものも色々と混じっている。
 流石に詠唱を破棄するわけにはいかないのである。

 他の者たちの注目を集める中、呪文を唱える考助の右手が輝きだした。
 そして、呪文を唱え終えた考助がその右手を魔法陣の縁へと置くと同時に、地面の上で光っていた魔法陣が二つに分かれて、一つがそのまま上にせりあがって来た。
「きゃっ!?」
 それと同時に、ユッタが短い悲鳴を上げた。
 思った以上に力を持っていかれて驚いたのだ。
 だが、考助から事前に聞いていたため、倒れ込むようなことは無かった。
 光り輝く魔法陣は、やがて遥か上空まで浮かび上がり、世界樹と同じ高さにまで上がると、その中心を世界樹の頂点に合わせるように移動した。
 そして、世界樹の頂点と魔法陣の中心が合わさると同時に、魔法陣が崩れて一度一つの大きな光の塊になり、そこからいくつかの小さな光の塊になった。
 その小さな光の塊は、その場に留まらずにすぐにセウリの森の各所に散らばっていく。
 それらの小さな光の塊が去った後は、魔法陣の光りの残滓が世界樹に降り注いでいくように見えた。
 傍から見ていれば、それはとても神秘的な光景だった。

 それらの全ての工程を見守っていた考助は、満足げに頷いた。
「よしよし。上手くいったかな? ユッタ、どうですか?」
「えーと・・・・・・。ちょっと待ってください。今、確認しますので・・・・・・。ああ、大丈夫そうですね」
 目を瞑って、森全体の様子を確認したユッタは、うまくいっていることを確認して大きく頷いた。
 これで、本来の結界が働くまでは、十分に動いてくれることも分かった。
 世界樹の麓には、先ほどまで考助が作業を行っていた魔法陣が光り輝いている。
 あとは、この魔法陣が壊れないように維持をして行けばいい。
「良かった。というわけですから、シオマラさん、メンテナンスに関してはお任せしますよ?」
「えっ!? あっ、は、はい!」
 考助の確認に、シオマラは慌てて返事を返した。
 その様子に考助は首を傾げて、そのまま魔法陣の確認を始めるのであった。

 その考助を呆然と見ていたシオマラは、クツクツという笑い声に気が付いた。
 その笑い声はシュレインのものだった。
「だから言ったであろう?」
「ですが、あれは・・・・・・」
「コウスケにとっては、今くらいの魔法陣は何ということはない。現人神になるということは、そういうことだの」
 そう言い放ったシュレインに、シオマラは少しだけ黙り込み、やがてため息を吐いた。
「・・・・・・私の認識が甘かったということでしょうか」
「さての? 吾は其方の認識がどの程度かはわからんからの」
 何とも言えんの、と続けたシュレインは、それ以上はシオマラに何も言わず、視線を考助へと向けるのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 考助が起こした小さな奇跡は、エルフたちがいる里でも確認できた。
 まず最初に気付いたのは、さすがエルフというべきか、世界樹の姿が見えたことだった。
 その事に最初に気付いたエルフが「おい、あれ!」と世界樹を指して、他のエルフたちも気づいていった。
 その姿を見たエルフの中には、跪く者さえいた。
 何しろ里にいる年寄りでさえ、本来の世界樹の姿を見た者はいないのだ。
 天を貫くような巨木に、エルフたちは圧倒されていた。
 そして、世界樹の姿が現れると同時に、同じくらい目を引くものが現れた。
 勿論、考助が作った魔法陣だ。
 その魔法陣が浮き上がり、最後には光となって世界樹の周辺に散って行く様は、エルフたちにとってみれば、まさしく奇跡といえた。
 同時に、ここ数日里で話題になっていた件が無事に解決したことも理解できた。
 エルフたちの間に笑顔が広がっていく様子を見ていたロマナは、やがて以前と同じように姿を消した世界樹の方を見ながら、
「現人神、か」
 と呟いていた。
 だが、喜びに包まれている里の喧騒で、その呟きを拾う者は誰もいなかったのであった。
久しぶりに考助が見せ場を作りましたw
今回は奇跡と書きましたが、神の権能ともいえますね。
図らずも考助がその実力をエルフたちに見せつけた、というわけです。
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